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Sand Land Story 〜砂に埋もれし戦士の記憶〜  作者: 朝海 有人
第三章 白の勇者と古の記憶
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悲痛

 城の廊下を歩くプルーパ。

「それにしても・・・ずいぶんと急に現れたわね・・・。」

 誰に聞かせるわけでもなく呟いた。

 クピンのあの症状は、かなり強いものだった。あのレベルに達するには、孵化までの時間が普通に比べて長いか、孵化する霊力が普通に比べて強力なものかのどちらかだ。

「多分・・・両方ね・・・。」

 クピンの霊力が高いのは前々からわかっている。だからこそ、この孵化の段階から何とかしてあげたいと思うプルーパ。

「・・・?」

 気づくと、プルーパは朝食の場の前にいた。目の前には、クピンが割ったたくさんの皿がワゴンに乗ったままになっていた。

「・・・しょうがないわね。」

 小さく微笑むと、プルーパはワゴンを厨房に向かって押し始めた。


・・・・・・・・・。


・・・・・・。


・・・。


「ふぅ・・・。」

 厨房でクピンがする予定だった仕事を代理で終えて、プルーパは一息ついて厨房から出た。

「すっかり遅くなっちゃったわ。クピン・・・大丈夫かしら。」

 時計を見てみると、自室を出てから三時間程経ってしまっていた。

「急がないと!」

 厨房で特別に作らせてもらったお粥を持って、足早に自室を目指す。




ガチャ!


「クピン!」

 自室の扉を開けて中に入る。何の反応もないのに疑問を持ってベッドに目を向けると・・・。

「・・・いない?」

 ベッドの上に、クピンの姿はなかった。掛け布団がめくられているのを見ると、どうやらクピンは自分の意思でベッドを出たようだ。

「いけない!早く見つけないと!」

 お粥を置いて、プルーパは自室を飛び出した。

「この辺りにはいないみたいね・・・。」

 プルーパはすぐさま図書室に向かって走り出した。

 プルーパが追っているのは、クピンが放出している霊力だ。孵化するために放出している霊力は、本人の意思で抑制することができないため、まるで足跡が残っているかのように、クピンがどこにいったのかがわかってしまうのだ。

 図書室に着いたプルーパはすぐさま扉を蹴り開ける。

「クピン!!!」

 すぐさまクピンを探し回る。

「・・・・・・・・・!」

 隅から隅まで探し回り、古い本の倉庫を探し始めた時、プルーパはようやくクピンを見つけることができた。

「クピン!大丈夫!?」

 クピンは、古い本に埋まって倒れていた。さっきよりも激しく息をしていて、指先にすら力を入れることができなくなっていた。

「無理しないの!ベッドに戻るわよ!」

 クピンを抱えあげようと腕を持つ。


パシン!


「!?」

 急に訪れた手の痛み。それは、クピンがプルーパの手を叩き落としたことで起きた痛みだった。

「クピン・・・?」

 訳もわからず立ち尽くすプルーパ。対してクピンは、しまった、といった表情を浮かべていた。

「も・・・申し訳ありません!プルーパ様の手に何てことを!」

 プルーパの手を殴った自分の手を噛みきろうと口を開ける。それを見たプルーパは、すぐさまクピンの手を握った。

「いいのよ!気にしないで!さぁ、部屋に戻るわよ!」

 そう言って部屋に連れていこうとするが、クピンはその場を離れようとしない。

「私のことは・・・お気になさらずに・・・。」

「そうは言っても・・・その体じゃ何もできないわよ?」

 しかし、クピンは表情を崩さないように力を込めながら、弱々しく口を開いた。

「いえ・・・私はまだやれます・・・もう・・・化け物と呼ばれ・・・たくないです・・・!」

「化け・・・物・・・?」

 再び本の整理を始めようとするクピン。しかし、体がついていかずにその場に倒れてしまった。

「とにかくダメよ!これ以上無理したら死んじゃうわよ!」

「いや・・・もう・・・一人になるのはいや・・・!」

 いつの間にか、クピンの目から涙が流れていた。

「・・・クピン?」

「いや・・・いや・・・いやぁぁぁ!!!」

 涙が溢れる。


「!!!」


 その時、クピンの目から流れる涙が、急に光を放ち始めた。涙から放たれた光は、溢れてくる涙に比例してどんどんと強くなっていく。

「クピン・・・?」

「いやぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 クピンが悲痛の叫びを上げた瞬間、涙から放たれた光が図書室を包み込んだ。

 視界が全て光に包み込まれ、プルーパは変な浮遊感に襲われた。それは、自分がどこにどう立っているのかわからなくなる程だった。

「この光は・・・何?」

 やがて、光に飲まれたプルーパの視界に、一つの景色が映り始めた。

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