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劇場《プリズン》ゲート防衛

 P.U.P.P.E.T本部ゲート崩壊、そして、四万の大軍。その情報は即座に劇場(プリズン)防衛のログフェローの耳にも届いていた。

 同時に、さらに状況は悪化していることを認識した。

 一方、董晶ドンジンやウェンディは、未だ開かぬゲートの前で立ち往生を強いられていた。だが、突如としてバリケードを組んでいた兵の動きが変わる。一目散にその場を離れ、ウェンディたちが来たゲートの方へと向かっていく。あくまでも実質的な警備というよりも、P.U.P.P.E.T、つまりは白派に対する威嚇の意味でのバリケードが解かれる。これは、確実に状況の劇的な変化を意味するものだった。

 引き上げ作業を行う兵の一人を捕まえ、ウェンディは問いただした。

「いったい、何があったって言うの?」

劇場(プリズン)ゲートに、二十万の『エピゴノイ』が向かってるって話ですよ。なんでも、P.U.P.P.E.T本部側のゲートは陥落されたみたいで、総出で劇場(プリズン)ゲートを死守するよう厳命が下って。悪いですが、私たちも向かいますので」

 さらに問おうとしたウェンディに向かい、敬礼をすると兵は即刻劇場(プリズン)ゲートへ向かう。

「どういうことですかい、姐さん……」

 赤坊主、スラヴァが董晶ドンジンに尋ねる。

「わかるかい! P.U.P.P.E.T本部が落ちそうだ、ってことだろ要は」

「おまけにこっちには二十万。どこまで保たせられるのか、見えないね」

 董晶ドンジンは首を振った。

「保つ? 何言ってんだい、彼我勢力差はざっと見ても百対一。その上、P.U.P.P.E.T本部ゲートは『第四の壁』が崩壊しているわけだろ。二点同時に破壊されたら、『コデッタ』で済まないよ!」

 ニット帽を被ったホプキンスが苦虫を噛み潰したような顔で言った。

「『コーダ』が起こっちまうってのかよ。『エピゴノイ』の手によって」

 かつて、この地で『コデッタ』が起きた。その場にはウェンディもいた。たとえ任務だったとしても、長年慣れ親しんだ土地が、根こそぎ消え失せたという事実には、目を背けたい。そして、それがこの場で再び起ころうとしている。ウェンディは内側からこみ上げる思いを抑えきれなかった。

 その時、ジープの通信端末に通信が入った。何気なくウェンディは通信端末を手に取る。

「国連軍所属、ログフェロー・トゥエーンだ。P.U.P.P.E.T側の、現在の現場指揮官はウェンディ、あなたで良いか?」

 硬質な声。いかにも軍人然とした声だ。P.U.P.P.E.Tはどちらかといえば成り立ちからフリーの戦人プロンプターを使っているため、こういった生え抜きの軍人はなかなかいない。

 通信内容は他の面子にも聞こえているが、全員がどうぞあなたで結構です、というジェスチャーを取った。面倒事に巻き込まれたくない、という腹づもりらしい。

「私で結構だ。それで、この場での最高指揮権を持つログフェロー殿が、何の用だろうか」

「三十分ほど前、P.U.P.P.E.T本部側ゲートが陥落したそうだ。その上、敵兵力はおおよそ四万。対するP.U.P.P.E.T本部を警備する兵は約千三百。どうにか奮闘しているそうだが、かなりの被害が出ているそうだ」

 P.U.P.P.E.Tの面々にも緊張が走る。尋常な状態ではない。

「それで?」

 ウェンディの相槌にログフェローは涼しい声で続ける。

「そして、それと呼応するかのように、劇場(プリズン)ゲートに向けて、『エピゴノイ』大隊の展開が確認された。総数約二十万。P.U.P.P.E.T本部ゲートの陥落を受けて、劇場(プリズン)防衛の兵全てをゲート警備に回し、さらにゲートの『第四の壁』の強度を最大まで上げることで、現実世界に出さないのが我々の作戦内容だ。第一波到達まで、もう時間がない。P.U.P.P.E.Tの協力を願いたい」

 本来、現場レベルで協力を乞うなど、越権行為に等しい。だが、本部がそんな状況で、上を通す手間を惜しむのはわかる。

「了解。こちらに展開しているP.U.P.P.E.T八百余名は、現時点をもってそちらの指揮下に入れて頂いて結構」

「迅速な対応、感謝する」

 そこで、ウェンディはさらに続ける。

「それで、物は相談なんだけれど、P.U.P.P.E.Tの一部を、劇場(プリズン)に入れてもらっていいかしら」

 通信端末の向こう側から、沈黙による戸惑いが透けて見える。

「わかっていると思うが、搬入だけでも……」

 ログフェローが切り出した言葉を遮り、ウェンディは続ける。

「搬入もうちの人間が、アンタにゴリ押しして、無理矢理入れたのも理解するわ。まあ、大仰なバリケードを張った理由の大半が、P.U.P.P.E.Tの人間を劇場(プリズン)内に立ち入らせたくない、というところなんでしょうけど」

 通信端末は沈黙したままだ。肯定、と見て良いのだろう。

「別にあなたに無理言って、責任取らせたいってのがこっちの目的じゃない。あたしたちだって、生き残りたいのよ。そして、そのプランの一つが、劇場(プリズン)への機材の設置なのよ」

「……お互い、これから呉越同舟し、死力を尽くそうというときに遺恨は残したくない。ただし、機材設置だけだ。こちら側の人間も一緒に入らせてもらうぞ」

 ウェンディは指を鳴らした。

「もちろん、問題ないわ。じゃあ、すぐにこちらの人間を劇場(プリズン)に入れさせていただきます。以外の八百余名は、以後行動を共にさせていただきます!」

「ああ。作戦プランは直接話す。まずは劇場(プリズン)ゲート付近に来てくれ」

 通信は切れた。

「ということで、仁赫、悪いけれど劇場(プリズン)内部に行って頂戴。他の人間は劇場(プリズン)ゲートに向かうわよ。急いで」

「了解」

 仁赫だけは、どうにも意欲に欠ける返答だった。

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