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Sand Land Story 〜砂に埋もれし戦士の記憶〜  作者: 朝海 有人
第二章 眠る女王と決意の光
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陰陽

 起き上がった影は、シロヤに襲いかかってきた。すぐさま剣を握り戦闘体制に入るシロヤ。

 影はまっすぐにシロヤに向かってきた。シロヤは向かってくる影を向かえ撃とうと構える。

「やぁぁ!」

 影に向かって、シロヤは剣を振るった。

「!」

 十分な手応え。シロヤの剣は見事に影を斬り裂いた。斬り裂かれてその場に倒れこむ影を見て、シロヤは驚きの声を漏らした。

「シアン様・・・!」

 影はシアンから生まれた影であるため、姿形は全てシアンと瓜二つであった。

「・・・!」

 倒れている影の指がぴくりと動いた。

 それを見た瞬間、シロヤは後ろに跳んで再び剣を構えた。

 影はゆっくりと立ち上がるが、さっきのようにシロヤに襲いかかろうとせず、そのまま真上を見ながら立ち止まった。

「何だ・・・?」

 シロヤが呟いた瞬間、脱け殻になったシアンの体を黒い何かが取り巻いた。その黒い何かは、しばらくしてからシアンの体から離れると、まっすぐにシアンの影に向かって吸い込まれていった。

 どんどんと吸い込まれていく黒い何か。やがて黒い何かを全て吸い込んだ時、シアンの影が大きくなり始めた。

「な!何だ!?」

 シロヤが警戒して剣を強く握る。

 シアンの影はシロヤを超える程に大きくなり、やがて人であった形すらも変えていった。

 そして影が変化を止めた時、形は人ではなかった。鋭く尖った八本の細い足を持つ、まるで蜘蛛のような怪物となっていた。

「ふふふふふ・・・。」

「!?」

 怪物が口を開いた時、そこから出たのは笑い声だった。反射的にシロヤは身を震わせた。

「久しぶりだな・・・シロヤ・・・。」

「その声は・・・シアン様!?」

 怪物が出す声は、紛れもなくシアンの声であった。シアンの声を持つ怪物はさらに続けた。

「そうだ・・・私はシアンであってシアンでない存在・・・シアンが心の内に秘めて隠そうとしていたシアンの裏・・・"陰の心"だ。」

「陰の・・・心・・・?」

「そう・・・心は全て陰と陽で成り立っている。陰は否定される心、隠したい心、知られたくない心・・・。」

 誰もが持っているひた隠しにする気持ち。それは不安、怨念、恐怖、嫉妬、という形で前に現れようとする。それを人は自分の意思で押さえつけ、悟られぬように内へ内へと封じ込める。それは、人が人として人と共に生きていくために培ってきた力、俗に言う"理性"と呼ばれているものだ。

「お前は・・・シアン様の陰の心なのか?」

「そうだ。シアンは理性を無くし、醜く育った私に全てを委ねた。」

「何だと・・・!」

「シアンの陽の心はシアンの意思によって消えた!」

「嘘だ・・・嘘だ!!!」

 その時、陰のシアンが鋭い足を伸ばしてシロヤに襲いかかってきた。

「ぐわぁ!」

 シロヤは剣で体を防ぐが、その衝撃でシロヤの剣が弾き飛ばされた。

「ふふふふふ・・・いいことを教えてやろう。」

 そう言うと、陰のシアンはゆっくりと足を伸ばしてシロヤを差した。

「シアンの陰の心の中を占めているのは何だと思う・・・。」

「占めている・・・もの?」

 わからないような表情を浮かべるシロヤを見て、陰のシアンは鼻で笑った。

「お前だよ・・・シロヤ。」

「お・・・俺・・・?」

「そうだ。シアンはお前を愛すると同時に、醜い欲望も昇華させていったのだ。」

 陰のシアンはさらに続けた。

「姉や妹への嫉妬、捨てられるかもという不安、独り占めしたいという欲望。全てお前が生み出しているのだよ。」

「・・・。」

 陰のシアンから聞かされた事実に、シロヤは言葉が出ないでいた。

 陰のシアンはそんなシロヤを見て、笑いながらさらに続けた。

「シアンはそれを否定し続けていたのだよ。自分の陰の心・・・闇が生まれる原因がお前であることをな。」

「否定・・・何で・・・。」

「簡単だ。シアンはお前をそれだけ愛しているのだ。だからこそシアンは陰の心を見て見ぬふりをして逃げ続けていたのだ。そしてそれが暴走した。

 お前ならわかるはずだぞ。膨れ上がった陰の心を押さえきれずに暴走したシアンの所業を。」

 シアンの所業・・・それは、シロヤを手に入れるために国に監禁し、シロヤを守る仲間達を傷つけていったこと。

「・・・。」

 シロヤは拳を握りしめた。

「お前は不安の中に生きるシアンにさらに追い討ちをかけていたに過ぎないのだよ!お前はシアンを傷つけていただけなんだ!」


「・・・確かにそうだ・・・。」


「っ!?」

 急なシロヤの肯定に、陰のシアンは驚きの表情を浮かべた。

「俺は・・・確かにシアン様を傷つけていた。シアン様が言わないのをいいことに好き勝手にやってたと思う・・・。」

「それがわかっているなら・・・何故お前はシアンから離れようとしなかった!?」

「それは・・・もっと一緒にいたいという俺のエゴ、そして・・・。」

 シロヤは、一番言いたかった言葉を陰のシアンにぶつけた。

「俺は・・・シアン様が好きだから!」

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