化物
光に包まれた視界に浮かぶ一つの景色。それは、プルーパが見知った景色だった。
「これは・・・バスナダ?」
やがて視界から光が消え、プルーパはその景色に降り立った。しかし、街はいつもと違っていた。
「街並みが違う・・・あれ?」
プルーパは街に貼られているポスターに目をやった。そこに書かれていたのは、今日の日付より5年古い日付が書いてあった。
「ここは・・・どうやら過去の世界みたいね。」
どうやらクピンの霊力の力で、5年前の世界に来てしまったようだった。
「!!!!!!!!」
「・・・何かしら?」
中央広場から何か怒鳴るような声がする。プルーパは何事かと身構えながら中央広場に向かう。
中央広場に着くと、途端に騒がしい人達の声が耳に入ってくる。
「・・・人だかり?」
見てみると、中央広場に人だかりが出来ていた。人だかりは何かを取り囲むように形成されていて、人達は人だかりの先に向かって何かを投げながら、怒号のような叫び声を上げていた。
「この化け物が!!!」
「この街に居座るな!」
「今すぐこの国から出ていけ!!!」
「出ていけ!出ていけ!出ていけ!」
「化け物は国から出ていけ!!!」
「化け物!?」
すぐさま短剣を持つ。いつでも迎撃できるように構えて、プルーパはゆっくりと人だかりの間だから向こう側を見た。
「・・・ぅ・・・やめて・・・ください・・・。」
「!!!」
向こう側にいたのは、化け物とは似ても似つかない少女だった。少女は街の人達が投げる物を全身に受けてたくさんの傷を作り、頭からは少量の血を流している。
プルーパはすぐさま少女の名を叫んだ。
「クピン!!!!!」
少女―――クピンに叫ぶが、その叫びは空を切るようにクピンの耳をすり抜けていった。
「・・・私は・・・化け物・・・じゃないです・・・。」
「うるせぇ!お前は化け物だ!!!」
「あんたをここに置いといたら私達の身が危ないよ!」
「さっさと国から出ていけ!」
「そうだそうだ!出ていけ出ていけ!」
物を投げる勢いがさらに増していく。クピンはうずくまって飛んでくる物に耐えている。
「あなた達!いい加減にしなさい!」
プルーパは街の人達の一人の肩を掴んで止めさせようとした。
スッ・・・。
「・・・!?」
プルーパの手は肩を掴むどころか、まるで蜃気楼を掴むかのようにすり抜けてしまった。何度も触れてみようとするが、誰の体にも触れることができなかった。
「幻・・・?いえ、違うわ。」
プルーパは気づいた。他の人が幻なんかではない。自分が蜃気楼のようになっているのだと。
「声が聞こえなかったのも・・・きっとこのせいね・・・。」
「もう・・・やめて・・・やめて・・・!」
「!!!」
その場が凍りついた。プルーパは思案を止めてクピンを見てみた。
涙声になったクピンの体が、急に発光し始めていたのだ。
「魔力だ!化け物の証拠だ!」
「逃げろ!殺されるぞ!」
発光し始めたクピンを見た街の人達は、急に走って中央広場から逃げていった。
「違うのに・・・私は化け物じゃ・・・ないのに・・・。」
光はゆっくりと強くなっていき、クピンの体、特に傷口に集中していく。
「化け物なんかじゃないのに・・・!」
クピンの体から光が止んだ。その体からは、さっきまで刻まれていた傷は影も形も残さず消え去っていた。
「私・・・これからどうすればいいのかな・・・。」
そう呟いて、クピンはうずくまったまま動かなくなった。
「・・・!」
それを見ていたプルーパの視界が突如揺れた。見ている景色が反転していく。
「うぅ・・・!」
意味のわからない空間に放り出されて思わず目を閉じる。
「・・・!?」
次に目を開けた時、プルーパの目の前に広がっていた景色は、たくさんの本が転がっている図書室の景色だった。
「・・・そういうことだったのね。」
今のはクピンが見せた過去の映像だろう。それを見たことで、クピンが何を恐れているのかが容易に想像できた。
「それに・・・ボロボロだったクピンを城に招き入れたのも・・・私だからね・・・。」
プルーパは、倒れているクピンにそっと手を添えて、ゆっくりと語りだした。