大空
「クピン・・・。」
添えていた手で軽くクピンの頬を撫でながら、プルーパはゆっくりと口を開いた。
「クピン・・・私逹はあなたを絶対に見捨てないわ。」
「・・・!」
クピンは驚きの表情でプルーパを見つめた。
クピンが恐れていたのは、霊力がさらに強くなることで再び自分が"化物"と呼ばれてしまうことだった。再び自分の居場所がなくなってしまうことが、クピンにとっては何よりの苦痛だったのだ。
その苦痛を解きほぐすように、ゆっくりとプルーパはクピンに語りかけていく。
「あなたに強い霊力があるからとか・・・そんなの関係ないわ。あなたはクピン、化物なんかじゃない、私達の大事な仲間よ。」
「・・・。」
その言葉を、クピンは涙を流しながら聞いていた。
クピンの不安を一つずつ解きほぐしていくプルーパ。その言葉に嘘偽りはもちろんない。
「・・・でも・・・強すぎる霊力は・・・災いを招くと・・・私のせいで皆さんが・・・。」
「それは違うわ!!!」
ガシッ!とクピンの体を強く抱く。胸の中で一瞬震えるクピンに構わず、プルーパは言い続けた。
「もしもよ・・・もしもあなたが皆に黙って国を出たとしても・・・私はあなたを探しに行くわ・・・。」
「・・・。」
「もちろん・・・シロヤ君もね。」
「!」
プルーパの話は間違いなかった。もしもクピンが本当に国を出ていってしまえば、間違いなくプルーパもシロヤも、もちろん他の仲間逹も探しに来るだろう。
「だから・・・ね?私達は絶対に裏切らないから・・・私達を信じて・・・!」
「・・・うぅ・・・!」
涙をボロボロと流しながら、クピンはプルーパを抱き返した。
「私は・・・皆さんといて・・・よいのですか・・・?皆さんと共に・・・戦ってもよいのですか・・・!?」
止めることのできない涙をそのままに、プルーパは再びクピンを強く抱いた。
「もちろんよ・・・!私達は仲間でしょ・・・?」
「・・・はい!」
クピンの顔がさらに涙で濡れていく。
「・・・ふぇ!?」
突如、二人を奇妙な浮遊感が襲った。
「ク!クピン!?」
慌てて足をつこうとするも、どんどんと二人の体は宙に浮いていく。
「ちょ!何これ!?どういうこと!?」
「わ!私にも何がなんだかわかりま、ふわわわわ!!!」
ビュュュュュン!
一際強い力が働き、宙に浮いていた二人はそのまま窓から城の外へと飛んでいった。
しかし、二人の体は変わらず宙に浮いたまま、城の周りを漂っていた。
「これってもしかして・・・霊力の卵が孵化したの!?」
クピンを取り巻く強い光。これは紛れもなく、クピンの霊力の卵が孵化した証だった。
「これが・・・霊力なんですか?」
まだ何が起こったのか理解できないクピン。そんなクピンに向かって、プルーパは満面の笑みを浮かべた。
「すごいわクピン!二人も長時間宙に浮かせるなんて!」
「そ・・・そうなんですか?」
意外と言った表情から、徐々に笑顔に変わっていくクピンの表情。
「・・・!」
目の前に広がる砂漠の大地を見ていたクピンの表情が、次第に笑顔に変わっていく。
そして、クピンの表情が最高の笑顔になったとき、クピンは大空に向かって体を伸ばした。
「私・・・私!空を飛んでいます!こんなの初めてです!」
笑顔のまま、クピンはバスナダの空を飛び続けた。その表情には、もう不安や苦痛は一切無くなっていた。
「あははは!バスナダを空から見たのは初めてです!すごい綺麗です!」
無邪気にはしゃぐクピンを、プルーパは満面の笑顔で見守り続けた。
「プルーパ様、ありがとうございます。」
再び図書室に戻ると、クピンはプルーパに深く頭を下げた。そんなクピンを、プルーパは再び抱き締めた。
「私こそありがとう・・・!あなたのお陰で・・・答えが出たわ・・・!」
「プルーパ様・・・?」
「絶対に皆を守るわ・・・!この戦いが終わっても・・・皆一緒よ・・・!」
「・・・はい!」
二人は誓い合った。誰一人欠けることない未来を目指して戦うことを・・・。
二人はしばらく抱き合った。