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Sand Land Story 〜砂に埋もれし戦士の記憶〜  作者: 朝海 有人
第三章 白の勇者と古の記憶
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伝説

まだこの地がバスナダと呼ばれていない時代の話・・・。


 この地は、"魔を縛る地"として語り継がれていた。古来より、人々を苦しめた魔物を封印していた地として、古くからのバスナダの民はこの地を守ってきた。

 しかし・・・そんな平和は、あまりにも突然に崩れ去ることになった。

 事の発端は、一人の男による暴挙だった。

 この地は国としては栄えていなかったが、広い砂漠の地に集落が点々とあり、それぞれの集落には必ず長がいた。

 点々としている集落の中で一番大きい集落の長。彼は小さなお山の大将でいる自分に納得がいかなかった。自分はもっと多くの人の上に立ちたい、そんな思いが沸き、ついに行動に移した。


「進め!進め!進め!この集落の長を抹殺しろ!」


 男は他の集落を襲い始めたのだ。家を焼き払い、歯向かうもの達を切り捨てながら、いくつもの集落を手中におさめていった。

 やがてその男を中心に、この砂漠の地は国へと変化していった。

 もちろんそれに反発しようとしている集落もあったが、一度歯向かえば全てを焼かれ、全ての人間が手にかけられてしまうため、誰も行動に移そうとはしなかった。

 誰もが悪政に苦しめられていた中、ただ一人だけ、行動に移した男がいた。

 その男の素性は一切の謎であり、ただわかっているのは、他の国から来た旅人だということだけだった。

 そんな男を、悪政に苦しめられていたこの地の民は信頼していた。

 男は民の信頼に後押しされ、悪政を敷いていた男に立ち向かっていった。

 しかし・・・。


「無駄だ!もはや私の力は誰にも止められぬわ!」


 男の周りを包む黒い影。黒い影は男に人を超越した力を与えていた。

 この黒い影の正体は、この地に封印されていた魔の力である。男の深い深い黒い心が、封印されていた魔の力を呼び覚ましたのだ。

 旅人は男の黒い影に圧倒され、もはや勝ち目などは無いに等しかった。


「・・・方法は・・・あります。」


 そう言ったのは、旅人と共に男に立ち向かっていた女だった。女は言葉を続けた。

「私の命を糧に・・・あの者をこの地に封印するのです!」

「そ!そんな!誰かを犠牲にするなんて!」

 女は旅人の手を握った。

「いいのです・・・この国のために、あなたのために死ぬことが出来るなら・・・私は本望です・・・。」

 女の手が次第に光輝いていく。この光は、女の命の炎。今、命の炎が旅人に流れているのだ。

「嫌だ!俺はこんな力・・・使いたくない!」

 涙を流して叫ぶ旅人に向かって、女は同じく涙を流しながら微笑んだ。

「私は幸福者です・・・あなたと共にここまで来れて・・・。」

 喜びの表情を浮かべる女に、男は女の手を握り返した。

「あなたを一人にはしません・・・私も・・・あなたと共に行きます!」

 その言葉を聞いた女は、涙を止めることが出来なかった。涙を流しながら女は精一杯微笑んだ。

「あなた共に生きることが出来たこと・・・あなたのために死ぬことが出来たこと・・・私の人生の宝物です。」

「・・・さよならは言わない・・・また・・・またどこかで会える・・・会うんだ。」

「新たにあなたと会える日を・・・楽しみにしています・・・。」

 光は女を、旅人を、そして黒い影をも包み込んだ。




 しばらくして、光を見た集落の人間が見に来た時には、その場には誰もいなかった。

 代わりにそこにあったのは、魔の力を縛る礎だけだった。


 それから人々は、礎を守るために団結しあった。

 男が作っていた国は、新たに平和的な国として発展していった。

 その際に、旅人と共に戦いに向かった女が産んだ息子を、新たな王にするという方向で話が進んでいた。それは、過去を忘れないため、そして、英雄として語り継ぐためだった。

 人々は礎を守り、この地を守る旅人と女の伝説を語り継いでいった。


 これが、バスナダという国の始まりだった・・・。

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