悲痛
城の廊下を歩くプルーパ。
「それにしても・・・ずいぶんと急に現れたわね・・・。」
誰に聞かせるわけでもなく呟いた。
クピンのあの症状は、かなり強いものだった。あのレベルに達するには、孵化までの時間が普通に比べて長いか、孵化する霊力が普通に比べて強力なものかのどちらかだ。
「多分・・・両方ね・・・。」
クピンの霊力が高いのは前々からわかっている。だからこそ、この孵化の段階から何とかしてあげたいと思うプルーパ。
「・・・?」
気づくと、プルーパは朝食の場の前にいた。目の前には、クピンが割ったたくさんの皿がワゴンに乗ったままになっていた。
「・・・しょうがないわね。」
小さく微笑むと、プルーパはワゴンを厨房に向かって押し始めた。
・・・・・・・・・。
・・・・・・。
・・・。
「ふぅ・・・。」
厨房でクピンがする予定だった仕事を代理で終えて、プルーパは一息ついて厨房から出た。
「すっかり遅くなっちゃったわ。クピン・・・大丈夫かしら。」
時計を見てみると、自室を出てから三時間程経ってしまっていた。
「急がないと!」
厨房で特別に作らせてもらったお粥を持って、足早に自室を目指す。
ガチャ!
「クピン!」
自室の扉を開けて中に入る。何の反応もないのに疑問を持ってベッドに目を向けると・・・。
「・・・いない?」
ベッドの上に、クピンの姿はなかった。掛け布団がめくられているのを見ると、どうやらクピンは自分の意思でベッドを出たようだ。
「いけない!早く見つけないと!」
お粥を置いて、プルーパは自室を飛び出した。
「この辺りにはいないみたいね・・・。」
プルーパはすぐさま図書室に向かって走り出した。
プルーパが追っているのは、クピンが放出している霊力だ。孵化するために放出している霊力は、本人の意思で抑制することができないため、まるで足跡が残っているかのように、クピンがどこにいったのかがわかってしまうのだ。
図書室に着いたプルーパはすぐさま扉を蹴り開ける。
「クピン!!!」
すぐさまクピンを探し回る。
「・・・・・・・・・!」
隅から隅まで探し回り、古い本の倉庫を探し始めた時、プルーパはようやくクピンを見つけることができた。
「クピン!大丈夫!?」
クピンは、古い本に埋まって倒れていた。さっきよりも激しく息をしていて、指先にすら力を入れることができなくなっていた。
「無理しないの!ベッドに戻るわよ!」
クピンを抱えあげようと腕を持つ。
パシン!
「!?」
急に訪れた手の痛み。それは、クピンがプルーパの手を叩き落としたことで起きた痛みだった。
「クピン・・・?」
訳もわからず立ち尽くすプルーパ。対してクピンは、しまった、といった表情を浮かべていた。
「も・・・申し訳ありません!プルーパ様の手に何てことを!」
プルーパの手を殴った自分の手を噛みきろうと口を開ける。それを見たプルーパは、すぐさまクピンの手を握った。
「いいのよ!気にしないで!さぁ、部屋に戻るわよ!」
そう言って部屋に連れていこうとするが、クピンはその場を離れようとしない。
「私のことは・・・お気になさらずに・・・。」
「そうは言っても・・・その体じゃ何もできないわよ?」
しかし、クピンは表情を崩さないように力を込めながら、弱々しく口を開いた。
「いえ・・・私はまだやれます・・・もう・・・化け物と呼ばれ・・・たくないです・・・!」
「化け・・・物・・・?」
再び本の整理を始めようとするクピン。しかし、体がついていかずにその場に倒れてしまった。
「とにかくダメよ!これ以上無理したら死んじゃうわよ!」
「いや・・・もう・・・一人になるのはいや・・・!」
いつの間にか、クピンの目から涙が流れていた。
「・・・クピン?」
「いや・・・いや・・・いやぁぁぁ!!!」
涙が溢れる。
「!!!」
その時、クピンの目から流れる涙が、急に光を放ち始めた。涙から放たれた光は、溢れてくる涙に比例してどんどんと強くなっていく。
「クピン・・・?」
「いやぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
クピンが悲痛の叫びを上げた瞬間、涙から放たれた光が図書室を包み込んだ。
視界が全て光に包み込まれ、プルーパは変な浮遊感に襲われた。それは、自分がどこにどう立っているのかわからなくなる程だった。
「この光は・・・何?」
やがて、光に飲まれたプルーパの視界に、一つの景色が映り始めた。




