兄弟
突然開かれた扉の先にいたのは、銀色の鎧を身にまとった銀髪の男だった。
「バルーシさん!」
シロヤが叫ぶと、その場の視線が一瞬だけバルーシに集まった。
「バルーシ!今すぐ下がってなさい!こいつを始末してから話はゆっくり聞くわ!」
プルーパの言葉で三姉妹はすぐさま殺気立った目付きに戻って鎧の男を睨み付ける。
「・・・!」
三姉妹は変に思った。男はバルーシの方を向いたまま、何とも言えない表情で石のように固まっていた。
「・・・。」
「・・・。」
同じように、バルーシも男を見つめたまま固まっていた。
二人の間に流れる異質な空気に、シロヤと三姉妹はその場を動けずにいた。
そして・・・。
「・・・バルー・・・シ・・・なのか?」
先に口を開いたのは、全身鎧の男だった。驚いたようにバルーシを確認している。その声を聞いて、バルーシも驚いたように口を開いた。
「まさか・・・いや、そんなはずは・・・!」
カタカタと震えるバルーシは、信じられないといったような表情を浮かべていた
「・・・安心しな。」
男は表情を引き締め、バルーシを一点に見つめた。
「・・・ここにいる俺は正真正銘の俺本人だ・・・心配かけてすまないな・・・。」
男はバルーシに近づき、バルーシの頭をゆっくりと撫でた。
「大きくなったな・・・バルーシ・・・!」
その言葉に、バルーシは目から涙をこぼした。
「無事で・・・よかった・・・!兄さん・・・!」
「!!!!!」
バルーシの一言に、その場の全員が驚きの表情を浮かべた。
「バルーシさんの・・・兄!?」
驚きを代表するかのようにシロヤが叫ぶ。
バルーシの兄は、そのままバルーシを見ながら言った。
「バルーシ。すまねぇが、頭の中見せてくれ。」
バルーシの頭の上にあった手が光り、その光がゆっくりと男の腕を流れて頭に流れていく。
「・・・なるほどな。」
光が消えて、男は手を離した。
「この国を二度も救った英雄だから国王になれたって訳か。」
男は、シロヤがこの国に来てからの功績に感心しながら、ゆっくりとシロヤに向かって歩き出した。
「お兄様!」
「ローイエ!」
槍を構えて男に近づこうとするローイエを制するプルーパ。
男はシロヤの前に立ち、シロヤの頭の上に手を当てた。
「!!!」
男の手が光ったと思った瞬間、目の前に森の景色が広がった。
「これは・・・!?」
声を出したと思っていたが、耳から自分の声が流れてこない。
しばらくすると、次第に目の前の森は城に、砂丘に、そして王室へと景色を変わっていった。
「間違いない・・・これは過去の・・・。」
そう思った瞬間、視界が元に戻った。男の手が離れ、男はわかったように頷いていた。
「今のはまさか・・・。」
「あぁ、あんたの頭の中の過去を見せてもらったぜ。」
そう言った瞬間、男はすぐさま膝まずいて頭を深く下げた。
「国王様!国を救った英雄とも知れずに犯した数々の非礼・・・お許しください!」
さっきまでの軽い感じから一変、その凛とした声はシアンにも負けていなかった。
「あの・・・あなたは一体・・・。」
そう聞くと、男は立ち上がって胸に拳を当てた。
「私は先代国王直属の元兵団長、現兵団長バルーシの兄、ゴルドーと申します!」
男―――ゴルドーはさらに頭を深く下げた。
「国王様もお気づきのことと思われます。これから始まる"戦争"の狼煙はもうすでに上げられております。この国を守るため、私は国王様と共に戦うことを誓います!」
再び胸に拳を当てて忠誠を誓うゴルドー。
「シロヤ・・・。」
「お兄様・・・。」
心配そうな表情でシロヤを見つめるシアンとローイエ。恐らく、ゴルドーをまだ信用できていないようだった。
しかし・・・。
「あら、頼もしいじゃない?」
ただ一人、プルーパだけが違った。
「この男・・・わからないけど信用できるわ。」
それは、三姉妹で最も霊力の高いプルーパが感じた第六感的感覚。ゴルドーを信用しても大丈夫という直感だった。
「・・・俺も・・・そう思います!」
シロヤもゴルドーから安心感を感じ、ゆっくりと口を開いた。
「ありがたき幸せ!」
ゴルドーはすぐさま深く頭を下げた。
「ねぇ・・・シロヤ君。」
ゴルドーが王室を出た後、プルーパはシロヤに話しかけた。
「どうしたんですか?プルーパ様。」
「ゴルドーって・・・前にどこかで会ったことあったかしら?」
「・・・え?」
シアンの過去の映像を見た時、ゴルドーは確かにシアン達三姉妹と会っていたはずだ。何よりゴルドー本人はシアン達を覚えている。しかし、プルーパはゴルドーのことを覚えてない。
忘れただけとは思えなかった。存在そのものを忘れてしまったような食い違い。
「一体・・・何なんだ・・・。」
謎は深まるばかりだった・・・。