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Sand Land Story 〜砂に埋もれし戦士の記憶〜  作者: 朝海 有人
第三章 白の勇者と古の記憶
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霊力

 一日目の遅い朝。


「ん・・・。」

 自室でゆっくりと体を起こすプルーパ。

「・・・あら・・・いつもより起きるの遅かったわね・・・。」

 壁の時計を見て、プルーパはベッドから下りて身支度をする。

「・・・。」

 いつも以上にボサボサの髪と乱れた服を、いつも以上に時間をかけて直す。

 昨日の夜、プルーパはベッドの上でずっと答えを探していた。悩みに悩んで、いつの間にかプルーパは何度も何度も寝返りをうっていた。

「年甲斐もなく悩んで寝不足なんて・・・笑われちゃうわ・・・。」

 ようやく身支度を終えると、目の下のクマをそのままに、プルーパは自室の扉を開けた。




「プルーパ様?」

 廊下を歩いていたプルーパに突然かけられた声。振り向くと、プルーパを意外そうな顔で見つめているクピンが立っていた。

「どうなされたのですか?もう皆様は朝食を済まされましたが・・・。」

「あら・・・そうなの。じゃあ今からいただこうかしら。」

 そう言って、プルーパは朝食の場に向かった。

「私もお供させていただきます!」

 その後ろを、慌てた様子でクピンが追いかけていった。




「いただきます・・・。」

 誰もいない朝食の場で、プルーパは小さく呟いた。

 もちろん食が進むわけがなく、食べ初めてから五分もしない内に、プルーパはフォークを置いた。

「・・・ごちそうさまでした。」

「・・・。」

 暗く沈んだ様子のプルーパの後ろで、クピンも同じように暗い様子になっていた。

「・・・では・・・お皿をお下げいたします・・・。」

 暗い雰囲気を振り払い、クピンはプルーパの前の皿を片付け始めた。

 皿を全て、近くにあったワゴンに乗せて、クピンは厨房に向かってワゴンを押して歩き始めた。


「・・・・・・・・・。」


ガシャン!!!


「!!!」

 突如響く音。何事かと思って見てみると、プルーパの目の前に広がっていたのは、ひっくり返ったワゴンと激しく砕け散った皿。そして、砕け散った皿の破片に埋もれて倒れているクピンの姿があった。

「クピン!」

 すぐさまクピンに駆け寄って体を起こす。外傷は無いが、明らかにクピンの様子はおかしかった。

「ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・。」

 顔を真っ赤にしながら激しく息をしているクピン。

「クピン!一体どうしたの・・・熱っ!」

 額に手を触れてみると、反射的に手を引っ込めてしまうほどに熱くなっていた。

「すごい熱・・・とりあえず医務室に!」

 クピンを抱えあげようとした瞬間、クピンは首を振った。

「いえ・・・大丈夫です・・・お気になさらずに・・・。」

 クピンはすぐさま身を翻し、おぼつかない動きで落ちている皿の破片を拾い始めた。

「クピン!無理しないで!」

「無理なんて・・・していません・・・ご心配なさらずに・・・。」

 皿の破片を全てワゴンに戻し、クピンは再びワゴンを押し始めた。

 歩き始めるも、すでにクピンの体には、前に歩くという動作をする力すらも残っていなかった。

「・・・。」


バタ・・・!


 今度は、倒れる瞬間にワゴンから手を離して、皿が再び散らばるのを防いだ。

「!!!」

 何かに気づいたようにハッとするプルーパ。それを横目に、無理して歩こうとするクピン。

 そんなクピンを、プルーパは強引に抱え上げた。

「プルーパ・・・様・・・!」

「医務室じゃダメね・・・私の部屋に行くわよ。」

 クピンを抱え上げたまま、プルーパは自室に向かって歩き始めた。




「これでいいわね・・・。」

 自室のベッドの上にクピンを横にさせ、プルーパは応急処置を施した。

「私は・・・大丈夫ですから・・・この程度の風邪・・・。」

 そう言ったクピンの頬を、プルーパは軽く撫でながら口を開いた。

「いいえ・・・これは熱じゃないわ・・・。」

「え・・・では一体・・・。」

 そこでプルーパは、クピンを一点に見つめながら口を開いた。

「これは・・・眠っている"霊力の卵"が孵化する瞬間に現れる現象よ。孵化するために卵から放出されている霊力に体がついていけなくて・・・体から高い熱を放っているのよ。」

 強い霊力を持つ者は、最初から霊力が強いわけではない。どんなに強い霊力の持ち主でも、必ずどこかで"霊力の孵化"という段階を踏んでいるのだ。

 しかもこの"霊力の孵化"は、人によって現れる時期が違う。老いてから始まる人もいれば、床に伏している時に始まって、熱に体がついていかずに息を引き取る人もいる。もちろん、クピンのように幼い時期から始まる人も少なくない。

「安心して。しばらく熱が続くだろうけど、時期が過ぎればすぐに良くなるわ。」

「私の・・・体は・・・どうなってしまうのですか・・・?」

 心配そうな顔で見つめるクピンに向かって、プルーパは笑みを浮かべた。

「大丈夫。少しだけ待てばすぐに良くなるわ。だから、しばらくは安静にしてなさいよ。」

 そう言って、プルーパは自室を後にした。

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