かぼちゃのそぼろ煮
「おう」
ホプキンスは疲れた様子のマサムネに話しかけた。
ホプキンスは劇場防衛後、合流するため『エンバディ』で転送し、本部を防衛していた面々と同じ場所に来ていた。そして、マサムネの影を見つけたのである。
マサムネに、既に董晶がどうだったかの状況は伝えられている。恐らく事務的にだ。P.U.P.P.E.Tもそうだが、国連自体も大混乱の状況で、それどころではないのだろう。
とはいえ、マサムネはホプキンスの問いかけに、いつもより若干弱い笑みを浮かべながら、手を上げて応じた。
ホプキンスは、その横に座り込む。切り出す言葉がない。
重い沈黙が覆う。ドッグタグもない。でも、言葉は伝えなければならない。
「奴は、最期どうしてた……?」
マサムネは薄い笑みを浮かべながら、ホプキンスに尋ねた。
「どうもしねぇさ。ゲート封鎖って段になって、もうゲート前に生きてる兵なんか数えるほどもいねぇ状態で、董晶は『エンバディ』で壁作ってよ。みんな逃がした」
「そっか」
ホプキンスは特に感情を込めず、淡々と語る。こんなことは、いつものことだ。
「マサムネ、お前が買った趣味の悪い絵の裏に、金を隠してあるそうだ」
マサムネは苦笑した。
「レプリカなんだがね、ルノワールの青衣の女って絵があってさ。俺ァ、董晶が青好きだったから買ってきたら、趣味が悪い、って言われてよ。でも気付いてたよ、その金は。全部呑んじまった」
「あと、かぼちゃのそぼろ煮を食え、とさ」
マサムネは言葉を濁した。
「俺、インゲンがダメでさ。インゲン入れるなってのに、いっつも何にでもインゲン入れるんだ。アイツ。かぼちゃのそぼろ煮の中に、どこにインゲン入れる余地あるんだよ。ねェだろ。おかしいだろ。でも、入れやがるんだ、アイツ……」
マサムネは顔を両手で覆った。
「それと『権利のための闘争』の中に、手紙が挟んであるそうだ」
マサムネから返答はなかった。
「気を落とすな。まだ死んだと決まったわけじゃ……」
「封鎖っつーのは、過去に七回あって、未だに一回こっきりも解かれてねェ。知ってるでしょ、そんなこと」
顔を両手に埋めながら、マサムネは言った。
「嫌な役回りさせちまったなァ、悪かったスね」
溢れてきた涙を拭い、無理に笑顔を作りながら、マサムネは言った。
「いや。思い詰めすぎるなよ」
そして、ホプキンスはその場を後にした。啜り泣くような声が後ろから響きはじめた。