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目標、劇場《プリズン》

 コグレが通信機に叫ぶ。

「よし、みんな聞いてくれ。今回の作戦は、我々人類の命運を賭けた最後の戦いになる。『コーダ』まで、もう時間がない。その上、P.U.P.P.E.T本部は壊滅、我々最後の砦だった劇場(プリズン)が敵の手に落ちている」

 コグレの目前に、劇場(プリズン)が映し出される。幾重にも鉄骨が球状に取り巻いた巨大な建造物。その周囲には、『不変閉空間』が取り巻いており、難攻不落であることが物語られる。

「P.U.P.P.E.T、および国連部隊は壊滅状態だ。そこで、『元老院セナート』兵が協力してくれることになった。その数、三千。今回の目標は、おそらく劇場(プリズン)最深部にいるであろう『ゼルペンティーナ』の抹殺だ。したがって、P.U.P.P.E.Tの精鋭部隊を先行させ、他は劇場(プリズン)の『エピゴノイ』を邀え撃つ。大半の相手主力勢は、ゲートごと封鎖されているため、問題はない」

 ログフェローが、劇場(プリズン)の前に立っている。国連の残存兵力と『元老院セナート』兵合わせ、四千。内部にいる兵数はわからない。

 ずらりと劇場(プリズン)を取り囲む白を基調とした装甲を身に纏った『元老院セナート』兵と、その他のP.U.P.P.E.T、国連兵という構図。

 傍らにいたホプキンスがログフェローに話しかける。

「おい、傷の方は大丈夫なのか?」

 ログフェローは頷いた。

「こんな時に、寝ていられん」

「確かにな」

 ホプキンスは同意した。

「しかし、クロヲよゥ、てめェはそれでいいのか?」

 マサムネは、ポーカーフェイスのクロヲに噛み付いていた。

「ああ。任務は絶対だ。やるしかないだろ」

 晴れやかな笑顔で語るクロヲに、マサムネは、怒りに震える拳を向ける。

「ま、マサムネさん。止しましょうよ!」

 仁赫がマサムネの肩に手を置いた。

「触るな」

 だが、猛烈な勢いでマサムネはその手を振り払う。

「俺ァ、許せねェんだよ。てめェの女を殺しに行くってのに、晴れやかにいるってのがよゥ!」

「マサムネさん、止しましょうって!」

「仁赫! てめェは何も思わねェのか!」

 宥めようとする仁赫をマサムネは怒鳴りつけた。

 仁赫は、無理に作っていた笑顔を解き、マサムネの目を見た。

「マサムネさん、俺もしんどいですよ、正直。ずうっと一緒に戦ってきたスラヴァさんは、跡形もなくなって消えたって聞いて。同期で一緒にやってきたアーノルドはP.U.P.P.E.T本部で行方不明。ジョンソンも、ハーティも、アダムもみんな死んだ。でも、それでも俺たちは戦います。生きている仲間のために。そして、死んだ仲間のために。

 董晶ドンジンさんには俺も随分お世話になりました。辛いですよ、俺たちだって! でもクロヲさんだって、辛くないわけがないでしょう!」

 クロヲは相変わらずのポーカーフェイスだ。ほんとうの気持ちなんか、これっぽっちも見えない。

 だが、マサムネは焦っていて気づかなかったのだ。クロヲが心の中では、逃げ出したかったことに。最愛の人を殺したいはずなど、ないことに。

 マサムネはクロヲの様子を見て、後悔した。だが、クロヲはそんなことを感せず、口を開いた。

「マサムネさん。俺たちは戦人プロンプターだ。戦人プロンプターには暗黙の了解がある。戦人プロンプター同士、心を通わすな。何故かって言えば、いつ殺し合うかも、そしていつお互いが散るかも判らないからだ。だから、戦人プロンプターとして慣れれば慣れるだけ、相手を同じ人間として認識しなくなっていく。

 でも、それでもだ。俺は人間でありたいと思っている。人間である俺は震えてる。でもな、それでもやらなきゃならない以上、俺はやるよ。それだけだ」

「悪かった。お前がやるなら、俺は背中を押してやる。だが、選択するのはお前だ。お前がどんな選択をしても、少なくとも俺ァ、何も言わねェ。それだけは忘れないでおいでくれ」

 クロヲは、マサムネの言葉に敬礼をした。そして、マサムネも敬礼を返した。仁赫も、ホプキンスもログフェローも敬礼をし始め、やがてあらゆる人間がクロヲに敬礼した。

 そして、マサムネが一喝する。

「よォし、てめェら! 『エピゴノイ』に俺たちの力を見せてやろうぜ! 一天地六の賽子の目は、出されて見なきゃ判らねェ。もう賽子は振られちまったンだ、鬼が出ようが蛇が出ようが、四の五の言わず、戦ろうぜ!」

