襲撃
「さぁ、行きましょうか。」
次の日、クロトはフカミとキリミドと共に自然の家を出発した。
「このまま進めば滝の上に出るわよ。」
フカミとキリミドに連れられながら、クロトは昨日見た石板のことを考えていた。
何故か、クロトの頭から石板のことが離れることはなかった。
「・・・そんなに石板のことが気になるの?」
気づいたフカミがクロトに言った。クロトはそう言われ、ゆっくりと頷いた。
「あの石板・・・実は私達が持ってきた物なのよ。」
フカミは昔を思い出すように語りだした。
「昔ね、森にあの石板の欠片が落ちてたの。それを全部回収して繋ぎ合わせたらあの石板が出来たって訳よ。」
「石板の内容は私が集めたんですよ。」
二人が石板の話をし終えた頃、クロト達は森に建てられた教会の前にやって来た。この教会は、シロヤとプルーパがレーグを追ってやって来た場所だった。
「さぁ!ここまで来たらもうすぐよ!」
「早くシロヤさんに会いに行きましょう!クロトさん!」
クロトは大きく鳴いて、早く会いたいと思い走り出そうとした。
「・・・・・・・・・待って!」
走り出そうとしていたクロトを制したのはフカミだった。フカミは森に感じる"何か"を捕らえ、クロトとキリミドを守るように前に出た。
「お姉ちゃん・・・?」
フカミのただ事ではない雰囲気を感じとり、キリミドは心配そうに聞いた。
しかし、フカミは答えずにじっと視線の先の森を見ていた。
「・・・。」
動かずに森を見続けるフカミ。
そして、フカミは森に向かって叫んだ。
「出てきなさい!」
フカミが叫んだ瞬間、森から草木をなぎ倒すような強く大きな音が聞こえてきた。その音は次第に大きくなっていき、やがてそれは姿を現した。
「!!!」
それが姿を現した瞬間、フカミは戦闘体制に切り替えて、足元に草の壁を作り出した。
「汚染植物!?」
現れたのは動く木だった。木はフカミ達を捕らえた瞬間、枝を伸ばしてフカミ達に襲いかかってきた。
「くぅ!」
草の壁が枝の攻撃を防いだが、その衝撃はフカミにダメージを与えた。
「お姉ちゃん!」
キリミドが駆け寄って治癒魔法をフカミにかけるが、どんどんと強くなっていく木の攻撃に、次第にフカミは体力を消耗していった。
「キリミド・・・離れてなさい。」
「お姉ちゃん・・・?」
フカミは枝を伸ばし、クロトとキリミドを自分から離れさせた。
それと同時に、草の壁が枝によって破壊された。素早く枝がフカミに向かって伸びていく。
「枯れなさい!」
向かってきた枝に向かって、フカミは淡く光った手のひらを向けた。
「お姉ちゃん!!!」
「えっ?」
光は確かに枝に届いたが、枝は枯れる様子を見せずにフカミに向かって伸びてきた。
急いで枝を避けようとするが、アクションを起こす前に、枝はフカミの目の前まで迫っていた。
「お姉ちゃん!!!」
キリミドが枝を伸ばしてフカミを助けようとした瞬間、横を風が吹き抜けた。
「!!!」
枝はそのまま地面に突き刺さったが、フカミの体を捕らえていなかった。
「・・・クロト?」
気づいた時、フカミはクロトの前にいた。クロトは全力で地面を蹴り、フカミをギリギリで助けることに成功したのだ。
「クロトさん!お姉ちゃん!」
駆け寄って治癒魔法をかけるフカミ。
クロトはフカミとキリミドを背中に乗せると、さらに伸びてきた枝を避けるために走り出した。
走り続けるクロトの背に乗ったフカミは、キリミドに向かって深刻な顔を浮かぶた。
「・・・キリミド。」
「どうしたの?お姉ちゃん。」
治癒魔法をやめ、キリミドはフカミの言葉を聞いた。
「あれ・・・植物じゃないわ。」
「えっ?だって枝も葉もあるよ?」
「あれは全くの別物よ。枯れなかったからもしかしてと思ったんだけどね・・・。」
さらに激しくなる攻撃。クロトは次第にスピードを落としかけていた。
「お姉ちゃん!クロトさんが!」
「クロト!今から言うことをよく聞いて!」
フカミは真剣な表情でクロトを見ながら、はっきりとした口調で話始めた。
「このまま走ってあいつの気を引いて。一分だけでいいわ。一分あれば準備できるわ。」
「まさか・・・あれをやるの!?」
キリミドは驚いたように声を上げた。対してフカミは氷のように冷静でいて、表情は決意を秘めていた。
「これ以上・・・この森を荒らさせはしないわ!」
そう叫ぶと、フカミは高く飛び上がった。
「クロトさん!私が合図したらすぐに逃げてください!巻き添えを食らってしまいます!」
そう叫ぶと同時に、キリミドはクロトから飛び降りてすぐさま詠唱を始めた。