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Sand Land Story 〜砂に埋もれし戦士の記憶〜  作者: 朝海 有人
第一章 白の青年と砂の国
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予算

 ローイエに抱きつかれたまま、シロヤは朝食の場についた。席にはすでにシアンとプルーパが座っていた。そしてシアンの傍らには、怪しい笑みを浮かべるレーグがいた。

「あらあら、二人とも仲良しね。」

 まるで母親が子をからかうように笑うプルーパ。対称的にシアンは顔を曇らせ、なんとも言えない視線をシロヤにぶつける。シアンの変な視線に、シロヤは変な汗をかき始めた。

「・・・ハハハ。」

「シロヤお兄様〜!」


 シアンの席の隣で朝食を食べる。今までの旅ではお目にかかれなかったような豪華な朝食。慣れない食事で、シロヤは食があまり進まなかった。

「む?食べないのか?そなたは食が細い方とは知らなかったぞ、すまなかった。」

「いえいえいえ!!昨日たくさん食べ過ぎたから食べられないんだと思います!」

 王族に謝られるだけで汗びっしょりになるシロヤ。それを見てクスクスと笑うプルーパとローイエ。三人姉妹にとっては久しぶりの男性との食事だ。

「・・・女王様。食事中申し訳ございません。以前の会議後にまとめられた予算案です。目を通しておいてください。」

 急に入ってきたレーグに、プルーパとローイエは一瞬顔を曇らせた。

「む?そうか。見せてもらおう。」

 軽く口を拭いて、シアンはレーグから一枚の紙を受けとる。端から端まで紙に目を通したのち、シアンは紙を下ろしてレーグを見た。紙に隠れていた顔は、怪訝そうな顔だった。

「レーグよ。」

「はい。」

 昨日感じた言葉の重みよりもはるかに重い。怒っているような声だ。しかし、レーグは動じていない。

「この予算案はバスナダ七人衆全員の意見を取ったのか?」

「いえいえ、七人衆に通す前に女王様に見せてからの方が票は集まりやすいですから。」

「ならば、今すぐにこの予算案を書き直せ。この予算案は却下だ。」

 紙をレーグに叩き返すシアン。

「何故です?どこにも問題はないはずでは?」

「問題点は一つだ。この国にそれだけの軍事費用はいらない。」

 レーグは紙をしまって、シアンに問い詰める。

「何故です!?他国が攻めこんできた事を考えれば、例年の軍事予算よりも倍以上の予算が必要なのですぞ!」

「世界は今平和だ。他国が侵略目当てに攻めこむことなどない。武器はあるから使ってしまうのだ。この国を武装国家にしてはならないためにも、軍事予算は微々たるものでよいのだ。」

 レーグの言い分も分かるが、シアンの意見も全うだ。何より国民はシアンの意見を選ぶだろう。

 現にこの国には、他国に敵視されるような要素がないため、いたって平和である。シアンの意見は、平和なこの国、そしてこの国に暮らす人々のための意見なのだろう。

 しかし、レーグは食い下がる様子を見せなかった。

「しかし!これからどのような事件が起こるか分かりません!何にしろ武装しておくに越したことは!」

 たかが大臣が、こうまで女王に食いかかってくるだろうかと、シロヤは疑問に思った。それを読んだかのように、プルーパはシロヤに視線を送る。これが、レーグが怪しいと言った要因、王族しかわからない要因なのだろう。

「とにかくこの予算案は却下だ。朝食後に七人衆を集めて会議を行おう。」

 シアンは席を立ち、レーグを連れて部屋を出ようとした。

「すまない・・・夜にもう一度話そう。」

 シロヤに一瞬語りかけ、シアンとレーグは部屋をあとにした。


「また予算案却下されたね。しかもこの間と同じ理由で。」

「レーグも懲りないわね。シアンが軍事予算拡張に頷くわけないのに。」

 プルーパとローイエは同時にため息をついた。だんだんシロヤの中で、レーグが怪しい人物になっていった。

 重い空気の朝食の場、誰もしゃべらない中、ローイエが口を開いた。

「シロヤお兄様!今日私と一緒に町を散歩しませんか?案内しますよ〜!」

「あら面白そうね。私も一緒に行こうかしら。」

 元々今日は町を探索する予定だったシロヤ。

「はい、じゃあ・・・一緒にお願いします。」

「うわぁ〜い!三人でお散歩〜!」

 両手を上げて喜ぶローイエ、その横ではプルーパが心配そうなシロヤを見つめる。そっとシロヤに近づいて、プルーパは耳元で小さく話しかけた。

「ね?怪しい理由がわかったでしょ?」

「だけど・・・。」

「そうね、また断定するには証拠が不十分すぎるわ。会議での調査はバルーシと他の兵士達に任せておきましょう。」

 バルーシなら任せられると言った感じのプルーパ。シロヤは一つの疑問を覚えた。

「あの・・・バルーシさんの役職って・・・?」

「バルーシはこの国の兵士団長なの。」

 なるほど、兵士団長なら信頼も厚いと、シロヤは頭の中で完結させた。

「お姉様〜、何話してるの〜?」

「いえ、ローイエには関係無い大人の話よ。」

「う〜!私も大人だも〜ん!」

「大人なら好き嫌いしないで何でも食べなさい。」

「ごちそうさまでした〜!」

 ローイエは席を立って、小走りで部屋を出た。

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