恐怖
「・・・ん・・・。」
朝、シロヤはゆっくりとベッドから身を起こした。
「いつまで経っても・・・やっぱり慣れないな・・・。」
軽く体を動かしながら呟く。
シロヤが寝ていたベッドは、新たに王の自室に用意されたキングサイズのベッドだ。一人で寝れば寝返りを三回以上はうてるほどに広い。当然これは、三姉妹が"シロヤと一緒のベッドに寝たい"ということを全面に押し出して作らせた物であり、三姉妹はほぼ毎日ここでシロヤと寝ることになっている。
そんな毎日が当たり前だと思える日を待ち望むシロヤ。
そこへ・・・。
コンコン
「はぁい!」
扉がノックされた。急いで身支度を済ませて扉を開けると、バルーシが立っていた。
「バルーシさん、おはようございます。」
「おはようございます。シロヤ様。」
深々と頭を下げるバルーシ。ゆっくりと頭を上げて、バルーシは本題を切り出した。
「シロヤ様。今すぐ作戦会議室に来ていただけないでしょうか。兄さんが大事な話があると言っておりますので・・・。」
「ゴルドーさんが?」
「はい。シアン様達はすでに作戦会議室に向かわれております。」
確かにシアン達は今この場にいない。
いつもならば、シロヤが目覚めた時には三姉妹が必ず密着している状態なのだが、今日に限ってそれがなかった。
「わかりました。すぐに行きます。」
「では私は先に行っております。」
バルーシは走り出した。
「ゴルドーさんが・・・何の話なんだろう・・・。」
シロヤは呟いた。そして、壁にかけてあった剣を背中にかけて、作戦会議室に向かって歩き出した。
コンコン
「失礼します!」
作戦会議室の扉を開ける。その先には、シアン達三姉妹の他、バルーシ、レジオン、リーグン、クピンもいた。
そして、集まった人とテーブルを挟んで正反対の位置にゴルドーが座っていた。
「これで・・・全員か?」
ゴルドーが聞くと、プルーパがそれに答えた。
「いえ、まだ三人来る予定よ。」
「三人?」
その時、作戦会議室の扉が開かれた。
「お待たせ!」
「遅れて申し訳ありません。」
作成会議室に入ってきた二人の少女の姿をした精霊、フカミとキリミドだ。
「フカミさん!キリミドさん!」
「私達、プルーパ様に呼ばれてきました。何か大事な話があると言われたので。」
キリミドが説明する。
「お姉ちゃんが時間に無頓着だからだよ!お姉・・・・・・ちゃん?」
キリミドはフカミの方を向いて、そこで言葉を切った。フカミは驚きと戸惑いが入り雑じった複雑な表情でゴルドーを見つめていた。
「どうしたの?お姉ちゃん・・・あ!」
「何で・・・何であなたがここにいるのよ・・・。」
キリミドがゴルドーを見て表情を変える。フカミは耐えきれずに言葉を漏らした。
「・・・まさか・・・まさか今日集まったのって・・・。」
「久しぶりだな、フカミさん、キリミドさん。そう・・・あの話をしなければならない・・・。」
「えぇ!フカミさん達とゴルドーさんって知り合いだったのですが?」
シロヤ達全員が驚きの表情を見せた。
「えぇ。一応私達は砂の竜王時代以前から城には呼ばれたりしてたからね。」
フカミが説明を終える。
「・・・あれ?」
突如、ローイエが口を開いた。
「お兄様。ランブウがいないよ?」
「おかしいわね・・・ランブウも呼んだはずなのに・・・。」
プルーパが首をかしげた。それを見たフカミとキリミドが表情を曇らせた。
「あの・・・ランブウさんの件なんですが・・・。」
キリミドが曇らせた表情のまま口を開いた。
「・・・え?一体・・・どうなされたのですか?」
バルーシが何かを察知して不安な表情になる。そして、しばらく黙りこんだ後、キリミドが口を開いた。
「実は先日・・・国境警備隊の皆さんが国境付近で・・・。」
「!!!」
ゴルドーが勢いよく立ち上がった。
「まさか・・・!」
「はい・・・全身を貫かれた国境警備隊の皆さんとランブウさんが・・・。」
「!!!!!」
その場の全員が言葉を失った。
「私達がたまたま通りかかった時・・・すでに危険な状態でした。」
「私達の家に運んで何とか治癒魔法で傷は塞がったわ。でも・・・自立呼吸はまだ。輸血も魔法でゆっくりと行ってる状態、治る確率も五分より少ない、まさしく賭けの状態なの。」
誰もが黙ってフカミの言葉を聞いていた。
「そんな・・・あのランブウさんが・・・。」
誰もが恐怖と不安に襲われる中、ゴルドーは再び椅子に腰かけた。
「・・・やつらの仕業だろう。」
「やつらって・・・まさかあの来訪者のことか!」
レジオンが身を前に乗り出す。その後ろで、クピンが恐怖と戦いながらゆっくりと口を開いた。
「あの・・・あの方達は一体・・・。」
ゴルドーは、手を前に組んで肘をついた。
「この話は・・・バスナダという地が誕生した時まで遡る。」
ゴルドーはゆっくりと語りだした。




