母上
「私はあなたに失望しました・・・。」
リーグンの言葉が蘇り、頭の中をグルグルとかき回す。
「忠義の・・・意味ですか・・・。」
バルーシは呟いた。
リーグンのあの言葉は、自室に戻ってからもバルーシの頭を常についてきた。時間にして、かれこれ三時間以上は経っている。
「・・・。」
リーグンの言葉は、自分の生きてきた今までの全てを否定するような言葉だった。しかし、バルーシは反論することも、怒りを表すこともできないでいた。
「・・・!」
ふと窓を見たバルーシは、窓の景色の向こう側に人影を見た。それは、バルーシの頭を取り巻く疑問の種を蒔いた人物だった。
「リーグン・・・様?」
窓の向こうの何もない砂丘で、リーグンは手を合わせていた。
「あれは・・・。」
バルーシは部屋を出た。
「お母様・・・。」
リーグンは下を向きながら呟いた。
その目線の先にあったのは、小さい砂の山に突き立てられた小さな木の棒だった。
リーグンはそこに再び手を合わせて、小さく頭を下げた。
「・・・。」
その光景を、バルーシはしばらく眺めていた。
「やはりあれは・・・。」
心の中でそう呟くと、その声が聞こえたかのように、リーグンは頭を上げてバルーシの方向を見た。
「バルーシ・・・さん?」
「リーグン様・・・。」
バルーシはリーグンに歩み寄り、リーグンの足元の小さな木の棒に目を向けた。
「・・・それは、お母様のお墓です。」
リーグンは言った。
「私のお母様は・・・私を産んでからすぐに亡くなられて・・・だから私は顔すらも見たこともありません・・・。」
悲しげにリーグンは言葉を発していく。
「しかし・・・私にとってはたった一人の母親です。だからこうして・・・。」
そこまで聞いたバルーシは、リーグンと同じように手を合わせて頭を下げた。
「・・・。」
二人はしばらく、リーグンの母親の墓に黙祷を捧げた。
「あの・・・バルーシさん。」
城に戻ったリーグンは、突如口を開いた。
「先程はすいませんでした・・・バルーシさんにあんなことを言ってしまって・・・。」
「何故謝られるのですか?」
バルーシは微笑みながら、リーグンの方を向いた。
「私も一度、自分を見直す機会が得られました。だからリーグン様、私はむしろお礼を申し上げたいくらいです。」
バルーシの微笑みに、リーグンも同じように微笑んだ。
「・・・お母様が生きておられたら・・・きっとバルーシさんのように優しい言葉をかけてくれたのでしょうね。」
急に、リーグンは哀愁を顔を浮かべた。
「・・・リーグン様?」
「・・・すいませんでした!私もどうにかしていました。」
そう言うと、リーグンは作戦会議室に向かって歩き出した。
「すいません。調べたいことがありますので、私はこれで失礼します。」
リーグンはすぐさま走っていってしまった。
「・・・リーグン様。」
さっきの表情に、バルーシはリーグンに奇妙な違和感を覚えた。そしてその違和感には、とある単語が引っ掛かっている気がした。
「リーグン様の母上様とは・・・一体・・・。」
バルーシの頭の中に、さらなる疑問の種が蒔かれた。