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Sand Land Story 〜砂に埋もれし戦士の記憶〜  作者: 朝海 有人
第二章 眠る女王と決意の光
70/156

原初

「・・・。」

 シアンの部屋は静まり返っていた。

「・・・。」

 その場にいる人全員が、目を覚まさないシアンとシロヤを見守り続けていた。

「・・・。」

 どれくらいの時間が経っただろうか・・・。何時間も経ったかもしれない。数分と経っていないのかもしれない。誰もが時間感覚を失うほどに精神を消費していた。

「・・・お姉様・・・。」

 ローイエは、ずっと眠り続けるシアンに近づいて、そっと頬を撫でた。

「お姉様・・・皆待ってるよ・・・早く目を覚まして・・・。」

 頬を撫でながら、ローイエは涙を流していた。静まり返っているシアンの部屋に、ローイエの泣き声が響いていた。

 抑えられないローイエの涙は、ゆっくりと頬を伝ってシアンの頬へ落ちていく。

「お姉様・・・・・・。」




「・・・。」




「・・・シアン様・・・!?」

 真っ先に気づいたのはリーグンだった。

 シアンの口元が一瞬、動いたのだ。

 気のせいかとも思ったが、それはすぐさま確信に変わった。


「お姉・・・様!?」


 口元がはっきり動いた。それをリーグン、そしてローイエも気がついた。

 部屋の空気が変わり、その場の視線がシアンに集中する。

 さらに涙を流し続けるローイエ。涙はどんどんとシアンの頬を濡らしていった。




「・・・ィェ・・・。」




「お姉様!!!」

 消え入りそうな小さい声。しかし、ローイエの耳にははっきりと聞こえた。

 そして・・・。




「・・・。」




 その場にいた全員が言葉を失っていた。

 ゆっくりとその身を起こし、濡れた頬を軽く撫でて、シアンはその目を開いた。

「お姉・・・様・・・!」

 信じられないような表情で、ローイエはシアンの頬に手を触れた。

 それに答えるように、シアンは優しくローイエの頭を撫でた。

「う・・・うぅ・・・うわあああぁぁぁぁぁん!!!!!」

 抑えていたものが爆発したローイエは、シアンに抱きついて号泣した。それに合わせて、その場にいた全員が目に涙を浮かべた。

「シアン様・・・目を・・・覚まされたのですね!」

 シアンに近づくリーグン。もはやリーグンも、溢れる涙を抑えることができないでいた。

「リーグン・・・すまない・・・そなたには本当に迷惑をかけたな・・・。」

 リーグンもローイエと同じように号泣する。

「レジオン・・・皆をまとめてくれたのであろう・・・感謝する・・・。」

「・・・。」

 レジオンの頬に、一筋の涙が落ちていく。

「フカミ・・・キリミド・・・そなた達まで巻き込んでしまったことを・・・深く詫びよう・・・。」

 フカミは泣いてるのを隠すように俯き、キリミドは嗚咽を漏らしながら号泣していた。

「クロト・・・そなたに対して私は大きな過ちを犯した・・・本当に申し訳ない・・・。」

 クロトは大きく鳴いた。それは"気にしないで!"と言っているようだった。

 そして・・・。


「シロヤ・・・。」


 眠っているシロヤに近づき、そっと頭を撫でる。

 そして、シアンはゆっくりとシロヤに語りかけた。




「起きろ・・・これから始めよう・・・私達の未来が・・・これから始まるのだ・・・私達の物語が・・・。」




 そっと口づけをするシアン。

「・・・シアン・・・様・・・。」

 口が離れた時、シロヤはゆっくりとその目を開き、目の前のシアンの名を呼ぶ。

「お兄様・・・!」

「シロヤ様・・・!」

 ゆっくりと立ち上がるシロヤ。

「お兄様!!!」

 ローイエはすぐさまシロヤに飛び付いた。

「よかった・・・お兄様も目覚めてくれた・・・!」

「ご心配おかけしました・・・ローイエ様・・・。」

「様ってぇ・・・ぐす・・・つけないでよぉ・・・うぅ・・・。」

「・・・ごめん・・・ローイエちゃん・・・。」

「お兄様・・・私・・・今・・・すごい幸せだよぉ・・・ふぇぇぇぇぇぇぇぇん!!!」

 シロヤの胸の中で号泣し続けるローイエを、シロヤはギュッと抱きしめた。

「シロヤ様・・・何から何まで・・・本当にありがとうございます!」

 深々と頭を下げるリーグン。

「リーグン様、お礼を言うのは俺の方です。リーグン様がシアン様を助ける方法を教えてくれたのですから。」

 同じようにシロヤも頭を下げる。

「お前ならやってくれるって・・・信じてたぜ。」

「レジオンさん・・・。」

 目に涙を溜めながら、それを隠すように言い放つレジオン。シロヤは少し笑いながら、同じように頭を下げた。

「レジオンさん、剣、ありがとうございました。」

「へっ!光栄だぜ、国王様よ。」

 照れを隠すようにそっぽを向くレジオン。

「フカミさん、キリミドさん・・・クロト。」

「シロヤさん!本当によかったです!」

「あなたが次の国王・・・まぁいい判断ね。」

 クロトも涙を流して鳴いた。シロヤには"おかえりなさい"と言っているように聞こえた。

 そして・・・。

「・・・シアン様・・・。」

「シロヤ・・・。」

 向き合うシロヤとシアン。

「その・・・まだ何を言えばいいのかわからぬ・・・。」

「シアン様・・・。」

 戸惑うシアンを、シアンは力強く抱きしめた。

「!!!」

 シアンを抱いたまま、シロヤは口を開いた。


「俺・・・もう嘘つきません・・・。シアン様もローイエ様も・・・もちろんプルーパ様も皆さんも・・・皆さんが俺を愛してくれているのと同じくらい・・・いや、それ以上に皆さんのことが大好きです。

 そんな皆さんに・・・俺は何が出来るのかずっと考えていました。こんな何も出来ない俺は何が出来るのか・・・ずっと考えていました。

 答えは今でもわかってません。でも、俺は絶対にその答えを見つけます。そして・・・必ず出来ることをしてみせます。

 そして・・・何より俺は皆さんともっと一緒にいたい・・・それは俺のエゴでもあります。でも・・・自分の気持ちにもう嘘はつかないと決めました。

 だから・・・シアン様。」

 シロヤはそこでシアンを見つめて、心からの言葉を言った。




「俺は・・・シアン様が好きです。シアン様がよろしければ・・・俺と一緒にいてください。」




 それを聞いて、シアンは涙を抑えられずに流し続けた。

「もちろんだ・・・!そなたともっと・・・一緒にいたい・・・!」

 その言葉を聞いて、シロヤとシアンは再び口づけをした。

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