すいぞっかん
水族館のこと、すいぞっかんって言ったりしませんか?
「やっぱりいやだ」
朝からめんどくさい。一体なんで男とデートしなきゃいけないんだ。
「まぁまぁ、僕に任せて着いてきなよ。優奈ちゃんの時間は無駄にさせないから」
そう。俺は今から吉良とデートにいくことになってしまっている。
ことの発端は吉良の「ねぇ、優奈ちゃん!明日あいてるかな?デートしようよ!」という突然のお誘いから始まり、それに対してサキュバスが「うん、いいよ!」と言ったことで今に至る。
本当に行きたくないので待ち合わせ場所なんかいかずに、家で寝てようと思ったら、待ち合わせ時刻より前に俺の家まで吉良がきやがった。そもそもデートにいきたくないということを置いておいて考えても迷惑だ。
「待ちきれなくて着ちゃったよ」と微笑むその笑顔には恐怖すら感じたよ。
ちなみに居留守を試みたけど、姉ちゃんに引っ張り出されて、きちんとメイクまでされて叩き出された。
「で、どこにいくんだよ」
「なんだかんだでついてきてくれるんだよね~」
「うるさい」
あぁ、めんどくさい。なんか吉良の手のひらの上で転がされている感じがとても不愉快だ。
「まぁまぁ、落ち着いて。今日はちょっとばかり遠出をするよ」
えー、いやだよけいにいきたくなくなったぞ。休日くらいゆっくり寝たい
「今日は水族館でデートをします」
吉良が人差し指を真上にピンとたてて宣言する
水族館かー、うん、水族館ね。まぁ、いいんじゃない?
「ま、そこまでいうなら連れて行かれてあげなくもないけど」
「素直じゃないな~、優奈ちゃん、結構水族館とか好きなんでしょ」
ぐはっ!なぜわかったこいつ!そうだ。俺は基本水族館とか動物園が大好きだ。
ちなみに虫は無理だ。克服しようと昆虫館にいったら失神しかけたという黒歴史があるので絶対に虫系はいやだ。
ゴキ様はもちろんのごとくクモとかも無理だ。撃退係は姉ちゃんです。しっかり駆逐してくれるよ。
今から行く水族館は電車で一時間くらいかかる所にあるんだけど、結構デカいらしい。俺はそこには行ったことがないので全くわからない。
吉良はわざわざ下見にまで行ったらしい。なんというか、ご苦労なことだな。でも、ぶっつけで連れて行かないあたり誠意がある。水族館以外にも候補はあったんだとか。
さすが学年トップといったところか、準備にそつがない。
友達と遊ぶときも事前に調べておいたところを勧めるらしい。
「混んでるな」
休日だというのに、朝の通勤時間だからか(そんだけ早くに吉良迎えにきたんだよ、チクショー!)電車が混んでいる。残念ながら座れなかった。
「まぁ、二十分くらい我慢すれば空いてくると思うよ。立たせっぱなしでごめんね」吉良がニコニコしながら謝ってくる。本当に謝罪する気持ちはあるのだろうか。
ちなみに今、俺はドアにもたれかかっている。吉良はそれを覆うように向かい合わせで立っている。
自分の彼女を痴漢等から守るためにこうしてたっているんだよ感がハンパない。絶対狙ってこの時間帯選んだだろ。
「吉良近い」
「優奈ちゃんを害から守ってるんだよ」
ほらやっぱり。しかし腹立つな!
「絶対俺に触れるなよ」
「電車は揺れるからね~、保証はできないかな」
怖い。揺れたーとか言いながらボディータッチしてきそうで怖い。
ってなんでそんなことに敏感になってるんだよ俺!
しかし、電車の中って暇だな。立ちっぱなしだし、誰かと話そうにもいやな顔でみられるしそもそも吉良となんか話したくないし。
_____
「優奈ちゃん、モンブラン飛んでっちゃうよ」
それはだめだぁぁ!
「って、あれ?」
俺のモンブランは何処へ?
「おはよう、優奈ちゃん。そろそろ着くよ」
頭上から吉良の声が聞こえる。どうやら寝てしまっていたらしい。あれ、俺満員電車でたってなかったっけ
「立ったまま寝ちゃったから、席が空いたときに座らせておいたよ。」
「って、うぉい!」
今更ながら自分が吉良に寄りかかっていたことに気づく。かたに頭乗せて眠るとか、付き合ってるみたいじゃないか!(付き合ってるけども!)
「あ、寄りかかってきたのは優奈ちゃんだからね。決して僕からは触れてないよ、念のために言っておくけど」
うっ、嘘だ!たとえ寝ていても俺がそんな失敗するわけがない!
「あはは、さぁ降りる駅だよ」
俺がのんきに寝ている間も気を抜かず起こしてくれたことはありがたいが、そもそも吉良があんな朝はやくにこなけりゃ居眠りなんかしなかったはずなのでお礼は言わない、言うもんかっ!
「すいぞっかんきたぁぁー!」
テンション上がるなぁ。電車暇だったからね。
「まぁまぁ、落ち着いて」
「とりあえずサメだぁ!サメ!」
吉良がなんか言ってるけど気にしない。
とりあえずデカいやつみにいくぞ!デカさ、それすなわち強さのあかし!
正直走ってでも見に行きたいところだが、残念ながら姉ちゃんに着せられた服や靴が吉良を撒くには向いていないのであきらめる。くそっ!
