結束
二日目の朝。
「うぅ〜ん!」
自室のベッドから身を起こし、ローイエは軽く伸びをした。
伸び終えると、すぐさまベッドから飛び降りて、レジオンからもらった特注品の槍を手に持って構える。
小さく三回深呼吸したのち、ローイエはいつものように素振りを始めた。
「セイ!ヤァ!エイ!タァ!」
威勢のいい声が部屋に響き渡る。
しばらく素振りを続けたローイエは、出てきた汗を近くのタオルで軽く拭い、そのまま槍を持って部屋を飛び出した。
「来たな?」
訓練所にいたレジオンは、ドアの気配に気づいて立ち上がった。それと同時に訓練所の扉が開かれ、強い決意を秘めた表情のローイエが入ってきた。
「レジオン先生!今日はお願いします!」
頭を下げるローイエ。
「ハッハッハ!!!先生なんて初めて言われたぜ!」
呑気に笑っているようだが、その体から放つ威圧感は笑っていても健在だ。
「一日で槍の基本から応用までをガッツリ詰め込んだ特別メニューだ。当然キツいし・・・。」
そこで言葉を止めたレジオンは、持っていた大剣を振り上げて担ぎ上げた。
「加減は出来ねぇぜ・・・?」
「!!!」
ビクッと体を震わすローイエ。
レジオンが剣を担ぎ上げた瞬間、強い威圧感が放たれてローイエに襲いかかった。
修羅の道を何度も潜り抜けてきたレジオンの強力な威圧感は、生半可な気持ちで挑めば命の保証はされないほどだった。
しかし・・・。
「うん!絶対に挫けないからね!」
威圧感を真っ向から受け止め、ローイエは槍を構えた。その様子を見たレジオンは、まるで楽しいといったような表情を浮かべていた。
「よっしゃあ!しっかりついてこいよ!」
「もちろんだよ!!!」
訓練所に、槍と大剣がぶつかり合う音が響き始めた。
・・・・・・・・・。
・・・・・・。
・・・。
「よっしゃ!もう言うことなし!免許皆伝だ!」
「きゅ〜・・・。」
激しい疲れによって倒れ込むローイエと、達成感に溢れた笑顔を浮かべるレジオン。お互い傷だらけだ。
「よくやったぜローイエ。もうその槍はお前のものだ。」
「疲れた〜・・・。」
「これで・・・胸を張ってお前を戦地に送れるぜ。」
笑顔で大剣をしまうレジオン。しばらくして、ローイエはゆっくりと立ち上がった。尋常じゃない量の汗は、特訓がどれだけ過酷だったかを物語っている。
「いやぁ〜!体びしょびしょ〜!お風呂入ろ〜!」
「さぁてと・・・俺も入ろうかな・・・。」
「レジオン〜!」
訓練所を出ていこうとしたレジオンの手を、ローイエは掴んでぐいぐいと引っ張った。
「な!何だよ!」
「背中流してあげるぅ〜!」
「・・・・・・・・・はぁ!?」
「砂風呂気持ちいい〜!」
ここは城の中の大浴場。
ローイエとレジオンは、砂風呂に浸かって体を癒していた。
「やれやれ・・・女王と風呂に入るなんて初めての経験だぜ・・・。」
「変な気起こさないでよぉ〜!」
「誰が起こすかよ・・・まだ10年早いぜ。」
「ぶぅ〜!」
頬を膨らますローイエを横目に、レジオンは体を洗いに向かった。
「あ〜!待ってよ〜!」
慌ててローイエはレジオンの後を追いかけ、座り込んでいるレジオンの背中に石鹸を持ってきた。
「洗ってあげるねぇ〜。」
「ちっ・・・もうどうにでもしやがれ・・・。」
背中を洗われながら、レジオンは物思いに耽っていた。
思えばこの二日、本当に色々なことがあった。子供だと思っていたローイエがいつの間にか強くたくましく成長していたことがわかったこと、自分の生きてきた過去を本気で思ってくれている人との出会い。
「ねぇ、レジオン。」
「あぁ?」
突如、ローイエがレジオンに話しかけた。
「絶対に皆一緒だからね。レジオンもお兄様も・・・皆一緒だよ。」
「・・・あぁ。」
二人は誓いあった。絶対に離れないという鉄の結束を・・・。
「グンジョウ・・・お前の愛娘達は皆、強く成長したぜ・・・だが、まだまだ尻が青い小娘って所だ。だから・・・守ってやるぜ。新国王と一緒に・・・お前の愛娘全員をな・・・。」
レジオンは心の中で呟いた。