原初
「・・・。」
シアンの部屋は静まり返っていた。
「・・・。」
その場にいる人全員が、目を覚まさないシアンとシロヤを見守り続けていた。
「・・・。」
どれくらいの時間が経っただろうか・・・。何時間も経ったかもしれない。数分と経っていないのかもしれない。誰もが時間感覚を失うほどに精神を消費していた。
「・・・お姉様・・・。」
ローイエは、ずっと眠り続けるシアンに近づいて、そっと頬を撫でた。
「お姉様・・・皆待ってるよ・・・早く目を覚まして・・・。」
頬を撫でながら、ローイエは涙を流していた。静まり返っているシアンの部屋に、ローイエの泣き声が響いていた。
抑えられないローイエの涙は、ゆっくりと頬を伝ってシアンの頬へ落ちていく。
「お姉様・・・・・・。」
「・・・。」
「・・・シアン様・・・!?」
真っ先に気づいたのはリーグンだった。
シアンの口元が一瞬、動いたのだ。
気のせいかとも思ったが、それはすぐさま確信に変わった。
「お姉・・・様!?」
口元がはっきり動いた。それをリーグン、そしてローイエも気がついた。
部屋の空気が変わり、その場の視線がシアンに集中する。
さらに涙を流し続けるローイエ。涙はどんどんとシアンの頬を濡らしていった。
「・・・ィェ・・・。」
「お姉様!!!」
消え入りそうな小さい声。しかし、ローイエの耳にははっきりと聞こえた。
そして・・・。
「・・・。」
その場にいた全員が言葉を失っていた。
ゆっくりとその身を起こし、濡れた頬を軽く撫でて、シアンはその目を開いた。
「お姉・・・様・・・!」
信じられないような表情で、ローイエはシアンの頬に手を触れた。
それに答えるように、シアンは優しくローイエの頭を撫でた。
「う・・・うぅ・・・うわあああぁぁぁぁぁん!!!!!」
抑えていたものが爆発したローイエは、シアンに抱きついて号泣した。それに合わせて、その場にいた全員が目に涙を浮かべた。
「シアン様・・・目を・・・覚まされたのですね!」
シアンに近づくリーグン。もはやリーグンも、溢れる涙を抑えることができないでいた。
「リーグン・・・すまない・・・そなたには本当に迷惑をかけたな・・・。」
リーグンもローイエと同じように号泣する。
「レジオン・・・皆をまとめてくれたのであろう・・・感謝する・・・。」
「・・・。」
レジオンの頬に、一筋の涙が落ちていく。
「フカミ・・・キリミド・・・そなた達まで巻き込んでしまったことを・・・深く詫びよう・・・。」
フカミは泣いてるのを隠すように俯き、キリミドは嗚咽を漏らしながら号泣していた。
「クロト・・・そなたに対して私は大きな過ちを犯した・・・本当に申し訳ない・・・。」
クロトは大きく鳴いた。それは"気にしないで!"と言っているようだった。
そして・・・。
「シロヤ・・・。」
眠っているシロヤに近づき、そっと頭を撫でる。
そして、シアンはゆっくりとシロヤに語りかけた。
「起きろ・・・これから始めよう・・・私達の未来が・・・これから始まるのだ・・・私達の物語が・・・。」
そっと口づけをするシアン。
「・・・シアン・・・様・・・。」
口が離れた時、シロヤはゆっくりとその目を開き、目の前のシアンの名を呼ぶ。
「お兄様・・・!」
「シロヤ様・・・!」
ゆっくりと立ち上がるシロヤ。
「お兄様!!!」
ローイエはすぐさまシロヤに飛び付いた。
「よかった・・・お兄様も目覚めてくれた・・・!」
「ご心配おかけしました・・・ローイエ様・・・。」
「様ってぇ・・・ぐす・・・つけないでよぉ・・・うぅ・・・。」
「・・・ごめん・・・ローイエちゃん・・・。」
「お兄様・・・私・・・今・・・すごい幸せだよぉ・・・ふぇぇぇぇぇぇぇぇん!!!」
シロヤの胸の中で号泣し続けるローイエを、シロヤはギュッと抱きしめた。
「シロヤ様・・・何から何まで・・・本当にありがとうございます!」
深々と頭を下げるリーグン。
「リーグン様、お礼を言うのは俺の方です。リーグン様がシアン様を助ける方法を教えてくれたのですから。」
同じようにシロヤも頭を下げる。
「お前ならやってくれるって・・・信じてたぜ。」
「レジオンさん・・・。」
目に涙を溜めながら、それを隠すように言い放つレジオン。シロヤは少し笑いながら、同じように頭を下げた。
「レジオンさん、剣、ありがとうございました。」
「へっ!光栄だぜ、国王様よ。」
照れを隠すようにそっぽを向くレジオン。
「フカミさん、キリミドさん・・・クロト。」
「シロヤさん!本当によかったです!」
「あなたが次の国王・・・まぁいい判断ね。」
クロトも涙を流して鳴いた。シロヤには"おかえりなさい"と言っているように聞こえた。
そして・・・。
「・・・シアン様・・・。」
「シロヤ・・・。」
向き合うシロヤとシアン。
「その・・・まだ何を言えばいいのかわからぬ・・・。」
「シアン様・・・。」
戸惑うシアンを、シアンは力強く抱きしめた。
「!!!」
シアンを抱いたまま、シロヤは口を開いた。
「俺・・・もう嘘つきません・・・。シアン様もローイエ様も・・・もちろんプルーパ様も皆さんも・・・皆さんが俺を愛してくれているのと同じくらい・・・いや、それ以上に皆さんのことが大好きです。
そんな皆さんに・・・俺は何が出来るのかずっと考えていました。こんな何も出来ない俺は何が出来るのか・・・ずっと考えていました。
答えは今でもわかってません。でも、俺は絶対にその答えを見つけます。そして・・・必ず出来ることをしてみせます。
そして・・・何より俺は皆さんともっと一緒にいたい・・・それは俺のエゴでもあります。でも・・・自分の気持ちにもう嘘はつかないと決めました。
だから・・・シアン様。」
シロヤはそこでシアンを見つめて、心からの言葉を言った。
「俺は・・・シアン様が好きです。シアン様がよろしければ・・・俺と一緒にいてください。」
それを聞いて、シアンは涙を抑えられずに流し続けた。
「もちろんだ・・・!そなたともっと・・・一緒にいたい・・・!」
その言葉を聞いて、シロヤとシアンは再び口づけをした。