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Sand Land Story 〜砂に埋もれし戦士の記憶〜  作者: 朝海 有人
第一章 白の青年と砂の国
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散策

 朝食後、シロヤは身支度を済ませる。王族と一緒に街散策など考えてもみなかったため、楽しみと緊張で変な顔になる。

「落ち着け・・・俺、落ち着け・・・。」

 そうだ、別に何かするわけでもないんだ。ただ一緒に散歩するだけだ。シロヤは頭の中で必死に自分に言い聞かせる。


「シロヤお兄様〜!準備できたよ〜!」

 ドアを開けて、ローイエとプルーパが入ってきた。さっきまでのドレスから一転、ローイエは外出用の地味な服に身を包んでいる。一方プルーパは、外出用にしては立派なドレス姿だった。

「あの・・・プルーパ様?ドレスで外に出られるんですか?」 プルーパは微笑みながらシロヤの頬に手を添えた。

「女はいつだっておしゃれしたいのよ。特に男性と歩くときなんかには・・・ね。」

 プルーパは軽くウィンクをした。

「じゃあシロヤお兄様!行きましょ〜!」

「うわぁ!ローイエ様!」

 ローイエはシロヤの腕にがっしりと抱きついた。そんな二人の様子に微笑みながら先を行くプルーパ。

「もう〜!様つけないでよ〜!」


「改めて見ると、大きい城だな〜!」

 シロヤは後ろにそびえる城を見上げた。昨日、自分はここに泊まっていたのが嘘のようだった。

「シロヤ君、君の相棒が待ってるわよ。」

 城に見とれているシロヤの後ろには、昨日バルーシが連れていったクロトの姿があった。

「クロト!何だか久しぶりに感じるよ!」

 クロトに抱きつくシロヤ。クロトは何事かと首をかしげた。しかしシロヤはお構い無しに抱きついた。

「よしクロト、街散策に行くぞ。」

 クロトに乗るシロヤ。

「シロヤお兄様、私もクロト様に乗りた〜い!」

 キラキラした笑顔で懇願するローイエに、クロトは「任せておけ!」と言わんばかりにしゃがみこむ。

 ローイエがシロヤの後ろに乗ったのを確認したクロトは、再び立ち上がって歩きだした。

「ふふ、ご主人様と同じで可愛い馬ね。」

 歩くクロトの隣で、プルーパが微笑んだ。


「あ!昨日女王様が言ってたシロヤ様じゃないか!?」

「その後ろってローイエ様じゃない!?」

「プルーパ様も一緒だ!」

 街に入ったとたん、国民が三人を見てざわめいた。当然だ、女王二人と昨日のパレードでの注目の的になったの人が一緒に歩いているのだ。

「ふふ、シロヤ君もすっかり街の人気者ね。」

 プルーパがシロヤに言った。今までの旅で注目を集めたと言ったら、クロトが露店の売り物を勝手に食べた時くらいだった。今までとは注目のされ方が違うため、シロヤはまだ慣れないでいた。

「あぁ!あっちから砂胡椒のいい匂いがするよ〜!」

 ローイエが一つの露店を指差した。すると、クロトがその露店へと歩くコースをチェンジした。

「うわぁクロト!どこ行くんだよ?」

 クロトにとっては周りの扱いとかは関係が無い。ただ求めるのは「美味しいもの」だけだ。

 ローイエの話を聞いて、「あの露店には美味しいものがある」と認識して、勝手にルートをチェンジしたのだ。

「まったく・・・しょうがないな、クロトは。」

 このぐらいなら普段の旅でもよくあることだ。シロヤは諦め、砂胡椒でこんがり焼かれた砂豚のステーキの露店に導かれた。

「おじさ〜ん!砂豚のステーキくださ〜い!」

「へ!へい!女王様とシロヤ様のために最上の物をご用意いたします!」

 すぐさま露店のおじさんが調理にとりかかる。

 テンションが上がっているローイエとクロトの横で、プルーパは小さくおじさんに呟いた。

「私はいらないわ、これ以上・・・増やしたくないから。」

 内容が聞こえたシロヤは、とぼけたように聞いた。

「プルーパ様、気にしてるんですか?体」

 ガスッ!

「いてぇ!」

 足を思いっきり殴られるシロヤ。殴ったプルーパの顔は笑顔だったが、変な威圧感があった。

「女性のトップシークレットよ?シ・ロ・ヤ・く・ん。」

 今まで以上の寒気と冷や汗がシロヤを襲った。


「ここが観光名所のバスナダ砂丘ですか・・・。」

 街を離れて、シロヤ達は街外れの砂丘までやって来た。見渡す限りの砂丘。広大な砂漠は、目印が無ければ迷ってしまいそうなくらい広い。それでいて、砂漠は穏やかだった。

「昔はね、この国は争い事が絶えなかった国だったのよ。」

 プルーパが静かに語った。シロヤは、プルーパから放たれている不思議な感覚に魅了され、話に聞き入る。

「今でこそこんな何もない穏やかな砂漠だけど、こうなったのは何人もの犠牲があったからなのよ。」

「犠牲?」

「そうよ。今も砂漠にはたくさんの人が眠ってるの。多分、その人たちもこの砂漠の姿がずっと続くことを祈ってるんじゃないかしら。」

 シロヤは、朝食の時のシアンの意見が正義のような気がしてきた。眠っている人たちは、この国が争うことのみを目的に武器を持つことを望んではいないだろう。そう思うと、レーグの意見が何だか腹立たしく思えてきた。

「だから・・・ね。シロヤ君が決断してくれたことで、この国の人がずっと笑顔でいられるかもしれないのよ。」

 決断が正しかったのか。ということは夜中に何度も悩んだ。しかし、プルーパの話を聞いて、自分の中で踏ん切りがついてきた。

「ふふ、良い顔してるわよ。シロヤ君。」

 微笑みながらプルーパはウィンクをした。

「クロト様!美味しいね〜!」

 二人の横では、ローイエとクロトが露店で買った肉を食べてる。難しい話よりも美味しいものの方がいいらしい。

「気楽な子達ね。国が動くかもしれないって言うのに。」

 自然と笑いが込み上げてくる二人。いつの間にか、二人も深く考えるのをやめていた。

 シロヤは笑いながら周りを見渡した。

「アハハハハ・・・ハ・・・。」


 シロヤは笑いを止めた。見渡す限りの砂漠、点々とある砂丘の目印以外、何もなかったはずだった。もちろん、人影なんてものは存在してなかった。

 ふと視界に一瞬見えた人影、それをシロヤは見逃さなかった。

「あれは・・・まさか!」

 シロヤは駆け出した。思考よりも体が先に動いた。シロヤが駆けていった先、大きな砂丘に遮られて見えなかった先には、砂漠とはかけ離れた森地帯が広がっていた。

 そしてその先、森地帯に入ろうとしている人物。森地帯に入るにはあまりにもかけ離れた服装だ。

 間違いない。朝、シアンに食ってかかった人物だ。遅れてきたプルーパも人物を確認する。

「あれって・・・。」

「えぇ、間違いないわ!」

 二人は森地帯に入ろうとしている男―――レーグ大臣の姿を確認した。

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