起床
朝、爽やかな砂漠の朝日が窓から降り注ぐ。窓の位置が、ちょうど朝日を枕元に降り注がせ、爽やかに目覚めることが出来る。
と、ここまでがレーグから話された部屋の説明だ。しかし、爽やかな朝日はシロヤに降り注いでなかった。
「・・・?」
ゆっくりと目を開けると、窓を誰かが遮っているようだ。遮っている人は、シロヤの頭を撫でながら、顔を真上からずっと見つめていた。
「ん?起きたか?おはよう。」
微笑みを浮かべ、頭を撫でながら、目覚めたシロヤに声をかける。シロヤの頭には、柔らかい枕の感覚があったが、横を見てみると、昨日使っていた枕が無造作に転がされていた。じゃあ今、自分の頭の下にあるのは何なんだろうか・・・。
まだ状況を理解できないシロヤ。頭の中で出した結論は
「夢・・・か。」
再び目を閉じるが、目覚めてから時間が経ったシロヤは思考が復活していた。
再び目を開けたシロヤは、状況を瞬時に確認した。今、シロヤは頭を撫でながら膝枕をされていた。そして、膝枕をしている人物は
「どうした?そんなに見つめられては照れるではないか。」
「・・・シ!シアン様!」
シアンは、微笑みながらシロヤを見つめていた。対称的に、シロヤの顔はどんどんと焦りの色が強くなった。
「どうした?私の膝枕を気持ちよくないか?」
「い!いや!そういう訳では!すいません!」
慌ててベッドから飛び降りようとするシロヤを、シアンが体で制止させる。強引に頭を胸に持ってかれるシロヤ。
「そんなに堅くなるな。今は私が王族ということは忘れるがいい。」
「あ・・・は・・・はい。」
しばらくシアンに甘えさせられるシロヤ。再びまどろみ始めてきたシロヤは、強引に眠気を圧し殺してシアンに話しかけた。
「そういえばシアン様、俺にぴったりの役職っていったい・・・。」
「おぉ、話すのを忘れていた。何にせよ、話がわからなければ決断なんて出来ないな。」
シアンは撫でていた手を止め、凛とした瞳でシロヤを見つめながら、ゆっくりと語りだした。
「これは、そなたにしか出来ないことだ。」
「でも・・・俺は頭が良いわけでもないし、剣の腕が良いわけでも・・・。」
「そんなことではない。そなたにしかできぬ、そなたにこそ相応しいことだ。」
シアンは一呼吸置いたのち、目を閉じて再び語りかけた。
「そなたには、私のそばにずっといてほしい・・・。」
「・・・え!?」
シロヤは驚きの声を上げた。しかし、シアンはそのまま言葉を続けた。微かに頬が赤くなっている。
「私と共に・・・この国を・・・支えてはくれぬか。だから・・・私と・・・。」
声を次第に籠らせる。言葉を発するのをためらうかのように、シアンは何回も体を揺すった。
「・・・シアン様?」
シアンは頬をどんどんと赤くしていった。一瞬見えたシアンの乙女の姿に、シロヤはドキッとした。
「・・・女王様。」
急に割り込んできた第三者の声。シロヤはこの声に聞き覚えがあった。昨日の夜中、プルーパが話していた最も怪しいといわれる人物だ。
「レーグ!?何故お前がここにいる!?この部屋はクピンが担当しているではないか!」
シアンはシロヤを抱いたまま怒鳴った。よほど、二人きりの空間を邪魔されたことが腹立たしいのだろう。
「そんなに怒らなくても・・・朝食が出来ましたんでお呼びしに来ただけですよ。」
レーグは悪そうにいったが、顔は全然悪びれている様子はなかった。むしろ、良いタイミングに来たとでも言わんばかりの表情だ。それが、シアンを怒らせた要因の一つでもあるようだ。
「それならば朝食をここに二人分持ってこい!私はこのお方と二人でいただこう!」
「いやいや、もうローイエ様もプルーパ様もいらしていますので、残りはお二人だけなんですよ。」
女王を怒らせているにも関わらず、全く動じていない。シアンは少しムッとした表情のまま考え込んだ。
「む・・・二人が待っているのならしょうがない・・・。続きは朝食後に話そう。」
シアンはシロヤを静かに離し、早歩きで部屋を出た。そしてそのあとをレーグが追う。
「ではシロヤ様、お早めにいらしてください。ヒヒヒヒヒ。」
最後の含み笑い、シロヤはレーグに言い様のない寒気と不気味さを感じた。
「・・・。」
ここで考えていてもしょうがないと、シロヤは考えるのをやめて部屋を出た。
その瞬間
「キャッ!」
「うわぁ!」
ドアを開けて部屋を出てすぐ、シロヤは誰かとぶつかった。
ぶつかった少女は黄色く長い後ろ髪を二つにまとめていた。華やかなドレスに身を包んでいて、背丈はシロヤよりも小さい。見た感じ、歳もシロヤより下だろう。
「あれ?もしかして・・・シロヤ様!?」
少女はシロヤを見るなり、目を輝かせて近づいた。
「え?そうだけど・・・。」
「わぁ!お姉様を助けてくれたんだよね!」
少女はシロヤに抱きついた。その少女の言葉の中に、シロヤはいち早く気づいた。
「お姉様!?ていうことは君、いやあなたは!?」
「うん!私のお姉様は第一女王様と第二女王様なんだよ!私も第三女王なの〜!」
抱きついたまま少女はシロヤに笑顔で答えた。逆にシロヤはまたもや焦りの顔になる。
「シロヤ様〜!ご飯の時間だから食べにいこ〜!」
「う・・・はい。」
シロヤは少女に抱きつかれたまま、朝食の場を目指した。
「そういえば名前言ってなかったね!ローイエっていいま〜す!」
「ローイエ・・・様?」
「様いらないよ〜!」
いつの間にかシロヤの前に来たローイエは、シロヤの胸に顔を埋めた。