責任
シロヤの言葉を聞いて、ローイエは満面の笑みを浮かべた。まるで、言ってほしかったことを言われたかのように。
「うん!」
ローイエはそのままシロヤに飛び付いた。
「うわぁ!」
急に飛び付かれ、シロヤはそのまま後ろに倒れた。しかし、ローイエは嬉しそうにシロヤの胸に頬を擦り付けていた。
「シロヤお兄様!また四人で一緒にお食事しようね!」
淀みの全くない笑顔を浮かべるローイエ。それに答えるように、シロヤはぎゅっとローイエを抱いた。
「わかりました、ローイエ様。」
それを聞いたローイエは、ムッと怪訝そうな表情に変わった。
「もうお兄様!様ってつけないでよ〜!」
怪訝そうな表情のままシロヤを見上げるローイエ。シロヤは少し恥ずかしそうにしながら、ゆっくりと口を開いた。
「じゃあ・・・えっと・・・ローイエさ・・・ちゃん?」
「〜♪」
瞬時に嬉しそうな表情に変わった。
「お兄様、お姉様がまだ目を覚ましてないの。」
「シアン様・・・。」
二人は今、シアンの部屋の前にいた。
「シアン様!俺です!シロヤです!」
部屋の前で叫ぶようにシアンを呼ぶが、返事はおろか、部屋の中から物音一つ聞こえてこなかった。
「・・・シアン様・・・。」
「お姉様!シロヤお兄様だよ!」
ローイエも同じように叫ぶが、やはり結果は同じだった。
しばらく無言になる二人。
その時、背後から二人に声がかけられた。
「ローイエ様!・・・!?」
二人が振り向くと、立っていたのは食事を乗せたトレイを持ったリーグンだった。
リーグンはシロヤを見て、トレイを持つ手を小さく震えさせていた。トレイの上のスープが小さく波を立てている。
「シ・・・シロヤ様・・・!目を覚まされたのですか・・・?」
まだ信じられないといった感じのリーグンに、シロヤは小さく会釈をした。
「ご迷惑をお掛けしました・・・リーグン様。」
それを聞き終えない内に、リーグンはシロヤに駆け寄った。
「シロヤ様!本当に・・・本当によかった・・・!」
さっきまでのシロヤのように、リーグンの目からも涙が溢れていた。
「シロヤ様・・・本当にありがとうございます・・・!」
リーグンは涙声になりながら、シロヤに向かって口を開いた。
「ありがとう・・・って、お礼を言うのはこっちですよ!」
「いえ・・・シロヤ様が自分を失ってしまったのは私達の責任です・・・例えシロヤ様があのまま目を覚まされなくても、私達は生涯シロヤ様に尽くそうと決意してました。」
その言葉に、ローイエは深くうなずいた。シロヤのために生涯を尽くそうとしていたのは、リーグンだけではなかった。ローイエだけではなく、プルーパやバルーシ、レジオンやランブウも同じだった。
「シロヤ様が目覚めていただいたおかげで、私達は償いのチャンスを得ることができました。本当に・・・ありがとうございます!」
深々と頭を下げるリーグンの頭を、シロヤは慌てた様子で上げさせた。
「償いなんていりません!看病してくれただけでも俺はそれ以上の感謝をしていますから!」
それを聞いたリーグンは、流れていた涙を軽く袖で拭いて、ゆっくりと顔を上げた。その顔は、涙をこらえながら笑っていた。
「いえ・・・私達はシロヤ様が目覚められてからが本番です。そして・・・後はシアン様のお目覚めを待つだけです。」
三人は同時にシアンの部屋を向いた。全く開く様子のない扉。その奥から、物音は一切聞こえてこない。
「・・・この状態のまま・・・もう二日が経ってしまってます・・・。」
リーグンが呟くのを聞いて、シロヤは扉に数回手を触れた。
「・・・体当たりすれば・・・開くかもしれません・・・。」
シロヤは扉からゆっくりと離れて、軽く伸びをして構えた。
「待て、シロヤ。」
構えたシロヤに急にかけられた声。向くと、立っていたのはレジオンだった。
「レジオンさん!」
「よ、ちゃんと目を覚ますって信じてたぜ。」
レジオンはゆっくりと扉に近づいて、コンコンと扉を叩いた。
「強行突破するには一人じゃ荷が重いぜ。この扉はな。」
そう言って、レジオンはシロヤの背中を叩いた。
「ま、ここは俺とリーグンに任せてくれや。」
「でも・・・。」
シロヤが口を開こうとした瞬間、レジオンはすぐさまそれを遮った。
「お前に会いたいって奴が・・・城門前にいるらしいんだ。会ってきな。」
レジオンは再びシロヤの背中を強く叩いた。
「俺に・・・会いたい人?」
「細かいことは会ってから聞きな。」
シロヤはレジオンに言われ、城門に向かっていった。
「お兄様、私も行きます。」
その後ろを、ローイエが小走りでついていった。
「レジオンさん、シロヤ様に会いたい人って・・・。」
「俺もビックリしたんだが・・・まぁ、今のシロヤに一番ピッタリな奴だ。」
レジオンは軽く伸びをしてから、扉に向かって体当たり準備をした。




