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Sand Land Story 〜砂に埋もれし戦士の記憶〜  作者: 朝海 有人
第二章 眠る女王と決意の光
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怒号

「ハァ・・・ハァ・・・ローイエ・・・様・・・。」

 荒く呼吸をしながら、クピンは目の前の人物の名前を呼んだ。

「クピンちゃん、無理はしないで、ね?」

 ゆっくりと額の上にタオルをかける。

「じゃあリーグンさん、クピンちゃんの看病をお願いします。」

「はい、分かりました。」

 リーグンはローイエに小さく敬礼をした。

 そのままローイエは、クピンとリーグンに背を向けて歩き出した。

「あの・・・ローイエ様?」

 医務室を出ていこうとするローイエに、リーグンは後ろから声をかけた。

「ローイエ様・・・どちらへ?」

「・・・会いに行きたいの・・・お兄様に。」

「し!しかしシロヤ様は今!」

 慌てた様子で説明しようとするリーグンに、ローイエはゆっくりと頷いた。

「うん・・・分かってる・・・お兄様のこと・・・。」

「それならば・・・。」

「でもね!」

 ローイエはリーグンの方を勢いよく向いた。その目には、並々ならぬ決意が秘められていた。

「私・・・お兄様に話したいことがたくさんあるの!それに、聞いてなくてもいいから・・・私のお話を聞き流してくれてもいいから側にいたいの!」

 それを聞いたリーグンは、少し表情を緩めた。

「そうですね・・・ローイエ様なら・・・。」

 そして、リーグンはゆっくりと頷いた。

「ローイエ様、シロヤ様のこと・・・よろしくお願いします。」

「・・・はい!」

 頷き合う二人。そして、ローイエはシロヤの部屋に向かって走り出した。


「・・・。」

 部屋の前で、ローイエは小さく深呼吸した。プルーパと約束したものの、やはり自分のせいだという意識が強いため、シロヤに会うことを多少ためらっていた。

「・・・!」

 拳を握りしめ、ローイエはゆっくりと扉を開けた。


「!!!」


 目の前にいたシロヤの姿を見て、ローイエは脱力した。今までに見たことのないようなシロヤの姿がそこにあった。

「お兄・・・様・・・。」

 涙が目から溢れようとしてくるが、ローイエはそれを必死に止めた。今、自分は泣くべきではないと、ローイエは必死に自分に言い聞かせた。

「わかんねぇよ・・・わかんねぇよ・・・。」

 ただ呟き続けるシロヤに、ローイエはゆっくりと近づいていった。

「お兄様・・・。」

「わかんねぇよ・・・わかんねぇよ・・・。」

 ローイエの声に気づかず、ただ同じことをローイエは呟き続けていた。

「・・・お兄様、聞いて。」

「わかんねぇよ・・・。」

「私もプルーパお姉様も・・・もちろんシアンお姉様もお兄様のことが大好きなんだよ・・・それだけはわかってほしいの・・・。」

 しばらく無言になるローイエ。

「・・・それが・・・わかんねぇんだよ・・・。」

 城に来てから初めて、シロヤが違うことを口にした。次第にシロヤの声は、呟きから怒号に変わった。

「それが・・・それがわかんねぇんだよ!!!」

 抑えきれずに溢れだしたシロヤの怒りに、ローイエは思わず怯えて体を震わせた。

 シロヤの怒りはさらに強くなる。

「シアン様は・・・何がしたいんだ!俺を殺そうとしてるのか!?」

「それは違うよ!お姉様はシロヤ君と一緒にいたいから!」

「一緒にいたい!?殺してでも一緒にいたいって言うのか!?」

「そうだよ!」

 ローイエの叫びとシロヤの叫びが交差する。

「俺が嘘さえつかなきゃ・・・!ランブウさんやプルーパ様やリーグン様が傷つくことはなかったんだ!それに・・・クロトが死ぬこともなかったんだ!」

「お兄様が選んだ道なんだから間違ってるなんて思わないで!私達はお兄様を責めたり恨んだりしないんだから!」

 その言葉を聞いて、シロヤは急に黙りこんだ。

「・・・そもそも、何で俺のことを・・・。」

「お兄様がお姉様を助けたからだよ。」

 しかし、シロヤは再び頭を抱えてうずくまった。うずくまったまま、シロヤは悲痛に似た声を上げた。

「たかがバシリスク一匹だぞ・・・あんなの倒したくらいで・・・もう・・・訳がわからねぇよ・・・。」

 シロヤは次第に嗚咽を漏らし始めていた。今まで涙を流さなかったシロヤが、急に涙を流し始めた。

「・・・お兄様・・・。」

 ローイエは静かに呟いた。

「・・・私達は本当にシロヤ様が好きなんだよ?」

「信じられるかよ・・・ましてやシアン様が俺のことなんて・・・。」

「うぅん・・・絶対に好きだよ。それだけは分かる。」

「何でだよ・・・何でそう言い切れるんだよ!?」

 怒りをローイエにぶつける。ローイエはこらえていた涙をゆっくりと流した。

「・・・お兄様・・・聞いて。」

 口調穏やかに、ローイエはゆっくりと語りだした。

「お兄様・・・聞いてほしいことがあるの。」

「聞いてほしい・・・こと?」

 シロヤは顔を上げた。涙で顔をぐしゃぐしゃにしていて、髪は乱れていた。

「うん・・・シアンお姉様の話・・・五年前に起きた話・・・。」

 ローイエはゆっくりと語りだした。

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