告られたぁぁ?!
俺が女の子になった翌日
「…うぅっ」
俺は校門の前で佇んでいた。
気分はすこぶる悪い。
授業中トイレ行きたいけど恥ずかしいので我慢しているときくらいに辛い。
わかりにくいとか言わないで。
なんかあったのかって?いや、普通に学校にきただけですけどぉ?
何気なく通っていた校門も、今はさながら地獄への門と言ったところか。
しかし、これをクリアしない限りは俺に明日はない。
ちなみに今の時間は6時30分。
人に会わないために、早く行こうとしたらこうなった。
制服を着る覚悟を決めるのに時間を要したので、起きたのはざっと4時である。
野球部かっての。
起きてから家を出るまでの1時間40分は全て姉ちゃんによる女の子講座で潰れた。
定まらないキャラのせいで、今回は教育の鬼と変化した姉ちゃんによる女の子講座は凄まじく、ある意味忘れられないようなものだった。
今朝を境に俺は本気で女の子にならなければいけないのだと確信した。理由は男の素振りを見せると姉ちゃんすっごい怖いから。
家でさえ安らぎの場がない。
しかも下手すりゃ殺される。割と本気で
「いや〜、この門くぐりたくないな。いっそ消えてしまいたい」
本音が口に出る。
悪魔と心中ってちょっとかっこよくない?
なんちって。
「優奈ちゃんは学校が嫌いなのかな?」
「うわっ!」
独り言に言葉が帰ってきて心底びっくりする。
今、現時点で俺を優奈ちゃんと呼ぶのは1人しかいない。
そう。勢いで俺に優奈と言わせた張本人。
アイツだけだ。
「吉良…か」
「お、名前覚えててくれたんだね?」
覚えるもなにもクラス一緒だったんだよ!俺はな!
しっかしまぁ、仲良くもないのになんだよ、優奈ちゃんって!
…馴れ馴れしい。
「なんでお前がここにいるんだ?」
「え?だって、昨日優奈ちゃんのお姉さんに頼まれましたから。あと、僕はここの生徒だよ?」
ここの生徒なのは知っとるわ!
まぁ確かに姉ちゃんがそんな事言ってたような気もしないでもないけど
もっと怖いのは
「なんでこんな時間に学校にいる?」
これだ。
念には念をいれて、ハイパー早起きしてここにきた俺と同等の早さを誇るだと?
どんな毎日を送っているんだ?こいつは!学校大好き君か!
そら友達たくさんでたのしいだろうねぇ!
「あぁ、頼まれたはいいんだけど、優奈ちゃんがどんな時間に学校に行くのか知らなかったから、5時くらいから駅で見張ってたんだ。」
…え?
「さすがに僕もやりすぎかな〜っと思ったけど、頼まれた事はしっかりとやらないとね?」
そう言ってニコッとはにかむ。
…こいつ、ストーカーとかになったら1番怖いパターンの奴じゃないか?
背筋が凍ったよ。
全然やりすぎだ!無駄な責任感だよ、どんだけ八方美人したいんだ!
「…それは、ありがとうなのか?」
本当にどうなんだろう。これは感謝するべきなのか、警戒するべきなのか。
「お礼なんていらないよ。じゃあ、案内するね。とりあえず職員室はこっち!」
急に手を取られる。
「うわぁっ!な、なにするんだ!」
ど、ドキドキなんかしてねぇし!
するわけねぇだろ!
ってか何でこんなツッコミしなきゃなんないんだ!
「あ、ごめん!悪気はなかったんだけど、そうだよね!そこまで仲の良くない男に触られるの嫌だよね?」
なんて目で見つめてくるんだこいつは!
思わず許してしまいそうな、不思議な目をしていた。
なんというか、子犬の目?
「にっ、二度と触るなよ!」
あ、だめだ。動揺したのがもろにバレるなこれ。
騙されるな俺!相手は吉良だ!
_____
結局、吉良に連れられて校内を歩き回る。
いや正直今までもここにいたんだからだいたいの事は分かるんだけど、良心でしてくれてるのを拒むことはできないので仕方ない。
退屈だな~とは思いつつ、朝の校舎にはなかなか清々しい雰囲気をかんじる。
…しかしなんだ、吉良。
…普通にいい奴じゃねぇか!
なんか、変に対抗意識持ってたのがはずかしいくらいにな!
しかしまぁ、俺も自分で負けを認めたくはないから、まだコイツを認めたわけじゃないし!
変態気質だし、ストーカー癖ありそうだしな!
いや、そもそも認めるってなんだ!
あー、最近訳わかんねぇ事ばっかり考えてるぞ俺!
