彷徨
「俺に会いたい人って・・・誰なんだろう・・・。」
城門までの長い廊下を、シロヤとローイエは並んで歩いていた。
「お兄様・・・気を付けようね。」
心配そうにローイエが呟いた時、二人は城門前に到着した。
そして、シロヤが城門に手をかけた時、城門の向こうから鳴き声が聞こえた。
「・・・!」
その鳴き声を聞いた瞬間、シロヤは動きを止めた。まるでシロヤだけ時間が止まったように。
その鳴き声は、シロヤが小さい頃から聞いていた鳴き声。そして、シロヤの心を晴らす鳴き声でもあった。
いてもたってもいられず、シロヤは城門を開いて叫んだ。
「クロト!!!」
城門の先に立っていたのは、紛れもなく、滝でシロヤを助けて落ちたクロトだった。
「クロト!!!」
シロヤは駆け出してクロトに抱きついた。クロトも嬉しそうに頬をすり寄せている。
「クロト・・・!クロト・・・!!!」
クロトを抱きながら、シロヤは涙をどんどんと溢れさせていく。それを見ていたローイエ、そしてフカミとキリミドも涙を流していた。
「お兄様・・・!」
「クロトさん・・・シロヤさん・・・会えて・・・よかったです・・・!」
「・・・。」
しばらく四人と一頭は、再会を喜ぶ涙を流し続けた。
「フカミさん、キリミドさん、本当にありがとうございます!」
フカミとキリミドに全力で頭を下げるシロヤ。
「再会できて本当によかったです!シロヤさん!」
「もう離れ離れにならないようにしなさいよ?」
フカミは照れ隠しをするかのようにそっぽを向き、キリミドは涙を流しながら笑った。
「えへへ!お兄様!」
いつの間にか、ローイエが満面の笑顔でシロヤに抱きついた。
「お兄様もクロト様も帰ってきたから〜?」
「そうですね!後は・・・シアン様だけですね!」
ローイエの笑顔に答えるように、シロヤも満面の笑みで返した。
その時・・・。
「シロヤ様!ローイエ様!」
城の方から、叫び声と廊下を走る音が聞こえた。
後ろを振り向くと、リーグンが立っていた。
その表情は険しく、ひどく焦っていた。
ただ事ではないことを感じ取ったシロヤの顔が自然と締まる。
「どうしたんですか!?リーグン様!」
「早く来てください!シアン様が・・・シアン様が・・・!」
それを聞いた瞬間、シロヤは地面を蹴って全速力でシアンの部屋に走っていった。
「お兄様!」
「シロヤ様!」
ローイエ、リーグン、そしてクロト、フカミ、キリミドも、シロヤを追って城に走っていった。
「シアン様!」
シロヤがシアンの部屋に着くと、シアンの部屋にいたのはレジオンだけだった。そしてそのレジオンの表情は、リーグンと同じく険しく焦っていた。
「シロヤ・・・。」
レジオンがシロヤに声をかけた瞬間、シロヤは部屋に入ってシアンのベッドを見た。
「・・・シアン・・・様・・・?」
ベッドに横たわるシアン。その目は閉じられていて生気を感じ取ることが出来ない。全く動かないそれは、さながら死体のようだった。
膝から崩れ落ちるシロヤに、レジオンは言葉を続けた。
「大丈夫だ・・・シアンはまだ生きている・・・ただ・・・。」
「そこからは僕が説明します。」
いつの間にか、リーグン達はシアンの部屋の前に立っていた。リーグンはゆっくりとシアンに近づいた。
「リーグン様・・・シアン様は一体・・・。」
「大丈夫です。シアン様は眠っているだけです。」
しかし、リーグンは表情をさらに暗くした。
「ただ・・・今のシアン様は心を無くしている状態にあるんです。」
リーグンはさらに続けた。
「シアン様は強い現実逃避のため、心の奥深くに逃げ込んでしまったのです。普通の人ならしばらくすれば戻ってこれるのですが・・・。」
そこでリーグンは言葉をつまらせた。
「・・・普通の人ならって・・・どういうことですか?」
「・・・シアン様は今・・・心の中をさ迷っている状態にあるんです。万が一・・・このままさ迷い続けてしまえば・・・シアン様が目覚めることは・・・。」
リーグンは再び言葉をつまらせた。
シロヤはすぐさまシアンに駆け寄り、シアンに向かって全力で叫んだ。
「シアン様!!!俺です!!!シロヤです!!!」
涙を流しながら、シロヤはシアンに向かって何度も叫んだ。
「シアン様!!!目を覚ましてください!!!」
何度も何度もシロヤは叫んだ。しかし、シアンは一向に目を覚ます気配はなく、無機物のようにシロヤの腕の中で佇んでいた。
「シアン様!!!シアン様!シアン様・・・!」
次第に声に力が無くなっていき、いつの間にか声は嗚咽に変わり始めていた。
「うぅ・・・シアン・・・様・・・!」
力無く泣き続けるシロヤ。
そのシロヤに一番最初に声をかけたのは、リーグンだった。
「・・・シロヤ様。」
さっきのような暗い口調ではなく、はっきりとした口調に変わっていた。
「方法は・・・あります。」