理由
「方法・・・?」
突然の発言に、その場の視線が全てリーグンに集まった。
「しかし・・・これには未知数の危険が伴う可能性があります・・・。」
そこでリーグンは言葉を止めた。リーグンにとっても言いづらいことであるため、表情をどんどんと険しくしていく。
「・・・どんな方法なんですか?」
一番最初に聞いたのはシロヤだった。リーグンはしばらく黙った後、決心したかのように口を開いた。
「・・・シアン様は心の中をさ迷っている状態にあります。ならば戻す方法は一つ。さ迷っているシアン様を見つけることです。私の魔法を使えば、シアン様の心の中に一人だけならば送ることができます。」
「じゃあ!」
「・・・しかし・・・。」
シアンを救える方法を聞いて、シロヤは笑顔を見せた。
対してリーグンはさらに表情を険しくした。シロヤにとっては希望だが、リーグンは非常に危険な賭けであることを理解していたため、希望とは呼べずにいた。
「シアン様の精神状態は非常に不安定です・・・心の中がどうなっているのかわかりません。」
安定している心を持つ人は、人に危害を加えることはない。それは心でも同じことである。
しかし、不安定な心と言うのは危険であり、場合によっては人をも殺しかねない。それは心の中でも同じことである。リーグンの心配はそこにあったのだ。
「非常に危険です・・・何が起こるか想像がつきま」
「俺が行きます!」
リーグンの言葉を途中で遮るシロヤ。その場の全員がシロヤの方を向いた。
「シロヤ様、お気持ちはわかります。しかし・・・何が起こるかわからない故に」
「だからといって何もしないわけにはいきません!」
シロヤは立ち上がって拳を強く握り、強い決心を顔に浮かべていた。
「このままではシアン様は目覚めないのなら、例え危険でも賭けにのります。」
視線を一切リーグンからそらさず、シロヤは本気の言葉を口にした。その心に嘘偽りがないのはリーグンがよく知っていた。
「・・・お兄様。」
突如、ローイエが口を開いた。
「お兄様・・・自分が嘘ついたせいだからお姉様を助けにいくの?」
「・・・確かにそれもあります。」
シロヤのその言葉には、シアンに対する罪滅ぼしの意味も込められていた。
しかし、シアンを助ける理由はそれだけではなかった。もちろんそれは、罪滅ぼしよりももっと単純且つ明確な理由だ。
シロヤはその想いを初めて口にした。
「でもそれだけではありません・・・シアン様のことが・・・好きだからです。」
少し頬を赤らめ、シロヤは初めて口にした。
バスナダに来てから、シアンと出会った時からシロヤが抱いていた想い。
シロヤがシアンを助けにいく一番の理由であり、シロヤを動かす一番の原動力でもあった。
「!!!」
ローイエは最高の笑顔を浮かべた。それはローイエが一番聞きたかった言葉であり、シロヤが一番言うべき言葉でもあった。
「うん!」
笑顔のままローイエは頷いた。それに続き、周りにいた人達も言葉を続ける。
「ようやく白状しやがったな!シロヤ!」
レジオンはシロヤに近づき、笑いながら軽く肘をシロヤの胸に当てた。
「その気持ち、シロヤさんらしいですよ!」
「眠りについたお姫様の目を覚まさせるのは王子様の役目よ。」
キリミドとフカミも笑顔でシロヤを激励した。
「・・・。」
笑顔のまま、シロヤはクロトの方を見た。クロトは小さく鳴いて頷いた。それは、"いってらっしゃい"とクロトが言っているように思えた。
「うん・・・クロト、行ってきます。」
シロヤは軽く伸びをしてリーグンの方を向き直り、目で合図を送る。
「待てシロヤ!」
急に声をかけたのはレジオンだった。レジオンは、シロヤに向かって剣を放り投げた。シロヤは剣をキャッチして見てみると、それは自分の剣だった。
「レジオンさん・・・ありがとうございます!」
レジオンに頭を下げ、シロヤは再びリーグンに合図を送った。
合図を受けたリーグンは、杖を取り出して詠唱を始めた。
「お兄様。」
詠唱を待つシロヤに、ローイエは声をかけた。
笑顔のまま、ローイエは自分が言いたかった言葉をシロヤにぶつけた。
「お兄様!私も・・・私もお兄様が大好きです!」
「ローイエ様・・・。」
「帰ってきたら私とお姉様達と一緒のお布団で寝ようね!」
「・・・はい!」
ローイエの告白に、シロヤは笑顔で答えた。
「えへへ!」
少し頬を赤くしたローイエは、照れを隠すように笑った。
「シロヤ様!準備が整いました!」
リーグンの言葉に、シロヤは剣を強く握りしめ、表情を引き締めた。
「シアン様・・・待っていてください!」
シロヤは眠っているシアンに言葉をかけた。
その瞬間、シロヤの体を光が包み込み、やがて光は柱に形を変えた。柱が強い光を放つと、柱はシロヤを離れてシアンに向かって降り注いだ。
光が止んだ時、シロヤはそのまま前のめりに倒れた。