衛兵
「・・・シアン・・・どうして何も話してくれないの?」
「・・・。」
王室の玉座に腰掛けているシアンに、プルーパは寂しそうな顔で詰め寄っていた。
対してシアンは、一切表情を替えない。
「ねぇ・・・答えて!何で何も言ってくれないの!?」
「・・・。」
「何で・・・?私達・・・家族でしょ・・・?ねぇ・・・シアン・・・。」
次第に涙声に変わっていき、プルーパの足元に涙が落ちていった。
なおも表情を変えないシアンに、プルーパはさらに涙を流しながら詰め寄った。
「お願いシアン!一言でもいいから・・・声をかけてよ・・・!お願い・・・!」
膝から崩れ落ちるプルーパを、シアンは無表情でただ見下ろしていた。
「うぅ・・・!うぅぅ・・・!」
溢れてくる涙を抑えきれず、プルーパは膝をついて泣き出した。
「・・・女王様。」
突如聞こえた第三者の声。振り向くと、扉の前にいたのはレーグだった。
「レーグ・・・あなたは確か王室に出入りが許されていないはずですよ。」
「細かいことは気になさらずに・・・ヒヒヒヒヒ!」
王室に響く含み笑い。プルーパは顔をしかめるが、シアンは一切表情を変えない。
「・・・何の用だ。」
「ヒヒヒヒヒ!単なる助言ですよ、助言。ヒヒヒヒヒ!」
それを聞いたシアンは、勢いよく玉座から立ち上がった。
「一学者が私に助言だと!?ふざけるな!」
そう言って、シアンは近くの衛兵に叫んだ。
「そこの学者をつまみ出せ!」
衛兵が一斉にレーグに群がって、たちまちレーグはつまみ出されてしまった。
「・・・。」
それを見届けたシアンは、玉座を離れて自室へと向かっていった。
「待ってシアン!話を聞いて!お願い!」
そんなプルーパの叫びもむなしく、シアンは無言のまま自室へと入っていった。
「シアン・・・。」
シアンが入っていった部屋の扉を、プルーパはしばらく見つめ続けていた。
「ヒヒヒヒヒ!」
「レーグ・・・あなた・・・。」
王室を出ると、レーグが扉の前に立っていた。
「女王様が心配なのですか?まぁあれだけ避けられていれば当然ですよねぇ・・・ヒヒヒヒヒ!」
「口を慎みなさい。私も一応王族なのよ。」
レーグは悪びれる様子もなく、ただ笑い続けていた。
「・・・もういいわ、あなたと話してると頭痛くなるわ。」
そう言って、プルーパはレーグを通りすぎて自室に向かおうとした。
「ヒヒヒヒヒ!何を心配する必要があるのですか?」
プルーパは動きを止めた。
「・・・どういうことよ?」
「ヒヒヒヒヒ!近々わかりますよ!」
それを言われ、プルーパは勢いよく振り向いてレーグを睨み付けた。
「言いなさい!シアンに何をするつもり!?」
「何も致しませんよ?私はただ言葉をかけるだけ・・・ヒヒヒヒヒ!」
含み笑いを止めないレーグ。しびれを切らしたプルーパは、レーグに掴みかかろうと前に出た。
その瞬間・・・。
ヒュン!
「ほぅ・・・。」
プルーパは動きを止めた。
レーグは首に剣を向けられていた。そして剣を向けていたのは、王室への扉の前にいた衛兵だった。
「それ以上の王族への無礼は許しません!」
衛兵はレーグを睨み付けて剣を強く握った。
「ヒヒヒヒヒ!あなた・・・衛兵でしょう?」
「私はバスナダの王族に忠誠を誓った身。例え身分が上の方でも、王族への無礼を見逃すわけにはいきません!」
レーグと衛兵はしばらく睨み合った。
「ヒヒヒヒヒ!怖い怖い。」
全く怯えた様子を見せず、レーグは含み笑いを続けながらその場を立ち去った。
「・・・ありがとうね。」
プルーパは衛兵に軽く頭を下げた。それに対して、衛兵は萎縮しながら敬礼した。
「プルーパ様から感謝の義を頂き、光栄至極に存じます。」
「あはは、そんなに改まらなくていいわよ。」
プルーパは、笑いながら衛兵を見つめた。
「ん〜・・・顔見えないから兜取ってくれないかしら?」
プルーパに言われ、衛兵はゆっくりと兜を取った。中から銀髪の髪の青年の顔が現れた。
「あら、かっこいいじゃない。歳も私と同じぐらいじゃないかしら。」
「そんな恐れ多い・・・。」
衛兵はさらに萎縮した。
「レーグに剣を向けた貴方なら信用できるわね。」
プルーパはしばらく衛兵を見つめたのち、表情を引き締めて真剣な口調に変わった。
「貴方を"短期間調査兵"に任命します。以後、王室への見張りを続けながらレーグの動向を観察してください。」
「は!はい!粉骨砕身の覚悟で任務に当たらせていただきます!」
勢いよく敬礼をした衛兵に、プルーパは微笑みかけた。
「うん、期待してるわね。」
そう言って、プルーパは立ち去ろうと背を向けて歩き出した。
「・・・あぁ、名前聞いてなかったわね。貴方、名前は?」
「はい!バルーシと申します!」
「うん、わかったわ。じゃあよろしくね、バルーシ。」
「はっ!」
衛兵―――バルーシは力強く敬礼をした。