哀愁
一日目の朝。
「エイ!ヤァ!」
部屋の中に響く威勢のいい声と、槍が空を切る音。
少女―――ローイエは、自室で槍の素振りをしていた。
これから始まる戦いに備え、ローイエは自分なりに準備をしていた。
「よし!素振り百回終了!」
流れていた汗をタオルで拭い、ローイエは満足そうな表情で槍を立て掛けた。
「朝ごはん食べよ〜っと!」
ローイエは意気揚々と歩いていった。
「ん?あれって・・・。」
その途中、ローイエは廊下の先に人影を見た。その人影は、廊下の窓から景色を眺めている。
ローイエはその人影に話しかけた。
「何やってるの?レジオン。」
人影―――レジオンはローイエの方を向いて笑った。
「いや・・・ちょっと考え事をな。」
レジオンは少し自嘲気味に笑った。
「ふ〜ん・・・あ!」
ローイエはレジオンを見て、何かを閃いたように手を叩いた。
「ねぇレジオン!お願いがあるの!」
「何だ?デートか?悪いが10歳は守備範囲に入ってねぇぜ?」
「違うよ!!!」
怒った感じで睨むローイエ。
「冗談だよ冗談!」
慌てて弁解するレジオン。
少しむくれた後、ローイエは閃いたことを口にした。
「ねぇレジオン、私の槍の稽古をつけて!」
「!」
レジオンの表情が曇った。そんな表情もお構いなしに、ローイエは笑顔でレジオンに近づいていく。
「私もお兄様のために戦いたいの!お姉様よりも強くなってお兄様の一番になるの!だからレジオン!私に稽古をつけて!」
「・・・本気で言ってるのか?」
「・・・え?」
暗い表情のレジオンの言葉に、ローイエは驚きと恐怖を覚えた。
「ローイエ・・・お前は本気で戦うつもりなのか?」
「も!もちろんだよ!お兄様のためだもん!」
それを聞いて、レジオンはさらに表情を暗くした。
「駄目だ・・・。」
「何でダメなの?」
「・・・。」
そこでレジオンは、ローイエを一心に見つめて口を開いた。
「ローイエ。お前を戦場に出すわけにはいかねぇ。」
「・・・え?何で・・・?」
レジオンの言葉に、言葉がうまく見つからないローイエ。そんなローイエに、レジオンはさらに続けた。
「今回の戦いは今までの戦いとは訳が違う。お前の目の前で多くの人達が死ぬ。そんな場にお前を送り込むわけにはいかねぇ。」
「そんな!私だって戦える!お兄様の役に立ちたいよ!」
「いや駄目だ!お前は戦いが終わるまで部屋にいろ!戦いには絶対に参加するな!」
次第に命令口調になっていくレジオンに、ローイエはどんどんと怒りを募らせていく。
「何で戦っちゃダメなの!?」
「・・・。」
「何でレジオン達と一緒に戦っちゃダメなの!?」
「・・・それが・・・ダメなんだよ・・・。」
「えっ・・・?」
初めて見るようなレジオンの寂しげな表情。
そんな表情を浮かべながら、レジオンは小さく呟いた。
「とにかくダメだ・・・お前をまだ・・・死なせたくない・・・。」
そう言って、レジオンは寂しげな表情のまま去っていった。
「レジオン・・・。」
去っていくレジオンの背中を見ながら、ローイエは小さく呟いた。
今までのレジオンからは考えられないような表情は、ローイエの心の中に深く残った。自然とローイエの顔も沈んでいく。
「でも・・・。」
しかし、ローイエはすぐさま表情を変えて、小さく拳を握った。
「諦めないもん・・・!絶対・・・皆を守るために戦うんだから!」
ローイエは決意した。




