部隊
「ランブウさん!」
未開拓地帯を抜けたランブウの元に、一人の少年が走ってやってきた。
「おぅどうした?やけに慌てた様子だが。」
少年はすぐさま懐に手をいれ、スッと一枚の紙を取り出してランブウに渡した。
「・・・!」
渡された紙に目をやると、ランブウは真剣な表情で紙を見つめた。
しばらく紙を見た後、ランブウは紙を懐にしまい、懐からスッと手を出した。
「やれやれ・・・またか・・・。」
そう言ったランブウの手、懐から抜いた手には、黒く光輝く拳銃が握られていた。
「ランブウさん・・・。」
拳銃を手に持っていたランブウが駆け出していくのを、フカミとキリミドは木の影から見ていた。
「あの紙・・・間違いないわね。」
「お姉ちゃん、あれが何なのか知ってるの?」
キリミドの問いに、フカミは暗い顔のまま小さく頷いた。
「あれは・・・"暗殺の標的"が書かれた紙よ。」
「・・・暗殺?」
フカミは小さく頷いた。
・・・・・・・・・。
・・・・・・。
・・・。
しばらくして、ランブウは城へ戻ってきた。
「ランブウよ。ご苦労であった。」
先代国王の父、すなわち二代前の国王がランブウを褒め称えると、ランブウは膝をついて丁寧に頭を下げた。
「有り難き御言葉・・・。」
深々と頭を下げるランブウ。その頬には、小さく血の跡がついていた。
「うむ。やはりそなた達ならば信用できよう。これからもそなた達"リックル"には期待しておるぞ。」
「御意・・・。」
小さく答えて、ランブウは王室を去っていった。
「ランブウさん!」
王室を去るランブウの後を、先程の少年が追いかけてきた。ランブウは振り向き、少年の頭を軽く撫でた。
「あぁ、さっきはありがとうな。手紙を届けてくれて。」
「あの・・・ランブウさん!」
そこまで言葉を発した少年の口を、ランブウは手で塞いで黙ることを促した。
「あんまりベラベラと喋るな。ここは城の中だぜ?」
そう言ってランブウは、一つの部屋に入っていった。遅れて少年も、ランブウの後を追って部屋へと入っていった。
「ランブウさん!」
「おかえりなさいませ!」
部屋に入ると、二人の青年が頭を下げた。
そしてその後ろから・・・。
「おじちゃ〜ん!」
「あそんであそんで〜!」
三人の幼い少年達が、ランブウに勢いよく走っていく。
この子供達は全員、ランブウが拾ってきた誇示達だ。
「よしよし。今日は何で遊ぶ?」
「おにごっこ〜!」
「かくれんぼ〜!」
「さばげ〜!」
「最後のはダメだ!」
いつものように、リックルのメンバー達は子供達と遊ぶために外に出た。
ランブウ率いる彼等"リックル"は、正式名称を"バスナダ直属優秀暗殺部隊"という
暗殺任務を主としたエリート集団だ。
その部隊をまとめるランブウは、国が誇る銃士として国王らからも絶大な信頼を得ていた。
しかし、ランブウは血生臭い暗殺という仕事をあまり快く思っていなかった。
だからこそランブウは、森の精霊であるフカミとキリミドの世話を焼いたり、孤児達を世話したりと、生臭い仕事の中で人間らしく生きようとしていた。
「ランブウさん。」
「おぉ、昨日フカミ達に野菜届けてくれたんだっけな。感謝するぜ。」
「いえいえ、ランブウさんのためでもありますから。」
青年は笑いながらランブウに頭を軽く下げた。
ランブウの下につくもの達は皆、ランブウを慕い、ランブウと共に戦うことを誓った有志達だ。もちろんフカミ達の住みかで倒れていたのは、この青年達の未来の姿だ。
「ランブウさん!」
楽しい声が響く中、城からもう一人の青年が走ってやってきた。
「どうした?」
「例の件ですが、決行が明日に早まったそうです。」
それを聞いた瞬間、ランブウは地面を蹴って城の中へ走っていった。
「くそ!何だって速めやがったんだ!」
ランブウはすぐさま目的地である王室へ赴いた。
「こらランブウ!断りもなしに王室へ入るな!国王様は今!明日決行となった計画の準備に忙しく!」
「俺はそれについて言いに来ました!」
ランブウは玉座の前まで歩み寄って、膝をついて頭を下げた。
「・・・御言葉ですが、その計画は国王様が思うほどに成果はあげれません。言わば費用をドブに捨ててしまうようなもの。お願いです!どうか今すぐにでも計画の中止を!」
その言葉に、国王はゆっくりとした声で答えた。
「・・・何を言われようが答えは変えぬ。今回の計画は確実にバスナダのさらなる繁栄に繋がる。それを中止にするなどと戯れ言を・・・。」
「ランブウよ!立場をわきまえろ!衛兵!ランブウをつまみ出せ!」
その言葉に反応し、ランブウは衛兵達によって王室から出されてしまった。
「くっ・・・!」
苦い顔をしながら、ランブウは強く拳を握った。
「間違ってる・・・"未開拓地帯大規模開拓計画"なんて・・・!」
ランブウは悔しそうに言った。