満面
廊下に響き渡る激しい足音。足音の音源は凄まじい勢いで城の廊下をかけていく。
「ハァ!ハァ!」
足音の音源―――ローイエはどんどんとスピードを上げて、目的地のレジオンの部屋に向かって走り続ける。
「ハァ!ハァ!ハァ!」
いつの間にか、ローイエの目からは涙は無くなり、強い表情になっていた。
「レジオンの・・・馬鹿・・・!」
思いを吐き捨て、ローイエはレジオンの自室の前に立った。
バァン!!!
「レジオン!!!」
部屋の扉を勢いよく開ける。
「・・・ローイエ?」
自室の椅子に座っていたレジオンに向かって、ローイエは歩み寄って口を開いた。
「レジオン・・・私も戦う!!!」
その言葉を聞いて、レジオンはかつてないほどに真面目な表情でローイエを見つめた。
「ダメだと言っているだろう!お前を死なすわけにはいかない!」
それを聞いたローイエは、涙を流しながら決意を叫んだ。
「私は死なないもん!!!」
「!?」
ローイエの叫びと勢いに押され、レジオンは驚いた表情で黙りこんだ。
ローイエは黙りこむレジオンに向かって、さらに言葉を続けていった。
「絶対に生きるって誓うから!私もお兄様も・・・もちろんお姉様も皆も・・・全員で一緒に生きて帰るって誓うから!」
「・・・!」
そして、ローイエは最もレジオンに伝えたかった言葉を叫んだ。
「もう・・・負の霊力なんて関係ないよ!レジオンがそばにいるから死んじゃうなんて・・・そんなの関係ないよ!」
「お前・・・どこでそれを・・・。」
レジオンの呟きもお構いなしに、ローイエは涙を流しながら続ける。
「私は絶対に・・・絶対に負の霊力なんかに負けないから!お兄様もクロト様もシアンお姉様もプルーパお姉様も、バルーシもリーグンもフカミちゃんもキリミドちゃんもランブウもクピンちゃんも!絶対に負の霊力なんかに負けないで生きて帰ってくるから!だから・・・絶対にレジオンを一人にしないから!!!」
「・・・。」
「ぐす・・・ぐす・・・ふええええぇぇぇぇん!!!」
感情が高ぶりすぎて、ローイエはそのまま泣き崩れてしまった。
「・・・。」
ポン・・・。
「ふぇ?」
しゃがみこんで泣いているローイエの頭を、レジオンは軽く叩いた。
「レジオン・・・?」
「いいから泣き止め・・・。」
軽く叩いていた手を止め、今度は頭を軽く撫でる。
「やれやれ・・・まさか十代の異性に諭されるとはな・・・。」
「えへへ・・・私だって女王なんだよ・・・。」
涙声のまま強がるローイエに、レジオンは優しく微笑んだ。
「俺は昔から・・・いく先々で災いを招いちまうから・・・いつの間にか"悪魔"だなんて呼ばれていた時期もあった・・・。」
「レジオンは悪魔なんかじゃないよ!優しくて強い・・・皆の憧れだよ!」
「ははは・・・初めて言われたぜ・・・。」
「レジオンはレジオンだよ。負の霊力なんか関係ない。私はそんなレジオンが好きだよ。」
ローイエは満面の笑みでレジオンに抱きついた。抱きついたローイエの頭をくしゃくしゃと撫でるレジオン。
「でも〜・・・。」
「ん?」
「お兄様はもっと好き〜!」
「ズコッ!」
こけるレジオン。
「ちっ!結局そうなるのかよ・・・。」
「当たり前だよ〜!」
こけたレジオンを見て笑うローイエに釣られて、レジオンはずっと暗かった表情を崩して笑った。
「なるほどねぇ〜・・・。」
そう言うと、レジオンは自室の奥に向かって歩き出した。そして、机の裏側に手を伸ばした。
「どうやら俺の努力は・・・!」
言葉と同時に、レジオンは机の裏から勢いよく何かを引き抜いて、地面に叩きつけた。
「無駄じゃなかったみてぇだな!」
ズゥン!
「!!!」
レジオンが出したのは、傷一つなく光輝く大きな槍だった。
「何・・・これ?」
「新しい槍だよ。しかも俺様が作ったローイエ専用の特注品だ。」
光輝く槍を、ローイエは手に持ってみた。
「軽い!しかも振りやすい!」
「当たり前だ!三ヶ月前から毎日少しずつ作ってたんだぜ?」
新しい槍はローイエにとって一番扱いやすい重量であり、最も振りやすい細身の形状をしていた。
「しかし!」
レジオンはローイエに向かっていった。
「これはお前が今まで使ってた槍とは扱い方が全く違う。今までのやり方を見直して一から学ばなきゃいけねぇんだ。」
「・・・それって?」
「残り一日、つまり明日。一日中みっちりと基礎から応用までを詰め込んだ練習メニューがある。一日でやる分、内容は濃いしかなり辛い。」
「・・・。」
「それでも・・・やるか?」
その言葉に、ローイエは満面の笑みで答えた。
「もちろんやる!」
「よっしゃあ!よく言ったぜ!」
ローイエの決意に、レジオンは自分が持つ最高の笑顔で答えた。