戦の幕引き
時を同じくして、P.U.P.P.E.T本部の円卓に座っていた面々は、ある決断を下した。コグレが呟く。
「P.U.P.P.E.T本部、おっと、ひょうたん爆破のタイミングです。連中、ようやっとこの本部にほぼすべて、這い出てきてくれました」
白 鴻凱もそれに答える。
「劇場の方も設置準備、および劇場前ゲートからの撤収、完了したようです」
こちらは一人の戦人を犠牲にしての撤収作業だったが、もちろんおくびにも出ない。
スパランツァーニがそれに、苦虫を噛み潰したような表情で返した。
「じゃあ、同時に進めよう。我々が『エンバディ』で転送される先はどこかね」
コグレが返す。
「国保有の廃校だそうです。まあ、しょうがないでしょうな」
スパランツァーニはまたも苦い顔をしてみせたが、頷いてみせた。
「では、特異点兵器投下、および我々の転送、そして劇場の不変閉空間発生装置起動を行います。あ、うん。ぼく。やっちゃって、今すぐ」
次の瞬間、P.U.P.P.E.T本部にいて、人間として識別できる人員すべては、上位の『繋脳者』の『エンバディ』により、ここから数キロ離れた廃校へと転送された。おおよそ清掃が行き届いているとは言い難い場所だったが、文句を言っていられる状況ではない。
そして、ほとんど間を置かず、上空に駐留していた飛行機が、一発の爆弾を投下した。
それは、特異点兵器と呼ばれる特殊な兵器だった。
特異点兵器とは、恐らく破壊力では核に引けを取らず、尚且つ危険性ではそれ以上という兵器である。
シュバルツシルト半径内にある物全てを吸い込む、ブラックホールの中心に位置する特異点。簡単に言ってしまえば、光速以上の速度を出さない限り、吸い込まれ消滅させられてしまうので、特異点からは逃げる術がない。その特異点を、ヒッグス粒子にかける磁場の量を上げ、臨界にまで高めると、擬似的にだが作り出す事が可能である。特異点兵器が対象物と衝突し、擬似特異点が発生すると同時に、周囲にヒッグス粒子が撒き散らされ、数ナノ秒後には特異点を消失させる。おまけにかける磁場によって任意のシュバルツシルト半径を指定でき、大変使いやすそうに一見見える。
だが、安全装置としての特異点消失が機能しなければ、星をも滅ぼす最悪の事態が考えられる。無闇に使うようなことは、してはならないのだ。
だが、その威力は折り紙付きである。数ナノ秒後、元P.U.P.P.E.T本部があった場所には、巨人がスプーンで抉ったようなクレーターが穿たれた。『エピゴノイ』含め、何もかもが消滅した。
そして、ほぼ同時にその瞬間、劇場ゲート、そして劇場自体も封鎖された。劇場ゲートはエリア封鎖され、その瞬間、半恒久的に該当エリアは破棄された。劇場もさらにその処置さえ向こうだった場合の安全策として、不変閉空間で全てをすっぽりと覆われた。
こうして、尊い犠牲をいくつも払いながら、P.U.P.P.E.T本部、そして劇場を襲った『エピゴノイ』に対する掃討作戦は、甚大な被害を払いつつ終結した。