虚脱
あの日以来、プルーパはレーグの動向を伺うようになった。短期間調査兵に任命されたバルーシも、王室への警備を続けながらレーグを観察し続けていた。
ある日、プルーパはバルーシを自室に呼んだ。二人は向かい合わせに座り、互いの観察結果を話し合っていた。
「私の方は全然だめよ。何の動きもなかったわ・・・どう?あの日以来、王室で何か動きはあった?」
「はい、定期的に王室に足を運んではいますが、いずれもつまみ出されてしまってます。シアン様に大きな変化も見受けられません。」
「そう・・・ありがとう。引き続き調査よろしくね。」
「はっ!」
敬礼をして、バルーシはプルーパの部屋から立ち去った。
「・・・レーグ。」
ガチャ!
「おねえさま・・・。」
バルーシと入れ違いでローイエが入ってきた。不安そうな顔を浮かべながら、ローイエは静かに呟いた。
「おねえさま、最近忙しそうだよ?」
「うん・・・そうね。確かに最近眠れない・・・かな?」
レーグと会った日以来、プルーパはシアンのことが気がかりになっていた。それが実生活や表情にも現れていて、ローイエに心配をかけていたのだ。
「おねえさま・・・大丈夫?」
「大丈夫よ!これくらいで弱ってたら王族なんて務まらないわよ。」
これ以上ローイエを心配させないように、プルーパは必死に笑顔を作った。
「ローイエ!久しぶりに槍の稽古をつけてあげるわ!」
「・・・うん!」
ローイエは急いで自室に向かっていった。
「・・・シアンもローイエも・・・私が守らないと・・・。」
小さく決意をして、プルーパは自室にあった練習用の槍を持った。
「プルーパ様!!!」
勢いよく開かれたドア。その先にいたのは、慌てた様子のバルーシだった。
「バルーシ!?どうしたの!?」
「レーグが!レーグが王室に武装して侵入した模様です!」
「何ですって!?」
それを聞いた瞬間、プルーパは槍を投げ捨てて短剣に持ち替えた。
「見張りの兵は貴方のはずよ!?なぜ突破されたの!?」
「ついさっき、シアン様から異動を言い渡されて見張りをする場所が変わったのです!」
すぐさまプルーパは部屋を飛び出す。その後ろからバルーシもついていく。
「あ!おねえさま!」
後ろから、槍を持ったローイエが声をかけてきた。
「ローイエ!槍の稽古は中止よ!部屋に隠れてて!」
しかし、ローイエは後ろから走ってついてきていた。
「おねえさま!わたしにないしょにしてることがあるんでしょ!?」
「ローイエ!危険だからついてこないの!」
「いや!」
ローイエは強く叫んで走り続けた。
「皆・・・気絶してるわ。」
王室前にいた衛兵は全員気絶していた。
「外傷はありません・・・魔法によるものでしょうか?」
「おねえさま・・・なにがおこってるの?」
静まる空気の中、プルーパはゆっくりと王室への扉に手をかけた。
「シアンが心配だわ・・・行くわよ!」
一拍置いて、プルーパは王室の扉を開けた。
「シアン!」
「シアン様!」
「シアンおねえさま!」
王室にいたのは、シアンとレーグだった。
「レーグ!あなた・・・シアンに何をしたの!?」
レーグは杖を構えていた。そしてその先にいたのは、玉座に座り、糸の切れた人形のように動かないシアンがいた。
「何を?ヒヒヒヒヒ!私は何一つ手を出していませんよ?言ったではありませんか。私はただ言葉をかけるだけ・・・ヒヒヒヒヒ!」
含み笑いを続けながら、レーグは杖を下ろして王室を去っていこうとした。
「待て!」
バルーシがすぐさま飛びかかったが、バルーシが捕らえたレーグはすぐさまその場から消えてしまった。
「くっ・・・映像投影魔法か・・・!」
バルーシは地面に拳を叩きつけた。
「シアン!シアン!」
「シアンおねえさま!おねえさま!」
二人は、玉座にだらんと座っているシアンに向かって叫んだ。しかし、シアンは一向に返事をせず、虚ろになっている目に二人の姿は映っていなかった。
「シアン!私よ!プルーパよ!」
「おねえさま!ローイエだよ!」
必死に揺さぶって声をかけるが、シアンは一切動かない。
「・・・。」
ふと、シアンが何かを呟いていることに気づいた。
「たし・・・わたし・・・。」
「シアン!?」
シアンはただ呟き続けていた。
「私は・・・何のために・・・。」
「どうしたの!?おねえさま!」
「私は何のために・・・私は・・・何者・・・なんだ・・・。」
「シアン・・・?」
次第に、シアンの目から涙が浮かんでいた。涙を浮かべながら、シアンはずっと呟き続けていた。
「私は・・・何者なんだ・・・私は・・・一体・・・!」
「あなたはシアンよ!バスナダ国を治めてる国王!シアン・ラーカよ!」
「つよくてやさしいわたしのおねえさまだよ!たったひとりのわたしのシアンおねえさまだよ!」
二人の叫びはシアンには届かず、ただ王室に響くだけだった。