封印
プルーパに言われた通り、シロヤとシアンは牢屋に向かって走り続けた。
「シアン様、牢屋に一体何があるんですか?」
「・・・わからぬ。ただ、プルーパお姉様が何の考えもなく牢屋へ行かせるとは思えぬ。」
訳がわからないまま、二人は牢屋にたどり着いた。
そこへ・・・。
「シロヤ!シアン!」
二人を呼ぶ声が聞こえた。しかし、それははっきりではなく、籠ったような呼び声だった。
「この声って・・・レジオンさんの声だ!」
シロヤは周りを見渡してみるが、レジオンの姿はおろか影すら見当たらない。
「・・・!」
シロヤの後ろで、シアンは思い出したようにハッと表情を変えた。
「そうか・・・その手があったか!」
シアンはすぐさまシロヤの腕を掴んで、牢屋の入り口の階段を勢いよく下っていった。
「シアン様!?一体どこへ行くんですか!?」
シロヤの言葉に答えぬまま、シアンはどんどんと燭台の蝋燭の炎に照らされた階段を下っていく。
「・・・着いたぞ。」
立ち止まったシアンの目の前にあったのは大きな扉だった。
「こ・・・ここは・・・?」
そう聞こうとした瞬間、シアンは扉に手を触れて大きな扉を軽々と開けた。
その先に広がっていたのは・・・。
「ここって・・・牢屋?」
広がっていたのは、上の牢屋よりもさらに強力な鎖や錠で結ばれた牢屋だった。自由の全くないそれは、投獄と言うよりは封印に近かった。
「ここは封印獄。上の牢屋にいた犯罪者よりもさらに凶悪な犯罪者達を収容する牢獄だ。」
シアンはゆっくりと扉を閉める。
封印獄の中は明るく、収容されている犯罪者達の顔がはっきりと見える。
「ここは王族しか開けられねぇんだ。だからここは俺達にとって最高の隠れ場所なんだぜ。」
突如聞こえた声。振り向くと、そこにはレジオンとクピンが立っていた。
「レジオンさんとクピンさん!」
遅れてシアンが二人の姿を確認して口を開いた。
「そなた達・・・どうやってここへ?」
「私だよ〜!」
レジオンとクピンの後ろから、ひょっこりとローイエが顔を出した。
「さっきね、クピンちゃんが予知したんだよ。」
「予知・・・?」
クピンが前に出た。
「はい・・・恐ろしい未来でした。突如訪れた来訪者によってバスナダが終わりを迎えてしまう・・・そんなような未来でした。」
震えるような声でクピンが語った。その額には汗が流れていて、見た未来に恐怖していることが見てとれた。
「その予知を見たってのが、他国からの人間が謁見を希望しに来た時だったんだ。」
「時間にして・・・二十分前ぐらいですね。」
その場の空気が静まる。
「一体・・・何が起こっているんでしょうか・・・。」
「・・・さぁな。」
「ヒヒヒヒヒ!」
「!!!」
突如部屋に響く含み笑い。
全員が聞こえてきた方に目を向けると、一つの牢屋からその含み笑いが聞こえてきた。
「この声・・・まさか!」
シロヤは本能的に背中の剣に手をかける。
その場にいた全員に緊張が走る。
「そんな身構えなくてもいいじゃないですか。何せ私は鎖で繋がれているんですから。ヒヒヒヒヒ!」
全員が牢屋に近づいて見てみると、その先にいたのはたくさんの鎖で壁に体が繋がれている人の姿があった。
その姿を見た瞬間、シロヤの全身に悪寒が走った。
悪寒の正体は、今でもシロヤの心に根付いている怒りと恐怖だ。
シロヤは、何をしなくても沸いてくる悪寒を無理矢理押さえつけ、目の前の人物を睨み付けた。
「何か・・・知っているのか?」
悪寒で震えている声を聞いて、さらに含み笑いを続けた。
「ヒヒヒヒヒ!どうしました?私が怖いのですか?ヒヒヒヒヒ!」
「ッ!黙れ!」
扉を殴り付けるシロヤ。しかし、それが所詮は絞り出したような虚勢であることはシロヤが一番よくわかっていた。
それを見透かすように、さらに含み笑いを続けた。
「ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ!」
「くっ!」
向こうは手が出せないはずなのに、何故かシロヤは心を崩しかけていた。
「・・・。」
そんなシロヤを見て、シアンはゆっくりとシロヤの手を握った。
「シアン様・・・。」
「一人ではないぞ・・・。」
その言葉を聞いて安心したシロヤは、表情を直して再び向かい合った。
「今・・・このバスナダに何が起きてるのか知っているのか?」
「ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ!」
「答えろ!レーグ!」
牢屋の中に囚われている人物―――レーグに向かって、シロヤは叫んだ。