偽物
シロヤとシアンは王室から離れていった。
「シアン様!どこに逃げればいいのですか?」
「訓練所に向かうぞ!あそこなら隠れ場所も多い!」
二人は訓練所に向かって走る。その道には、何人もの兵士達が王室の方に向かって走っていっていた。
走る兵士もいなくなった頃に、シロヤとシアンは訓練所にたどり着いた。
「!」
訓練所の中の兵士達は一人もいなくなっていて、その中央には兵士ではない人が立っていた。
「シロヤ様!」
立っていた人は、入ってきたシロヤの名前を呼んだ。
「プ!プルーパ様!」
訓練所の中央に立っていたのはプルーパだった。プルーパはすぐさまシロヤに駆け寄った。
「シロヤ様!王室に現れた戦士は凄腕の戦士です!ここは兵士達に任せて逃げましょう!」
「逃げるって・・・!見捨てるつもりですか!?」
「王族が生き残れば何とでもなります!兵達の犠牲を無駄にしてはいけません!」
「・・・。」
逃げることを促すプルーパの姿を見て、シロヤは違和感を覚えた。
何かがおかしい。普段のプルーパは、人を犠牲にしてまで助かろうなんて思うだろうか?
目の前のプルーパにだんだんと違和感を募らせていく。
「とにかく早く逃げるわよ!ほら!」
プルーパが差し出した手を、シロヤは違和感そのままに握った。
「ッ!!!」
パシン!
「シ・・・シロヤ・・・様・・・?」
手を握った瞬間に襲ってきた強烈な悪寒に、シロヤは思わずにプルーパの手を弾いた。
「どうしたのですか?シロヤ様。」
何をされたかわからない表情を浮かべるプルーパに、シロヤは剣に手をかけて叫んだ。
「プルーパ様は・・・俺に様なんてつけない!」
シロヤはすかさず剣を抜こうとしたが、それは突如の乱入によって止まった。
ヒュン!
「!!!」
シロヤが剣を抜こうと力を込めた瞬間、プルーパの頭に向かって何かが飛んできた。その何かはまっすぐに飛んで、そのままプルーパの頭に突き刺さった。
「・・・痛いわねぇ・・・!」
頭に突き刺さった剣を軽く撫でるプルーパ。その表情は無機質で、まるで機械のような表情だ。
「お前・・・何者だ!」
「・・・仕方ないわね・・・特別に正体を明かしてあげるわ。」
そう言うと、プルーパの偽物はゆっくりと後ろに下がってくるくると回り出した。
光の粒を放ちながら回り続けるプルーパの偽物は、次第にプルーパの姿が消えていき、見たこともない女性の姿が現れた。
やがてプルーパの姿が完全に消えた時、そこに立っていたのは青い長髪の女性だった。
「初めまして。私はルーブ。国王シロヤ、あなたを殺しに来ました。」
そう言うと、ルーブは背中から何かを取り出した。
「!!!」
ルーブの背中から現れたのは、巨大な斧だった。斧は銀色だったが、その刃は血のように赤く染まっていた。
「さぁ・・・死んでもらいましょうか!」
ルーブは斧を振り下ろそうと力を込めた。
「シロヤ君!」
キィィィン!
「くっ!」
突如よろめくルーブ。
突如飛来してきた何かが、ルーブの持っていた斧を弾いた。
地面に落ちた物を見ると、そこにあったのは見覚えのある短剣だった。
「シロヤ君!大丈夫!?」
訓練所の入り口から響く声。それは紛れもなく本人だった。
「プルーパ様!」
「プルーパお姉様!」
シロヤとシアンに近づいて、二人に向かって真剣な表情でプルーパが口を開いた。
「シアン!今すぐシロヤ君を牢屋の方に連れていって!」
「牢屋!?何故牢屋なのですか!?」
「行けばわかるわ!」
プルーパがシアンの背中を叩く。そして、シアンはシロヤの手を握った。
「・・・シアン様?」
「シロヤ、行こう。」
不安そうな表情になるシロヤに向かって、プルーパは前を向いたまま言った。
「シロヤ君。男なんだからシアンを守ってあげなさい!そんなんじゃ尻に敷かれちゃうわよ?」
微笑むプルーパ。さらに続けるように、シアンはシロヤの顔を見ながら言った。
「シロヤが私を守ってくれるように・・・私もシロヤを守りたい。」
それを聞いたプルーパは、小さく微笑んだ。
「ふふふ、シロヤ君は守るより守られる方があってるかもね。」
プルーパとシアンが軽く微笑むのを見て、シロヤはシアンの手を握った。
「いいえ・・・守ってみせます!」
決意を秘めた表情で、シロヤは再度シアンの方を見た。
「シアン様、行きましょう!」
シアンの手を引いて、二人は牢屋に向かって訓練所を出た。
「あなた、他人を気にかけるなんてずいぶんと余裕ね。」
嘲笑うように斧を向けるルーブ。それに対して、プルーパも同じように短剣を向けた。
「あなたこそ・・・待っててくれたみたいね。」
同じく嘲笑うように言った瞬間、プルーパは短剣を投げた。
しかし・・・。
「あ・せ・ら・な・い。」
「!」
プルーパの投げた短剣は、空中で激しく亀裂が走ったのち、そのまま崩れ落ちた。