希望
シロヤは剣を構えて、弓を構えるシアンの前に立った。
「シアン様は・・・俺が守る!」
叫んで気合いを入れ直した直後、シロヤに向かって陰のシアンは足を伸ばして攻撃してきた。
「ハァァァ!」
雄叫びを上げ、シロヤは向かってきた足を剣で防ぐ。
さきほどよりも、シロヤの剣の精度は遥かに上がっていた。それは、シロヤが正直な自分を見つけたこと、守るべき者ができたことが大きな要因となっていた。
「ヤァァ!」
攻撃を防いで前に出ていくシロヤ。ゆっくりだが着実に近づいていく。
そして・・・。
「ハァ!」
ボトッ!
シロヤが振り切った剣が、陰のシアンの足を一本斬り落とした。陰のシアンはすぐさま苦しむ声を上げて暴れる。
「効いてる・・・!」
苦しむ陰のシアンを見ながら呟くシロヤ。
「伏せろ!」
突如、シアンはシロヤに向かって叫んだ。
シアンに言われて伏せるシロヤは、何事かとシアンの方を向く。その先には、弓を構えて矢を放とうとしているシアンの姿があった。
「くらえ・・・光線矢!」
シアンから放たれた矢は一直線に陰のシアンの足を捉えて、一本の足を貫き落とした。
「!?」
シロヤは驚いた。本来ならば矢は対象物に当たるとスピードも威力も弱まるものだが、シアンが放った矢は威力はおろかスピードも衰えぬまま、さらに一本、もう一本、合計三本の足を貫き落とした。
「ギャアアアアア!!!」
さらに強くなる陰のシアンの苦痛の声。足を四本失った陰のシアンは、蠢くように暴れていた。
一旦跳んでシアンの近くに下がったシロヤは、再度剣を構えるが、それを見たシアンは優しく微笑んだ。
「大丈夫だ・・・私に任せてくれ・・・。」
そう言うと、シアンは表情を引き締めて再び矢を構えた。
シアンにとっても、シロヤは守るべき者である。守るべき者のために戦うと誓ったシアンの力は、シロヤ同様遥かに向上していた。
弓を構えるシアン。しかし矢は一本ではなく、四本の矢を一辺に引いていた。
「行くぞ・・・四本波矢!」
放たれた四本の矢は、不規則な軌道を描いて陰のシアンに向かっていった。
これは、シアンがリーグンと戦った時に使った技だ。
不規則な軌道を描く四本の矢は、それぞれ残った足を全て貫き落とした。
「す・・・すごい・・・。」
全ての足を失い、陰のシアンは暴れることもできずに蠢いていた。
それを見ながら、シアンは右腕を高く上げた。
「貫いて・・・これで終わりにする・・・私の過去も全て・・・。」
そう呟いた瞬間、シアンの右腕に光輝く矢が現れた。
シアンはすぐさま光輝く矢を構えた。
「・・・。」
シアンの額から汗が流れ落ちる。
光輝く矢は、陰のシアンの体を貫くことができる、シアンの心の強さの塊である。
シアンにとっては、絶対に外せない最後の希望でもあるのだ。
「くっ・・・。」
"絶対に外せない"という緊張感から、中々矢を放つことができないシアン。
「シアン様・・・。」
「!」
優しく微笑むシロヤは、シアンを後ろから軽く抱いて、光輝く矢を持っているシアンの手を優しく握った。
「シロヤ・・・。」
「俺もいます・・・安心してください・・・。」
優しく微笑むシロヤに向かって、シアンは安心したように微笑み返した。
そして、再び二人は陰のシアンを一点に見つめた。
「さらばだ・・・過去の私よ・・・。」
矢は、二人の思いを乗せて放たれた。
「ギシャアアアアアアアアアアア!!!!!」
矢は陰のシアンを貫いた。陰のシアンは一際高い苦しみの叫び声を上げた。
そして・・・。
「!」
陰のシアンの体が白く光輝くと、蛍のような小さな光となって上へと昇っていった。
やがて小さな光は大きな光に変化した時、シロヤとシアンの二人を優しく包み込んだ。
「シアン様!」
慌ててシアンを見ると、シアンは優しく微笑んでいた。
「シロヤ・・・。」
そう呟き、シアンはシロヤの頬に手を置いた。
そして、シロヤに向かって一言だけ呟いた。
「ありがとう・・・。」
ゆっくりとシアンは、シロヤに口づけをする。
二人は、ゆっくりと光に吸い込まれていった・・・。