狼煙
「兄さん・・・。」
王室を離れ、ゴルドーを兵士達の詰所に案内するバルーシ。悲しそうな表情のまま、ゆっくりと話し出した。
「先代国王が暗殺された日以来・・・行方不明となっていた兄さんを私は探し続けました。しかし・・・兄さんの影一つすら見つからずに何年も月日が経っています。一体・・・兄さんはどこへ・・・。」
そこでバルーシは話すのを止めて、ドアの前に立った。
「ここが兵士達の詰所です。」
バルーシは扉を開けた。
「ん・・・?バルーシか?」
詰所の中には先客がいた。先客は詰所の椅子に腰掛け、バラバラの紙を眺めている。シラフのレジオンだった。
「レジオンさん。」
レジオンはバルーシの奥にいた人影に気づき、人影を見つめた。
「!!!!!」
人影を認識した瞬間、レジオンは驚愕といった表情で固まった。椅子から勢いよく立ち上がり、石のように固まって人影を見つめ続けていた。
「レジオンさん・・・久しぶりですね・・・。」
ゴルドーは懐かしむように前に出ると、レジオンも複雑な表情のまま近づいた。
「お前・・・生きていたのか・・・?てっきり死んだかと思ってたぜ・・・。」
「死んでなんかいませんよ。私は今、確かにここにいますから。」
ゴルドーは笑った。それに合わせて、レジオンも笑い始めた。
「ハハハハハ!確かにおめぇは死ぬような人間じゃねぇな!」
軽く笑い合い、レジオンはそこでゴルドーに問いかけた。
「んで?今までお前はどこにいたんだ?」
軽い感じで聞いたレジオンだったが・・・。
「・・・。」
ゴルドーは笑いを止めて、表情を引き締めてゆっくりと歩き出した。その様子を、レジオンとバルーシが見つめている。
やがてゴルドーは詰所の窓の前に立ち、窓を開けて外を見ながら口を開いた。
「・・・始まるんです・・・この国の命運をかけた戦争が・・・。」
「・・・戦争・・・?」
バルーシが疑問を口にすると、ゴルドーはゆっくりと語り出した。
「すでに、狼煙は上がっています。」
「狼煙・・・?まさか来訪者二人のことか?」
窓を見ながら、ゴルドーはゆっくりと頷いた。
「あの二人は一体何者なのですか?これから・・・何が起ころうとしているのですか?」
心配そうな表情で話しかけるバルーシ。そんなバルーシを見ながら、ゴルドーはレジオンとバルーシの方を向いた。
「バルーシ。明日、作戦会議室に皆を集めてくれ。」
「皆って、まさか封印獄で誓いあった・・・。」
ゴルドーは頷いた。
「話しておかなきゃいけない。立ちはだかる脅威のこと・・・そして・・・バスナダと王家の真実をな。」
窓から風が部屋に向かって吹き込んだ。風は、真剣な表情で決意を口にしたゴルドーの金髪を、力強く舞い上げた。