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防衛戦線

 上が元々の方針をスパランツァーニに呑ませていたそんな時、劇場(プリズン)防衛の面々は阿鼻叫喚の地獄絵図の中にいた。

 劇場(プリズン)前のゲートは、幾層にも『タイダルフォース』による障壁を展開することで『エピゴノイ』の侵入を防ぎ、その障壁を壁に遠距離戦闘を重ねるという一種の泥仕合が行われていた。『繋脳者マリオネット』兵は的確に『エピゴノイ』を撃ち抜き、確かに善戦してはいたものの、『エピゴノイ』側が雨あられと撃たれる『エンバディ』を突破し、『タイダルフォース』を破壊後、こちら側に近接戦闘を強いられると、途端瓦解し、後退するという状況を繰り返していた。ジリ貧だ。そんな前線の一角に、ウェンディと董晶ドンジン、ホプキンス、スラヴァたちもいた。

「やれやれ、ひどいモンだ、増援は来ないのか?」

 ホプキンスは傍らに倒れていた『エピゴノイ』の死体を退け、『タイダルフォース』相当の貫通力を持った銃を撃ち鳴らす。

 『ビショップ』の『機殻兵(ドール)』であるホプキンスは、『機殻兵(ドール)』であっても遠隔を撃ち抜くことができる。遠隔にいた『エピゴノイ』は頭蓋を貫通され、一瞬全身を硬直させた後、倒れ伏した。だが、それはもちろん氷山の一角で、後ろにも見渡す限りが『エピゴノイ』という状況である。相手側に対し高台を確保し、幾重にも壁があったとしても、あれだけの数を相手にしては、到底勝ち目はない。

「敵は第一波だけでも二万五千だそうで。はっきり言って、第一波だけでも何層後退したのか……。これで二十万相手は誰がどう考えたって……」

 スラヴァは『エンバディ』で広範囲を焼き尽くした直後、そう口を開いた。高台から見下ろすと、ぱっと見すべての範囲に『エピゴノイ』特有の『青い炎(ブルークリフ)』が散り、遠目にはかなり栄えている夜の街のような状況である。

 だが、これが二万五千の兵が展開しているのを表す光なのだ。

 スラヴァが『繋脳者マリオネット』としても優秀な腕を持っていても、この戦場の状況を見れば殲滅が如何に難しいかは実感として理解できる。

「弱音を吐くな、スラヴァ。必ず手はある。考えろ」

 ホプキンスがまたも数体の『エピゴノイ』を撃ち殺し、言った。彼としても焼け石に水であることは理解した上でそう言っている。

 眼下に、盛大な氷の柱が舞う。五十ほどの『エピゴノイ』が巻き込まれ粉砕された。

「ウェンディ、上は? ログフェローはなんて言ってるんだ?」

 董晶ドンジンが『エンバディ』で氷の柱を舞わせたあと、ウェンディに話しかける。

「準備が整い次第全軍撤退して、劇場(プリズン)ごと封鎖だってさ。例の、あたしたちが持ってきた機材で」

 ホプキンスが尋ねる。

「不変閉空間とかいうので封じ込めっていうアレか。大丈夫なのか?」

 ウェンディは肩を竦めた。

「どっちかといえば、仁赫がどれだけ早く機材設置できるかにかかってる、ってわけよ。結果的に搬入だけでもゴリ押ししておいてまだ良かった、って捉えるしかないわ」

 スラヴァが嘆く。

「当初の話では、午前中には設置も終わってる予定だったんですがね。上にも話通し終わってるっていうから安心して来てみたら、あんな体たらくで。上の考えは読めません」

 ホプキンスが嘯く。

「読めねぇって話なら、上じゃなくて相手の作戦も読めねぇ。確かに相手方は有利に押してるが、結局は数頼み。このまま何の考えもなしに敵が動くとは到底思えねぇな」

 董晶ドンジンがぎょっとした声をあげる。

「ちょっと、ヘンなこと言いっこなしだぜ」

「いずれにせよ、注意するに越したことはねぇ」

 ホプキンスの重い声が、彼の撃ち鳴らす銃声と共に皆の耳を打った。

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