王位
「お父様・・・!」
「お父様!お父様!お父様!!!」
「うわぁぁぁん!おとうさまぁぁぁ!!!」
砂漠には珍しい、強く冷たい雨が降る中、全国民が喪服で城に並んでいた。
五年前、バスナダ国王、シアン達三姉妹の父が暗殺された。
砂の竜王として恐れられていたバスナダを統治していた王が暗殺されたことで、国民達は完全に真っ二つになっていた。
片方は、武力が全てだった国作りを止める平和主義者。もう片方は、引き続き武力を第一に優先する武力主義。
お互いの意見が拮抗し合うなか、城では新たなる王の話になっていた。
しかし、ここでも意見が別れていた。それは、暗殺された先代国王が残したと思われる遺書の内容が原因だった。
「やはり王はプルーパ様でしょう。」
「しかし、先代国王が残した遺書には違うことが書かれているぞ。」
遺書の内容は、新たなる王に三姉妹の次女であるシアンを推薦するというものだった。
「これは先代国王の物ではないのではないか?」
「しかし、先代国王直筆であることは証明されたではないか。」
「しかしシアン様はまだ十歳だ。王位継承にはまだ早いであろう。」
「プルーパ様は今年で十五歳だ。王位継承には十分だろう。」
などと、話し合いの内容はプルーパとシアンのどちらに王位継承をするかという話だった。
互いに譲らぬ両方の意見。しかし、思わぬ一言で状況は急に変わった。
「ヒヒヒヒヒ!王の命令とあらば、従わないわけにはいかないでしょう?ヒヒヒヒヒ!」
当時、まだ一学者として城に出入りしていたレーグだった。当時から国王に気に入られていたレーグは、大臣の最有力候補であった。
「しかし、シアン様はまだ十歳・・・。」
「先代国王にも何かお考えがあるのではないのですか?ヒヒヒヒヒ!」
結論は、"国王の遺書に従う"に決定し、新国王はシアンということが発表された。
しかし、それを快しとしない者が城の中で現れ始めていた。もちろん国王に手を出そうとするもの等いなかったが、シアンはそれを視線から読み取っていた。
「・・・。」
それを感じ取ってから、シアンは人と話す回数が少なくなっていた。
心を開くのはごく少数の人にのみ。
「・・・シアン・・・。」
「・・・。」
プルーパの問いかけに、シアンは何も答えなかった。
シアンの中でプルーパは、"心を開かない"方に属していた。しかし、シアンは心を開こうと努力をしていたが、それはある日を境に無くなった。
それは、王位継承が決まった日の夜、シアンがプルーパの部屋の前を通った時だった。
「うぅ・・・うぅぅ・・・何で・・・何でシアンに・・・。」
「おねえさま・・・。」
たまたま聞こえたプルーパの泣き声。それを励ますように言葉をかけるローイエ。
「何でシアンが女王になったの・・・。」
「おねえさまのせいじゃないよぉ・・・。」
「でも・・・でも何で・・・うぅぅ・・・。」
部屋から聞こえる嗚咽。それをシアンはしっかりと聞いていた。
「お姉・・・様・・・。」
ショックが大きすぎて、シアンはしばらくその場を動かず、声が震えていた。
プルーパは王位がほしかったのだろうか、泣くほど王位がほしかったのだろうか。
・・・なぜそれを私に直接言ってくれなかったのだろうか。
裏切られた気分だった。シアンは溢れる涙を抑えながら部屋に入るが、一人になった途端、急に涙が溢れだした。
「うぅ・・・うっ・・・ふぇぇぇぇぇん!!!」
溢れだした涙は止まらなかった。
着せてもらった女王のドレスもティアラも、シアンはいらなかった。ただ欲しかったのは、信頼できる家族、友達、そして恋人・・・。いつまでもずっと、三姉妹仲良く一緒に笑い合えると思っていた。
「うぅ・・・!うぅぅ・・・!」
止めようとしても止まらない涙は、いつの間にか朝の光を反射していた・・・。
それ以来、シアンは国事に一生懸命取り組むようになった。
砂の竜王という異名を吐き捨て、皆が仲良く笑い合えるような国を目指した。
家臣も次第にシアンに賛同していき、いつの間にか、シアンを新女王として慕うものが城の大半を占めるようになった。
しかし、反シアンを掲げる集団があったのも事実だった。
「ヒヒヒヒヒ!まさか自ら国に携わろうとするなんてねぇ・・・。」
「しかし、これでは完全に砂の竜王はおしまいですよ!」
「何か手はないんですか?レーグさん。」
「ヒヒヒヒヒ!お任せを!ここまでは先代国王の筋書き通りなんですよ。」
レーグは怪しく含み笑いを続けた。
反シアンの筆頭であるレーグは、着々と手を進めていた。
砂の竜王時代を取り戻そうとするレーグ達の最終兵器は、先代国王が残した遺書にあった。
「この遺書、実は解読されてない部分があるんですよ。そこに書かれた内容と、奥さまであるイリーボア様の日記・・・この二つが私達の切り札なんですよ。ヒヒヒヒヒ!」
レーグは怪しく笑った。