秘策
「それでおめおめと逃げ帰ってきたって訳か・・・。」
「・・・返す言葉もないわ。」
暗い空間の中で、男と女が話していた。
「俺は違うぜ!俺はケーキのいちごは最後まで食べないタイプなんだよ!」
「・・・どういう意味だ。」
「バルーシ・・・あいつは俺がみっちり料理してやるぜ!だから残しておいたんだ!」
女の後ろにいた男―――ドレッドが叫んだ。
「・・・まぁいい。」
男はすぐさま身を翻し、暗い部屋の奥に向かって膝をついた。
「・・・我らが王よ。創生の準備は整いました。今すぐにでも出撃命令を出していただければ・・・。」
そう言うと、暗闇の奥から低い声が響き渡った。それはまるで、ドラゴンが唸るような声だ。
「焦るな・・・まだ時期ではない・・・。」
「時期ではない・・・と申されますと?」
女性―――ルーブは暗闇の奥に疑問を投げかけた。
「お主らに新たに与えた新たな駒・・・奴はまだ覚醒していない。」
三人は一斉に同じ方向を見た。その視線の先にいたのは、一人の男だった。男は置物のように動かなく、一言も発していない。
「覚醒にはどれぐらいかかるんだ?」
ドレッドが聞くと、暗闇の奥から二本の指が出てきた。
「・・・二日だ。」
「では、攻撃は二日後ということですか?」
指が暗闇に戻り、奥から笑うような声が聞こえた。
「ふふふ・・・忌々しきチラプナの子孫共・・・必ずこの手で抹殺してくれる・・・。」
悪魔のように響く声。
「しかしよぉ、本当にあいつらを倒せるのか?」
「何だドレッド。珍しく弱気ではないか。」
嘲笑うように言うルーブ。それを横目に、ドレッドは言葉を続けた。
「奴らは今までの奴らとは何かが違う・・・それに向こうには星もある。」
「心配するな・・・ドレッド。」
暗闇の奥の声は、含み笑いをしながら一つの方向を指差した。
「奴は・・・そのための秘策なのだ・・・。」
指差した方向にいたのは、置物のように佇む覚醒していない男だった。