「おお!」

 一同は吠えた。

 そして、コグレが告げる。

「それじゃ、突入開始!」

 そして、決戦の火蓋が切って落とされた。四千の兵は、一斉に劇場(プリズン)の中へと雪崩れ込んだ。そして、それを迎え撃つ敵も、無数。

 『青い炎(ブルークリフ)』が闇に光り、煉獄の炎のごとく燃えさかる。

「クロヲ、行けェ!」

 マサムネの叫びと共に、クロヲは駆ける。目の前にはおびただしい数の『エピゴノイ』たち。一階のフロアを埋め尽くさんばかりに、蠢いている。

 そして、クロヲは翔ぶ。高く、高く、飛び上がる。そして、黒い潮流を轟かせ、自らの全身を覆うほどにまで勢いを増すなり、拳を叩き付けた。

 途端、黒い潮流は『エピゴノイ』の中心に当たり、周囲すべての敵を無へと返していく。だが、それにもめげず、『エピゴノイ』はさらに襲い来る。

 さながら、青い火の洪水のように、すべてを消し去らんと襲いかかる。その集団の前に立ちはだかる男一人。

 だが、その男も洪水の中へと飲み込まれていく。為す術もなく。

「マサムネェェ!」

 ログフェローの必死の叫びも届かない。

 さすがにマサムネと言えど、渾身の一太刀を浴びせなければ、確実に倒せない『エピゴノイ』をあれだけ相手にすれば、結果は知れたもの。青い洪水のごとく押し寄せる『エピゴノイ』を、ログフェローは恨めしく見つめた。

 その時である。

 『エピゴノイ』の青い群れの中を、紅い斬撃が躍る。何重にも撃たれ、その一撃一撃は、天をも貫かんとばかりに建物の破片と共に放たれ、その度にパッと劇場(プリズン)が朱に染まる。青い洪水を切り裂く、一筋の紅い流星の如く、マサムネは大きな爆炎と共に『エピゴノイ』の群れを突き破った。

「舐めるンじゃねェ!!」

 爆風は辺り一帯を巻き込み、数百程の『エピゴノイ』を弾き飛ばした。

「あの剣、『春風駘蕩』は、反物質を畜える事も可能な筈だ。その爆発力で、どうにか倒したってぇ寸法か。しかし、図抜けた威力だぜ」

 ホプキンスは思わず叫んでいた。

 その爆発は、尋常の物ではなく、マサムネをびっしりと取り囲んでいた『エピゴノイ』の群れの内、直撃を受けた物は『青い炎(ブルークリフ)』の展開をしたにも関らず、その悉くが叩き割られ、爆破されていた。

 そして、吹き飛ばされた『エピゴノイ』を尻目に、マサムネは駆ける。クロヲを先に行かせるため、斬れる敵はすべて斬る。遮る『エピゴノイ』の数、無数。紅い大剣、『春風駘蕩』を翻し、マサムネは駆ける。

 襲い来る『エピゴノイ』の一体一体を、正面切って叩き斬る。横に流した斬撃で、真っ二つになった上、その斬り口は紅く焼け爛れている。そして、息つく間も無く、剣が縦横無尽に薙ぎ払われる。

 一刀たりとも力の入らぬ剣は無く、その悉く全てが必殺、渾身の剣。触れた『エピゴノイ』は、その全てが真っ二つに断ち切られる。

「……強い! 強い! 強い! これほどまでに、マサムネさんは強かったのか!」

 仁赫は驚きを隠せない。

 本部を集団で襲い、あれほどまでに猛威を振るった『エピゴノイ』だったが、今のマサムネを向かい討てば、木端の如く切り刻まれる。紅い剣嵐が、一路疾走する。

退()けェ!」

 襲い来る『エピゴノイ』など、物ともしない。大剣が一度振るわれれば、塵の如く『エピゴノイ』は倒れた。

「我々も続くぞ!」

 ログフェローは、剣を構える。彼の愛剣は抜き放つなり、五倍ほどに膨れあがり、それを振るう。

 図抜けた大きさの剣で薙がれると、斬撃は大蛇の如く、『エピゴノイ』をことごとく消滅させていく。

 そして、オリュンピアも駆けていた。すさまじいほどの剣閃がそこかしこで煌めき、『エピゴノイ』を雲霞の如く蹴散らしていく。

「クロヲ、行けェ!」

 背後からはホプキンスと仁赫、そして『元老院セナート』兵の猛攻が、『エピゴノイ』たちを飲み込んでいく。

 クロヲは、そのただ中を駆け抜ける。目的のために。

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