2 夢から覚めて…
警察へ行って、現場で起こった事を全て話してきた。勿論、こんなことが彼女の供養になるかなんて考えてはいないことだった。それでも、こうして少し、ボランティアでもした気になって心が軽くなるのだから、損した気にはならない。
しかし、彼女は知り得なかったのだろう。当日に、逃げた運転手がすでに検挙されていたことも、怖いものみたさに死体を見物に来た野次馬の数も、普段静かな町が、サイレンの音と共にざわめいていたことも。
そしてこれからも知ることは無いだろう。酒を飲んでいてブレーキが遅れたことも、一切の謝罪や反省を見せていないことも…。
「本当に世の中これでいいんだろうか。」
そんな言葉が頭に浮かぶ。
一年半程前までは、こんなこと考える余裕すらなかった。
死んだら死ぬだけ、それで終わり。
そんな風に思っていた。でも、アレをきっかけに、色んな人間が目の前で死に、殺される。話しをするどころか、名前すら知らない他人だがそんな人もそれぞれが、それぞれの想いで生活し、目標を持ち、様々な人と関わって人生を歩んでいる。たまたま自分とは無関係でも、死んだらそれで終わりなんてことは決して無い。
きっと、今ではそんな風に考えるから、こんな言葉が浮かぶのだろう。と、部屋で一人、自問自答して今日一日を振り返っていた。
眠りに就く前に、枕元に置いてある一月前の新聞紙の1面を読み返すことにした。ニュースやワイドショーでも取り上げられた、隣町で起こった連続通り魔事件の記事だ。