「…で、最後にこれが体育館っと。だいたいこんな感じかな?」
「お、おう」
一通りの説明が終わった。なかなかわかりやすい説明だったな。
途中で豆知識や笑える話を盛り込んでくるところに、コイツのコミュニケーション能力の高さが表れていた。
なんか腹立つ。
さすが、成績学年一位は違うね。
「ちなみにこの体育館の裏だけど、告白ポイントとして有名なんだよ。成功率が高いとかで」
へー、そうなんだ。
俺、昨日告られたの実はここなんだけどな。
あてにならねー。
フった俺が言うのもなんだけどな。
「ありがと。じゃあ、職員室で先生と話をするから俺はこれで」
そう告げてここから早足で立ち去ろうとするが、後ろから
「あ、そうそう。今日の放課後、ここに来てねー」
と言われた、どうしようか。
まぁ、後で決めればいいか。所詮吉良だしな。
何の用かは知らないけど。
____
「…というわけで木下さんには、兄の優君がいた3組に入ってもらうことになる。私が担任だ。まぁ、いろいろと心配ごとはあるだろうがいい奴らばっかりだ。安心しなさい」
担任との話を終える。
ちなみに"優"は謎の失踪をとげたということになっている。不本意だけどしょうがない。
それで、家の事情で親戚の元で暮らしていた妹の"優奈"が連れ戻された…という設定らしい。
明らかに無理しすぎな設定だけど、サキュバスか、はたまた神が手を回したのか誰も木下家の事情を不思議に思うことはなかった。
まぁ、好都合なんだけど。
失踪って、俺に何があったんだよ(笑)
時はすぎて、生徒が登校する時間となる。
1時間目のHRで紹介してもらうことになっているから、それまでは教室にはいることもできない。
「暇だな。」
しかし、一緒に話をする友達も今はいない。
もともとそんなに友達いないけども
静かに物思いにふけることにする。
…これからの学校生活、いや、女の子としての生活は思いの外うまくいきそうな気がする。
なんでそんな気がするかって?
それは、たった二日はいただけのスカートに慣れつつあるからさ。
…微妙な心情だよ。
男とイチャイチャねぇ、うーん。
っていやいや、できるわけねぇ!
____
「えー、うちのクラスの木下が謎の失踪をした。いつ戻ってくるかは分からんが気長に待ってやろう。」
教室がザワつく。そりゃそうだ。
クラスメートが失踪したら誰でも焦る。
俺でも焦るわ。
「それで、入れ替わるようにして木下の妹が遠い親戚の元から帰って来て、この高校に通うことになった。紹介しよう。入っておいで」
担任からお呼びがかかる。
あ〜、怖い。しかし、腹をくくって扉に手をかけ、中にはいる。
視線が刺さる。心なしか男子からの視線がアツい。
「自己紹介をしてもらえるかな?」
「木下優奈です。よろしく」
ぺこりと頭を下げて礼をする。
ついでに右目で魅了
「みんな仲良くしてやってくれ。席は…あの端の席だ。」
そういいながら元の俺の席を指差す。まぁ、その方が落ち着くからいいわな。
そそくさと自分の席に向かい、座る。まだ視線は襲ってくる。
しんどいな…。
やっぱりウインクは不自然だったかな。
心なしか男子からの視線が激アツだ。
____
「ねぇねぇ」
前から声がかかる。
「おーい、木下さん?」
あ、やべ、ぼーっとしてたわ。
「な、なんですか?」
「えっとね。私、神谷 雪乃。わからないことがあったらなんでも聞いてね!よろしく!」
俺の前の席の神谷さん。前はそこまで仲が良かったわけでもないが、明るくて親切な人であることに間違いはない。
「ありがとう。よろしくね!神谷さん」
ニコッと微笑む。俺完璧じゃね?
まぁ、姉ちゃんに「俺っ娘は特殊すぎる!女の子にはひかれちゃうわ!気をつけなさい」と釘を刺されたからなんだけど。
この爽やか微笑みも姉ちゃん直伝だ。
モブ男はたいていコレでオチるんだとか。
モブ男ってなんだよ…
「木下さんって、木下くん…お兄さんとは双子?なんだか同一人物みたいに似てるけど…あ、私のことは雪乃ってよんでくれたらいいからさ」
双子…ねぇ。うん、それの方が楽かな。似てるって思われてもいくらでもごまかしがきくようになるし。
「うん。双子だよ。あ、私も優奈で大丈夫だよ」
見ろこのパーフェクトな返しを!
私+優奈、めっちゃ言いたくないフレーズをコンボで言ってのけだぜ!
