過去
「ここってやっぱり・・・。」
この空間が何なのか、そして自分が見た映像。それが一体何なのか、シロヤはわかり始めていた。
「ということはやっぱりここは・・・旧バスナダ国家、砂の竜王時代のバスナダ・・・。」
話を聞いていると、度々登場するシアンは見るたびに成長していっている。つまりこれは、シアンの見た過去の映像。
しばらくすると、再びシアンが現れた。先程よりも成長しているということは、先程から一年以上経っているということになる。
「お母様!」
「シアン・・・。」
シアンが女性に話しかけると、女性はシアンを抱いて涙を流した。
「シアン・・・!あなたは私の子供よ・・・!絶対に・・・!」
「・・・うん!」
抱き合って泣くシアンと女性。
「あの女性って・・・シアン様の母親・・・?」
呟くと、再びシアンと女性は消えた。
そしてまた新たに現れたのは、また一つ成長したシアンと母親の女性、そして玉座に座る国王の姿だった。
「国王様!」
兵の一人が国王の前で膝まずいた。
「謁見を希望している旅芸人の者が来ております。」
「通せ。」
兵はすぐさま王室を出ていく。しばらくすると、奇抜な格好をした奇妙な人物が王室にやって来た。
「国王様!ご機嫌うるわしゅうございます。」
やけに甲高い声が部屋に響くと、旅芸人はすぐさま持っていた玉を懐にしまった。
「他国からの者か。我がバスナダに何の用だ。」
「我が・・・ねぇ。」
旅芸人は小さく呟くと、急に高笑いを始めた。不気味な笑い声が王室に響き渡る。
「まぁあれですよ・・・砂が呼んでいると言いましょうか。」
「何・・・?」
「私達の大将はあなたのやり方に不満があるようですよ。」
不気味な空気が王室を取り巻いている。旅芸人から発せられるその空気は、不快とは違う嫌な空気だった。
「何が言いたい・・・。」
「単刀直入に言うとですね・・・。」
「死んでください。」
空気が揺れた。
旅芸人はすぐさま懐から玉を取り出して国王に向けて投げつける。その玉は空中で鋭利な刃物となって国王に放たれた。
国王もすぐさまその場を離れようとしたが、僅かに刃物の方が速かった。
「!!!」
刹那、肉を刺し貫いたような嫌な音が響き渡る。
「・・・!」
その場にいた全員が固まった。目の前に起きた現実を、シロヤが、旅芸人が、シアンが、そして国王が見ていた。
「あぁ・・・!」
情けない言葉を漏らす国王の目の前には、国王をかばって刃物の餌食となった女性の姿があった。
「い・・・いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
悲鳴のようなシアンの叫びが響き渡る。
「ちっ!」
旅芸人はすぐさま身を翻して窓に向かって走り出した。そしてそのままガラスを突き破って城から出ていってしまった。
「イリーボア・・・!イリーボア!イリーボア!!!」
国王はすぐさま女性―――イリーボアを抱いて叫び続ける。
「・・・あなた・・・。」
イリーボアは小さく国王を呼ぶと、その頬にそっと手を置いた。
そして・・・。
「・・・・・・・・・。」
優しく国王に口づけをすると、笑顔を浮かべながらゆっくりと目を閉じた。
「・・・イリーボア・・・イリーボアァァァァァ!」
泣き続けるシアンと共に、国王はイリーボアの体を抱きながら叫んだ。
「・・・。」
しばらくすると、その映像もシロヤの目の前から消え去って、新たな映像が現れた。
そこには、喪服を来たプルーパとシアン、そして赤ちゃんを抱いた国王の姿があった。
「あの赤ちゃん・・・ローイエ様か。」
ローイエが過去を話してくれた時に母親の話が出なかったのは、母親であるイリーボアがローイエを産んだのは、旅芸人によって殺される一ヶ月だったからだ。
喪服を来たシアン達は消え、再び国王とシアン達が現れた。
「ついに始まるか・・・。」
国王はそう呟くと、近くにいた兵の方を向いた。
「レジオンを呼べ。予定通り、今から兵団長の受け継ぎを始める。」
「はっ!」
兵はすぐさま王室を出ていく。
しばらくしてから現れたのは、レジオンと金髪の男性だった。
「レジオンよ、お前は私が王位に就いた時から世話になっていたな。これからは戦術顧問として役に立ってもらいたい。」
「ありがたきお言葉!」
頭を下げるレジオン。次に国王は、そのレジオンの横にいる金髪の男性に話しかけた。
「そなたに新たな兵団長を務めてもらいたい。」
「はい!国王様のご期待に応えられるよう、粉骨砕身の覚悟で務めさせていただきます!」
敬礼をする男性に微笑みかけると、国王はさらに言葉を続けた。
「そなたの望みを一つ叶えよう。何でも申せ。」
そう言うと、男性は迷うことなく言った。
「どうか、二人の私の弟を兵団に入団させていただきたいのです。」