幸福
金髪の男性の望みを聞き、国王は大きく頷いた。
「うむ、ではそなたの弟達を兵団に迎え入れよう。」
「ありがたき幸せ!」
頭を下げる男性に、国王はさらに言葉をかけた。
「ではそなたを兵団長としてここ任命しよう。」
微笑みながら、さらに言葉を続けた。
「頼りにしておるぞ。――――。」
「ぐぁぁ!」
シロヤは頭を押さえてうずくまった。
急に訪れた激しい頭痛。そして途中で途切れた国王の言葉。
「何なんだ・・・言葉が・・・。」
それはまるで、その言葉が世界から拒絶された言葉のように。
まだきしむ頭を押さえながら立ち上がると、すでにそこに人はいなくなっていた。
「どうなってるんだ・・・。」
ふらふらになりながら周りを見渡す。
すると、体がシロヤの意思とは関係なく動き始めた。
「な・・・何なんだ・・・。」
シロヤはずっと歩き続けていた。勝手に動き続けるシロヤの体は、いつの間にか城を出て砂漠を歩いていた。
ふらふらになりながら砂漠を歩いていると、次第に空の色が変わっていることに気がついた。
「何だ・・・何がどうなっているんだ・・・。」
灰色に染まっていく空は、まるで不吉なことを呼び込むかのように暗い。そんな空を見上げながら、シロヤはひたすら歩き続けた。
そしてたどり着いたのは、城の入り口の反対方向の場所だった。
「あれは・・・国王とさっきの・・・。」
さらにシロヤは、空に何かが浮いているのに気づいた。
「あれは・・・人だ・・・!」
国王と金髪の兵団長が身構えて見上げる空の先に、灰色に染まった空を抱くかのように人が浮いていた。そしてその傍らにいたのは・・・。
「シアン様・・・だけ・・・?」
浮いている人を見上げているのは、シアンだけだった。
「国王様!」
「やはり現れたか・・・バスナダの悪魔め・・・。」
吐き捨てるように国王が言うと、浮いている人が左手を振り上げた。
「マズイ!シアン様!お逃げください!」
左手が振り下ろされると、国王達の前の地面がまっぷたつに割れた。
「このままでは・・・バスナダが奴らの手に落ちてしまう・・・!」
「国王様・・・。」
金髪の兵団長が一歩前に出た。
「・・・これからは、若い世代の人達が時代を紡がなければなりません・・・。」
「・・・そうだな・・・。」
同じく国王も一歩前に出ると、二人は横に並びあった。
「国王様と共に戦えたこと・・・この国のために死ねること・・・誇りに思います。」
「・・・私もだよ。」
二人は浮いている人に向かって手をかざすと、二人の手のひらが光を放ち始めた。
「シアン!」
国王がシアンに向けて叫んだ。その表情は笑っていた。
「・・・強く生きろ。」
それだけ言うと、手のひらの光がさらに強くなって、バスナダを包み込んだ。
真っ白な光が全てを包み込み、そこでシロヤの見ていた風景は完全に消えてしまった。
ただ残ったのは、上下左右のわからない真っ白な空間だけだった。
「これが・・・シアン様の記憶なのか・・・。」
そう呟いた瞬間、シロヤの頭に声が響いた。
「願わくは・・・シアンが最高の幸せの中に生きていけますように・・・。」
「!」
その時、まるでガラスが割れるように真っ白な空間が砕けていき、真っ黒な空間が姿を見せた。
「うわぁぁぁ!!!」
真っ白な空間が砕け散った時、真っ黒な空間にシロヤは落ちていった。
・・・・・・・・・・・・・・・。
真っ黒な空間に落ち続けるシロヤは、視界の先に何かを捕らえた。
それは光輝く何かであり、シロヤはそれに向かってまっすぐと落ちていっていた。
「あれは・・・。」
やがてその何かにたどり着くと、シロヤはその何かの上に着地した。
「ここは・・・?」
真っ暗な空間の中にそびえ立つ塔のような何かの上に、シロヤは立っていた。
そのシロヤの視線の先に、シロヤは再び何かを捕らえた。ゆっくりと近づいていくと、それが鮮明に見えてくる。
「!!!」
鮮明に見えた何かは、中空を見るかのように立ち尽くしていた。そしてそれは、シロヤが一番会いたいと強く願った人物だった。
シロヤは自分の持つ最高の大きさで叫んだ。
「シアン様!!!!!」
シロヤはシアンに向かって駆け出した。早くシアンに会って話をしたかった。謝りたかった。そして、告白をしたかった。
しかし・・・。
「・・・。」
「シアン・・・様・・・?」
そこにいたシアンは、まるで脱け殻のようになったシアン、シロヤが見ていたシアンとは違うシアンの姿だった。
何も考えず、何もせず、ただそこにいるだけの存在となったシアン。
「シアン様・・・シアン様!」
呼びかけても反応しない。シロヤに絶望が襲った。
「そんな・・・シアン様・・・。」
涙を流すシロヤの先に、立ち尽くすシアンの影が伸びていた。
「!」
その時、影がシロヤの目の前で起き上がった。