追跡
森地帯に入っていくレーグを確認したシロヤとプルーパは、目を見合わせた。
「明らかにおかしいわ・・・大臣が森地帯に一人で入るなんて。」
「それに・・・入る前に周りを確認してました。人目を気にしているんでしょうか?」
レーグは明らかに挙動不審だった。森地帯に自分が入ることを他人に知られたくないのだろうか。
考えている二人に、後ろから二人を呼ぶ声が聞こえた。
「シロヤ様〜!プルーパ様〜!」
声の主が後ろから走ってくる。声の主はバルーシだった。慌てたような表情で、顔を汗だくにしていた。
「バルーシ!まさかあなた、レーグを追って?」
「はい!会議が終わると同時に、誰にも言わず護衛も無しに城を出ていきました。」
どうやらレーグは、自分の行動を人に知られないように徹底している。不審な動き、怪しい噂には、レーグが何かしら関わっている可能性が非常に高いと三人は踏んだ。しかし、まだ証拠は不十分だ。
「バルーシさん、俺、レーグを追ってみます。」
口を開いたのはシロヤだった。バルーシは慌ててシロヤを止める。
「無茶だ!この先は未開拓地帯だ!何が出てくるかわからないぞ!」
「でも怪しいなら確かめるべきです!どんなに危険でも行ってみましょう!」
バルーシを説得するシロヤ。その瞳には熱意が秘められていた。
その熱意が伝わったのか、プルーパが一歩前に出た。
「私もシロヤ君の意見に賛成よ。今動かなければ解決なんて程遠いわ。」
二人の熱意に押され、バルーシは唸りながら頭を縦に振った。
「ん〜?バルーシいつ来たの〜?」
バルーシの後ろから、食事を終えたローイエとクロトがのんきにやって来た。
「ローイエ、今からシロヤ君と行かなきゃいけない所があるの。」
「だからクロト、ローイエ様と城に帰っていてくれ。」
ローイエは不満そうな顔をし、クロトはシロヤを心配するような瞳で見つめる。おそらく今から危険な所に行くのだろうと、直感で感じ取ったのだろう。
「大丈夫だ!プルーパ様に何かあったら俺が守ります!」 シロヤは肩の剣に手をかけて強気で言った。
「・・・シロヤ様がそこまで言うなら大丈夫かな?」
「シロヤ様を信じよう。シロヤ様とプルーパ様なら大丈夫だ。」
バルーシはローイエを励ますように言葉をかける。
それで安心したのか、ローイエは静かに首を縦に振った。
「ありがとう、ローイエ。」
笑顔のローイエの頭を撫でるプルーパ。
「プルーパ様、行きましょう。」
森地帯に入っていくシロヤとプルーパを、ローイエとクロトは心配そうに見つめていた。
未開拓地帯は、国境近くの森地帯とは格が違っていた。国境近くの森地帯はまだ整備がされていたが、未開拓地帯はその名の通り何も手がつけられていなかった。
大きな岩や見たことない植物が入り乱れる道を歩く二人。
「こんな先に・・・何があるんでしょうか?」
「レーグのことだからろくなものじゃないわよ。」
緊張するシロヤとは対称的に、まるで慣れたように道を進むプルーパ。どんどんと二人の差は離れていった。負けじと気合いで追いかけるシロヤ。
ふと、プルーパが歩くのを止めた。何事かとシロヤは近づいてプルーパに訪ねる。
「プルーパ様?何かあったんですか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・来る!」
プルーパが今まで見たことないようなオーラを放った瞬間、木々が意思を持ったように動き出した。木の枝が伸び、今にも二人を貫かんばかりの勢いで動き回る!
「う!うわぁ!」
シロヤは尻餅をついた。今までの旅で見たことない相手だ。肩から剣を抜くが、剣を持つ手はカタカタと震え上がる。
一本の枝がシロヤめがけて伸びる!
「うわあぁぁぁ!」
シロヤはかろうじて受けたものの、今まで感じたことのない力に、全身が震え上がるほどの恐怖が襲いかかる。
それを狙うかのように、シロヤを狙って再び枝が伸びる。シロヤは思わず目を閉じた。
「・・・?」
訪れない痛み。シロヤは目を開けて目の前を確認する。
枝は自分の目の前で止まっていた。そして枝には、三本の短剣が刺さっていた。
「シロヤ君!大丈夫?」 シロヤの横にいたプルーパは、切っ先が眩しいくらいに光輝く短剣を両手に持っていた。持っている短剣と、枝に刺さっている短剣が同じなのを見ると、どうやらシロヤを助けたのはプルーパのようだ。
「シロヤ君、今すぐ下がって。」
凛とした声に押され、シロヤは後ろに下がった。
プルーパはシロヤの位置を確認すると、シロヤに向かってウィンクをした。シロヤには今のウィンクが、「安心してね」と言っているように見えた。
動き回る枝と向かい合うプルーパ。しばらく向かい合ったのち、プルーパが先に動いた。
「・・・?」
プルーパの動きは、戦士のような動きではなかった。言うなれば、踊り子の踊りだ。まるで舞踊のように華麗に舞うプルーパ。舞いながら、向かってくる枝を華麗に避けている。
そして一瞬見えた隙、ほんの一瞬の内に、プルーパは動き回る枝の奥、木々の本体を狙った。