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Sand Land Story 〜砂に埋もれし戦士の記憶〜  作者: 朝海 有人
第三章 白の勇者と古の記憶
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誓約

 リーグンを背負って、バルーシは未開拓地帯を歩いていた。

「ぐぅ・・・!」

「大丈夫ですか?リーグン様。」

「えぇ・・・何とか・・・。」

 僅かな段差の揺れで小さく呻くリーグン。そんなリーグンを気遣いながら、バルーシはゆっくりと城に向かって歩いていた。

「リーグン様・・・何故あのような無茶をなさったのですか・・・?」

 それを聞くと、リーグンは悲しげに話始めた。

「あいつらは・・・私のお母様の墓を壊した・・・それを認めた時、私の体は勝手に動いていました・・・我を忘れて戦っている内に・・・残っていたのは先程の戦士だけでした・・・。」

「・・・。」

「馬鹿ですよね・・・たかがこれしきの事で我を忘れるなんて・・・墓ならいくらでもどこにでも作り直せるというのに・・・。」

 そこまで聞いたバルーシは、リーグンの言葉に違和感を抱いた。

「・・・どこにでもなんて・・・。」

「・・・おかしいと思いますか?」

「あの場所はリーグンの母君様が眠っておられるただ一つの場所・・・代わりなど」

「いえ・・・違うんです・・・。」

 リーグンは言った。その表情と声は、暗く悲しい雰囲気だった。

「あの場所にお母様はいません・・・いえ、この世界にお母様の体はありません・・・。」

「・・・。」

 バルーシは言葉を失った。何を言えばいいかわからず、無意味な言葉だけがバルーシの頭を取り巻く。

 そして、リーグンはまるで昔話を語るかのように、ゆっくりと口を開いた。

「私の父、レーグは・・・汚染植物の開発に携わっていました。しかし・・・父は植物の実験では足りないと判断し・・・当時率いていた部下達と共に・・・"生体兵器"の開発に乗り出しました・・・。」

「生体・・・兵器・・・?」

 聞き慣れない言葉が出てきた。

「生体兵器とは、人間を改造して作り上げる禁断の研究・・・当然城に書物があるわけがない・・・父達は手探りの状態で、一人の被験者を選び出して研究を始めました。」

「一人の被験者・・・?」

 バルーシはハッと表情を変えた。

「えぇ・・・それこそが私の母親です・・・。」

 リーグンの声が、次第に暗く涙声になっていく。

「お母様は・・・何度も苦しみを与えられながらも・・・父達に生かされてきました・・・そして・・・父は研究の最終段階として、最後の手段を取りました・・・。」

「その・・・最終手段とは・・・?」

 リーグンは言った。


「種付けです・・・。」


「・・・。」

 バルーシは何も喋ることが出来なかった。

「私は・・・父の歪んだ研究と母の望まない妊娠によって産まれた・・・生体兵器の被験者だったのです。」

 そこまで言ったリーグンの声は、深海よりも暗くなっていた。それでもバルーシは、リーグンの言葉を聞き続けた。

「当然母は・・・私を被験者として扱うことに反対しました。そして母は私を父の元から逃がし、被験者を逃がした罰として・・・。」

「・・・。」

「母は最後まで・・・私のために戦ってくれました。我が身を壊してでも私に生きてほしいと・・・。」

 ここまで言葉が出てきたが、ついにリーグンは涙をボロボロと流して口を閉じた。これ以上は自分の口では言うことが出来なかった。

 しばらく二人を沈黙が取り巻いた。


「素晴らしい方ですね・・・。」


「!」

 最初に沈黙を破ったのはバルーシだった。

「リーグン様のために強く生きられたのですね・・・我が身を犠牲にして・・・。」

「・・・。」

「強い母君様ですね・・・。」

 いつの間にか、バルーシも涙を流していた。バルーシは涙を流しながら、さらに言葉を紡いでいく。

「どんな産まれ方をしても、母君様にとってはリーグン様はたった一人の自分の子供・・・。だからこそ母君様は・・・リーグン様に生きてほしかったのでしょうね・・・。」

「・・・。」

「今ならわかる気がします・・・私が犯していた過ちが・・・。」

 ずっとわからなかったバルーシの頭の疑問の種に、ようやく答えが出てきた。

「生きるということは・・・この世でもっとも簡単で難しいこと・・・そして・・・誰かのためになること・・・。」

「・・・。」

「誰かのために死を選ぶということは・・・誰のためでもないエゴイズムなのですね・・・。」

 バルーシは涙を振り払い、決意を秘めた表情で拳を握った。

「リーグン様、私に答えを出させてくれて・・・本当にありがとうございます!」

 迷いを振り切ったバルーシの言葉を聞いて、リーグンは小さく微笑んだ。

「・・・絶対に生きましょう。」

「はい!シロヤ様のために!」

 バルーシは懐に入っていたままの遺書を、その場で破り捨てた。


 二人は誰かのために生きることを誓った。それが彼らの答えだった。

 そして、二人は城にたどり着いた。

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