「はいはい落ち着こうね。じゃあご希望のサメたちを見に行こうか」
「おー、デカいってやっぱりいいわ」
巨大な水槽を前にして心を踊らせる。サメはもちろんのことエイやそのほか群になって泳ぐ魚達が視界いっぱいに広がっているからだ。
「あー、デカいのに可愛いんだよなーこいつめ」
「あははっ、確かにかわいい顔してるね」
「そうそう。ちょっと間抜けな感じのこの顔がたまらないよね」
と、魚達のおかげ(せいで)すこし吉良と打ち解けてしまいながら館内を見て回る。
「熱帯魚といえばクマノミちゃんたちだよなー、でもイソギンチャクは気持ち悪い」
「僕はツノダシのしましま具合が好きかな、なんかかっこいいしね」
「その感じ俺もわかるかっこいいよな!」いや、さっきはデカいデカいいってたけどさ、やっぱり小さい方が可愛かったりもするわけで、小さい魚がちょこまかと水槽を動き回るのはとても愛らしい。
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今日は優奈ちゃんと水族館デートにきた。どうやら僕の読みはあたったようで優奈ちゃんは大はしゃぎだ。
高校生の割に子供っぽい…っていうか無邪気だなとか思いつつ僕自身も楽しみながら海の生き物たちを見て回る。
「おい!吉良、イルカショーだ!こいつを見逃すわけにはいかないぞ!」
「はいはい、わかったよ」
楽しそうで何よりだ。僕もそこのところは嬉しい。
がしかし、手をつなぐ暇もないんだけど!
前に一度繋いでいるからハードルは低いはずなんだ。今回は『迷子になるよ』という名目で巧みに手をつなごうとしているのだが、見事にスルーされる。
目の前の魚達に夢中でこっちの話を聞いてくれない!
でも、「カメって泳いでる姿も優雅だけど、地面をゆっくり移動しているのもほほえましくていいよね」「それわかる!飛ぶように泳ぐ姿は神秘的だけど、陸でのおぼつかない歩みもたまらないよな!」って感じでコメントにはしっかり反応してくれる。
ま、なんだかんだでどっちにしろ可愛いと思っちゃうんだけどね
「あぅー、イルカ可愛いなぁ、しかも跳ぶし。やっぱりテンションあがるぅ!」
興奮しながら食い入るようにショーを見る彼女。
素直じゃないけど、この子といるとやっぱり楽しいなって思える
_____
「あー、楽しかった!」
結構早くから水族館にいたが、いざ、外にでると空が赤くなりつつあった。
「そうだね。思ったより長いこと楽しめたなぁ、次のデートは動物園とかがいいかな?優奈ちゃん、そっちも好きそうだし」
「いいじゃん、パンダ見にいこうぜパンダ!」
もう正直に言うと朝のような吉良への嫌悪感はなくなった。デートって響きは気にくわないけど、こいつと遊ぶのは結構たのしい。
情報通なので、こいつが勧めるとこは失敗がないんじゃないか?
「水族館帰りになんだけど、海でもみて帰らない?心が落ち着くんじゃないかな、ここら辺の海はとてもきれいだしね」
「おう、いいんじゃね?」
せっかくなので誘いにのる。てか、帰りかたもなにもしらないしな。
オレンジ色の太陽が海の中に沈みゆく。海をみるとなぜか安心するのは俺達を含む地球上の生命全てが、もとは海から生まれてきたものであるからなのだろうか。
なんてへんなことを考えつつ海を見つめる。なんてゆーか、悪くないよな。
海っていうと夏ってかんじがするけど、少し肌寒い今、眺めるだけの海も悪くない。
「優奈ちゃん、はいココア」
自販機で買ってきたであろうココアをあけ、口を付ける
「あつ!」
「ほらまたこぼすよっ!危ないなぁ」
なんか前にもこんなことがあったような気がする。
恥ずかしい。次はやらないからな!
「優奈ちゃん、自覚ないのかも知れないけど猫舌だから気をつけてね。僕も進んで痛い目にあいたいわけじゃないからさ」
ギクッ!そ、その話はやめとくれ
あたふたしている俺を可愛がるような目で見ながら吉良はブラックコーヒーを飲む。なんか腹立つ。
「今日のデートはどうだった?」
「ま、まぁまぁだな」
素直じゃないんだからと言いたげに、やれやれといった表情する吉良。
「あー、はいはい、楽しかったですよ。連れてきてくれてありがとう。どうだ、これで満足か?」
仕方がない。ここですねられて置いていかれたりなんてしたら困るからな!仕方ないんだ。
「あはは、満足しないなぁ」
「なっ、なんでだよ!これ以上なにを望んむっっ」言葉の途中で口をふさがれる。
え?
「これで満足。ありがとう!」
ニコッとほほえみかけてくる吉良。
「ちょっとまて貴様、今俺に何をした!」
「えーと、恋人の戯れかな」
「まわりくどい!」
「キスしたんだよ?」
…う、うぁぁぁぁぁ!
キスしちゃったぁぁぁ!
おい、俺のファーストキスをどうしてくれるんだ!
同意も得ずにやるとかだめだろうが!少しは俺のきもちもっ…
って俺男とキスしちゃったぁぁぁ!
あぁ、でも今は女であって特にそれが悪いことかと問われるとべつにそうでもなくて、しかも俺は吉良と(サキュバスに)嵌められたとはいえ付き合っちゃってるわけだし、一回ほっぺにちゅーしたりなんて…
「ゆっ、優奈ちゃん?!」
あぁぁ、だめだ!こいつの顔なんてみてらんねー!
俺は訳が分からなくなってその場を逃げ出した。
ゆうな は にげだした!