看病
一日目の朝・・・。
「・・・お姉ちゃん・・・まだ目を覚まさないの?」
木々に囲まれた部屋にいたキリミドは、フカミに向かって問いかけた。
「・・・。」
キリミドの問いに対して、フカミは無言のままだった。その意味を理解して、キリミドも無言になる。
「・・・ぐぅ・・・。」
小さな呻き声。それを聞いた二人は、すぐさま呻き声が聞こえた方を向いた。
「ランブウさん!?」
「・・・。」
キリミドの呼び掛けに、倒れているランブウは何も反応しなかった。
「目覚めるには・・・まだかかるかもね・・・。」
フカミは小さく呟いた。
今、フカミとキリミドの住み処である緑の部屋には、ランブウを含めた10人の国境警備隊が倒れていた。
「でも・・・本当に危なかったわ・・・。」
「うん・・・あのままだったら皆・・・死んじゃってたもんね・・・。」
フカミとキリミドは、全員に向かって手をかざした。その瞬間、全員に強い光が降り注ぎ始めた。これは、フカミとキリミドの二人による治癒魔法の光だ。
傷口はゆっくりゆっくりと塞いでいってはいるが、流した血を戻すことも目を覚まさせることも出来ない。
ランブウ達、国境警備隊が謎の襲撃者によって瀕死の重症を負わされてから今日で二日目だ。
あの時、フカミとキリミドは偶然、瀕死だったランブウ達を見つけた。その時にはもう、全員の血は死ぬギリギリの所まで出ていた。
すぐさまフカミとキリミドは治癒魔法を全力でかけ、ランブウ達の傷を不完全であるが塞ぐことに成功した。しかし、失われた血ばかりは魔法ではどうしようもなかった。
しかし、現在は全員が輸血されている。
「ランブウさん達でよかったですね・・・。」
「そうね。ランブウ達だったから森の皆は協力してくれたものね。」
輸血が必要だとわかった瞬間、フカミとキリミドはすぐさま森の全ての生物に協力を申し出た。
「ランブウ達が大変なの!ちょっとずつでいいわ!少しでも血を分けて!お願い!」
フカミの必死な呼び掛けと、ランブウ達が瀕死だという事実に、森の生物は総出で血を少しずつ集めていった。
そして集めた血を、それぞれの体に適応できる型に魔法で変えて今に至るのだ。
「・・・。」
フカミとキリミドはしばらくランブウを見つめた。そして、フカミはゆっくりと口を開いた。
「ランブウ・・・絶対にあなた達は私達が助けるわ・・・!」
「うん・・・!あの時、私達を助けてくれたランブウ達を・・・死なすわけにいかないもんね・・・!」
フカミとキリミドは、同時にあの時の記憶を遡った。
40年前・・・。
「ほらよ!今日も野菜持って来てやったぜ!」
「こんなにたくさん・・・いいんですか?」
「後で返してって言っても返してあげないからね。」
「もうお姉ちゃん!素直にありがとうって言えばいいのに!」
まだ砂の竜王時代と呼ばれる前のバスナダの未開拓地帯に、当時20歳のランブウは大量の野菜を持って定期的にやって来る。
以前に未開拓地帯を訪れた際に出会った精霊の姉妹、フカミとキリミドに、ランブウ達は何かと世話を焼いていた。
「昨日もランブウさんの部下の方が野菜を持って来てくれましたよね?本当にいいんですか?」
「精霊に世話を焼くなんておかしな話じゃないかしら?」
そう言われたランブウは、高笑いしながら二人の頭を撫でた。
「ガッハッハ!俺はお前達が自分の娘みたいに見えるんだよ。まぁいいじゃねぇかよ。親は娘に扶養されなきゃいけないからな!」
「あんたの娘になった覚えはないわよ!・・・まぁ・・・少し嬉しいけど・・・。」
「お姉ちゃん。いい加減素直になれば?」
「うるさいわね!」
すぐさま始まる姉妹の追いかけっこ。そんな微笑ましい二人の精霊の光景を、ランブウは笑いながら見ていた。
「ははは!んじゃ俺は行くぜ。じゃあな。」
「あ!はい!ありがとござ、あわわわ!!」
「キ〜リ〜ミ〜ド〜!覚悟しなさぁい!」
じゃれ合う二人を背に、ランブウはゆっくりと城に向かって歩き始めた。
「・・・・・・・・・。」
まだ聞こえる二人の声。しかし、歩くランブウの表情は彼女達とは正反対だった。
「・・・。」
ランブウは難しい顔をしながら、ゆっくりと城に向かっていった。