覚醒
彼女はそこに佇むだけだった。
それは、彼女が考えることを放棄したためである。何も考えず、何もせず、ただそこに立ち尽くしているだけ。それはさながら無機物の置物のようであった。
彼女は現実からここに逃げてきた。ここは何もない虚空のような空間。
それは逆を言えば、彼女を縛るもの、取り巻くもの、その全てがない空間だということだ。
絶対的な安全と孤独は同じものなのだ。何もなければ何も傷つけない。何もなければ自分も傷つかない。後に残るのは、無機物のような自分の体だけ。
しかし、彼女はそこにいる。彼女という存在は決して消えていない。ただそれだけで青年は満足だった。
「・・・。」
彼女にとって、それは理解しがたいことだった。
彼は置物なんかを好きになるのだろうか?
彼女はただそれが何を意味しているのか考えていた。
「・・・。」
放棄したはずの理性が戻り、彼女は意思を取り戻した。
しかし、彼女は青年を理解することはできなかった。
彼は何故私を見てくれているのだろう。
彼は何故私を見て泣いてくれているのだろう。
彼は何故私のために戦っているのだろう。
彼は何故私に好きと言ってくれたのだろう。
彼女の体がピクリと動いた。
まるでパズルを組み立てるように、彼女は自分の意思で彼女を作り上げていく。
それは、彼女を取り戻そうと戦ってくれている人のため。彼女を好きと言ってくれた人のため。
完成されていく彼女という名のパズル。そして、青年は最後の一ピースを彼女に渡した。
「俺はシアン様の全てを愛します!」
最後の一ピース、それは突然すぎる訪れだった。
彼女の目から流れ落ちる最後の一ピース―――涙。
完成した彼女。そして彼女は、心の中で叫んだ。
「シロヤ!!!」
叫んだ時、彼女―――シアンは弓矢を構えていた。