日常
シアンが目を覚ました日から、早三ヶ月が経とうとしていた。
バスナダは、星夜祭が行われる夏から、今度は森の木々が色づいていく秋へと変わっていった。
そんなバスナダは今、新たな国王に期待が集まっていた。
事の発端は、シアンが目覚めた日の次の日に行われた演説だった。
シアンが目覚めたこと、暗殺の首謀者であるレーグやバスナダ七人衆の後継者問題等、国民に報告しなければならないこと、決めなければならないことが山のようにあった。
しかし、この演説はそんな不安をあおるようなことばかりだけではなかった。この演説が開かれた理由は、シアンの王位継承の話だった。
当然国民は、シアンが王位を退くと聞いて戸惑いを見せていた。しかし、新国王がシアンによって発表されたとき、国民は全員喜んで新国王に拍手を送った。
シアン女王の命をその身一つで守り、さらには閉ざされたシアンを心の中まで追いかけて助けたことも同時に発表されたため、国民は文句など一切なく新国王を認め、シアンとの結婚式を待つ声も上がっているほどだった。
そんな中、一人だけ意見が違う人がいた。
「む?何故だ?もうそなたが国王なのだと国民は納得してしまっているぞ?」
首を傾げるシアン。
「いや・・・それはいいんですが・・・。」
「ならば何が不満だというのだ?」
さらに首を傾げるシアンに、申し訳なさそうに呟いた。
「農民育ちの自分に国王が務まるとは思いません・・・。せめて、国王を間近で見る期間をいただけないでしょうか?」
新国王―――シロヤは呟いた。
そんな理由から、三ヶ月が経とうとしている今でも、シロヤは"国王見習い"として城に居座っている。
シアンの政治を間近で見ることで、シロヤは国王としてのあり方を学んでいた。
さらに・・・。
「ヤァ!」
「足の動きがふらついていますよ!」
キィン!キィン!キィィン!
「セィ!」
「上体がぶれていますよ!」
キィィィィィン!!!
「うわぁ!」
「シロヤ様、剣での戦いというのは爪の先までの神経を常に研ぎ澄ませていなければなりません。一瞬の油断や上体のブレが大きな傷を作ることもあるのです。」
「・・・はい!」
城の中にある兵士の訓練所。そこで、シロヤはバルーシに剣の稽古をつけてもらっていた。
新国王になるためには力も必要だと、シロヤは兵団長であるバルーシに頭を下げてお願いしたのだ。
「お兄様〜!お疲れ様〜!」
「バルーシもお疲れ様。」
後ろで見ていたローイエとプルーパが二人に駆け寄った。遅れてシアンも駆け寄る。
「うむ。そなたもずいぶんと様になってきたな。国王の座も近いのではないか?」
「いえいえ・・・まだ政治も剣術も人並み以下ですから・・・でも、俺はもっと強くなります!」
「頼もしいぞ!」
微笑み合う二人。
「シロヤ様、バルーシ様、汗はこちらでふいてください。」
後ろから、クピンが二枚のタオルを持ってやって来た。
「クピンさん!」
「わざわざありがとうございます。」
タオルで汗をぬぐう二人。
その時、訓練所の入り口の扉が雑に開けられた。
「ウィ〜ッス!!!」
やって来たのは、酒の瓶を片手に持った酔っ払ったレジオンだった。
レジオンはすぐさまシロヤに駆け寄り、肩に手を回して絡み付いた。
「よっしゃあシロヤ!次は俺様の特訓だぜ〜!」
「レジオンさんの・・・特訓?」
嫌な予感しかしないシロヤ。もちろんそれは見事に的中していた。
「俺様が男ってのが何なのか教えてやろう!まずは女二人に酒を・・・。」
コツン!
「ハゥ!」
軽い感じの音がなったかと思うと、レジオンは白目を向いてそのまま倒れてしまった。
「・・・!」
何事かと前を見ると、シアンが弓を構え、プルーパが短剣を構え、ローイエが槍を構えていた。三人に共通しているのは、やけに殺気立っていることだ。
誰がやったのか、みたいなことは詮索せずに、シロヤは倒れているレジオンに小さく手を合わせた。
平和になったバスナダは、毎回笑顔で溢れていた。
それは城の中だけでなく、国民全員が平和の中で笑顔を浮かべていた。
シロヤは、そんな日常が毎日続いてほしいと思っていた。しかし、平和は突然、脆くも崩れ去ることになるのだった・・・。
「どうだ?」
「うぅ・・・体制を整えにくいです・・・。」
シアンは、シロヤを玉座に座らせていた。国王たるもの玉座にも慣れないといけないという理由から、定期的にシロヤは玉座に座っていた。
そんな練習をしていたある日・・・。
「シロヤ様!」
兵士の一人が王室に走ってやってきた。
「どうしたんですか?」
「謁見を希望している方が城に来ています。お通ししましょうか?」
「謁見・・・ですか?わかりました。通してください。」
「ハッ!」
兵士が走って王室を出ていく。
しばらくすると、王室に向かって長身の人影が現れた。