「やっぱりそうか〜。お兄さんも優奈ちゃんも可愛いところが似てるよね!」
うっ、それは…うーん、嬉しいようなそうでないような。
俺の印象可愛いだったのね
「ありがと。でも、雪乃ちゃんも可愛いよね。優しいし!」
ちなみに神谷さんは学年五本の指にはいるらしい。
誰情報かは知らないがな。
まぁ、性格も顔もよろしいから人気はものすごいのだろう。
容姿はどっちかというと清楚な感じで黒髪ロングが印象的だけど、おとなしいって言うより少し活発な感じ。
「あはは、そんなことないよ。あ、後で私の友達紹介するね」
「うん!」
なんて絡みやすい人なんだろう。
しかし、姉ちゃんのお言葉「学校ではグループに入りなさい。女子は1番それが大事なことよ」はクリアすることができたぞ!
確かにハブられるのは怖いからな。
特に女子の世界は。
というか、なんで俺はこんなに順応しちまってんだよ…
男の時よりも交友関係広がりそうだなーと、どこか悲しさを覚えつつも授業をうけてそのまま昼休みに入った。
____
「やぁやぁ。"超絶可愛い転入生がきた"と言う噂は聞いてるよ〜。しっかしまぁ、ここまで可愛いとは!こりゃ負けたね。」
急に話しかけられる。
「えっ?!え?え?」
誰誰誰誰?!あったことあったっけ?いや、あるわけねぇ!
「あはは、ごめんね。その子さっき私が言ってた友達。面白いでしょ」
横から神谷さんがでてきた。
なんだよ、ほんとにびっくりしちゃったじゃないか。
「僕は桜木 愛。かわいくておちゃめな雪乃の友達!」
これまた元気なお友達がきたものだ。まぁ、面白そうな子だな。
でも、クラスにいたっけこんなの?
僕っ娘って印象に残りやすいはずなんだけどな。
「愛は1組なんだ。まぁ、昼はいっつも一緒にいるんだけどね」
なるほどね。そういうことか。
「よろしくね。私は木下優奈です」
「おー、優奈ね。よろしくなー」
しっかしこの2人組、身長差が結構あるな。
ちなみに雪乃ちゃんが高くて、モデルのような体型…そして巨乳。
愛ちゃんはちっこくて可愛らしいかんじ。胸は…ぺったんこだな。
髪の毛はショートでよく似合ってる。なんか小動物みたいな印象だな。
…なかなかいいキャラしてるじゃないか。いや、特に意味はないけど。
そのまま2人と一緒にご飯を食べて、休み時間を共に過ごす。
やはり女の子との付き合いはわからないことだらけだが、この2人となら仲良くやっていけそうだ。
学校にいくのは不安があったけど、いまはそれも消し飛んだ。ような気がする。
いや、不安の塊があったっけ
____
そして放課後。
気が向いたので、体育館にいってみる。
気まぐれだ気まぐれ。まぁ、(いらないけど)校舎案内とかしてくれたことだし、少しくらいいいだろ。
「やぁ、きてくれたんだね」
そこにはもう、あいつが先に来ていた。
相変わらず早いな。
「まぁな。」
コイツに対して口調を変えるつもりはない!
なんかいろいろ腹立つから俺でぶつかってやるぜ!
「友達はもうできたようで安心したよ。心配しなくても、ちゃんと過ごせそうかな?」
コイツ、そういえばクラスでは特に何もしてこなかったな。
まぁ、いつものようにたくさんのお友達に囲まれてたけど。
「まぁな。お前なんかに心配される筋合いもないし。」
「あはは、そっか。まぁ、そんなことはどうでもいいんだ。本題に移っていい?」
どうでもいい?なんだか強引な切り返しだな。
「どーぞ。手早く頼むよ」
俺だって暇じゃない。
うん。暇じゃない。
えーと、そうだ、姉ちゃんの女の子講座をうけなきゃいけねぇしな!
…やべぇ、めっちゃ暇だ。
なーんて、そんなことどうでもいいか。
とにかく吉良といる時間は無駄ってことで!
「僕と付き合ってくれないかな?」
前と同じニコニコした顔をしながら吉良はそう告げた。
ん?なんかいったか?コイツ?
「え、今なんていったの?」
「付き合ってくれないかな?」
即答される。聞き違いでは無いようだ。
うん。耳に異常なし
「俺が…お前と?」
「そう。」
吉良は微笑んでいる。
「は?え?ん?ちょっとわけがわからない。」
ナニイッテンノコイツ?
そんな急展開いらねぇよ!
「いきなりすぎるよね。ごめんね、変なこといって。」
そうだそうだ!冗談にも限度がある!
付き合うなんてあり得ないわな。
しかし
「ううん、大丈夫。付き合ってもいいよ。」
俺の口からはなぜかそう言葉が発せられた。