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Sand Land Story 〜砂に埋もれし戦士の記憶〜  作者: 朝海 有人
第二章 眠る女王と決意の光
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選択

 集中治療室で、ローイエはずっとプルーパの隣で泣き続けていた。

「ごめんなさい・・・お姉様・・・ごめんなさい・・・!」

 ローイエは、プルーパが集中治療室に運ばれてからずっと、同じ言葉を呟きながら泣き続けていた。

 誰の声も聞こえず、その場を動かない。

「バルーシ!プルーパ!」

 ガラス張りの向こうから声がしたが、ローイエには全く聞こえない。そして、その言葉の後の扉を閉めた音も聞こえない。

 集中治療室の中には、ローイエの泣く声が響き続けていた。

「お姉様・・・ごめんなさい・・・!」

 泣き続けるローイエ。


スー・・・スー・・・スー・・・。


「お姉様!!!」

 何も聞こえなかったローイエの耳に響いた音。弱々しいが、しっかりと聞こえる呼吸の音。

 プルーパの呼吸の音が、ローイエの耳にはっきりと聞こえた。

「お姉様!お姉様!お姉様!」

 何度も呼び掛けるローイエ。弱々しかった音が次第に強くなっていき、それはか細い声に変わった。

「ロー・・・イエ・・・。」

 非常にか細く、弱々しい声。普段なら聞き逃してしまうような小さな声だが、はっきりと聞こえた。

「ローイエ・・・。」

「お姉様!!!」

 何かを喋りかけるように強くなる声。

「ローイエ・・・聞いて・・・。」

「お姉様!?」

 プルーパは、震える手をゆっくりと持ち上げて、ローイエの頭の上に乗せた。そして呼吸器をつけたまま、プルーパはゆっくりと語り始めた。

「私・・・夢を見たの・・・。」

「夢・・・?」

 語り出したプルーパの目には、次第に涙が溜まり始めていた。

「うん・・・シロヤ君がいなくなる夢・・・。」

「お兄様が・・・?」

「うん・・・何も言わないでね・・・一人で国を出ていっちゃうの・・・。」

「そんな!私そんなの・・・嫌だよ・・・。」

 ローイエは再び泣き出した。

「私も・・・嫌・・・かな?」

「え・・・?」

「あんなこと言ってたけどね・・・私もやっぱりシロヤ君が好き・・・シロヤ君にずっといてほしい・・・。」

 それは、プルーパもローイエも、もちろんシアンやバルーシらも思っている皆の総意であった。

「だって・・・私を命懸けで守ってくれたんだもの・・・惚れて当然よ・・・。」

 星夜祭での戦いで、プルーパに向かってきた針の壁を、シロヤは満身創痍の状態で受け止めていた。

 話を聞きながら泣き続けているローイエの頬を、プルーパはそっと撫でた。

「ローイエ・・・あなたの選択が正しいとも間違ってるとも言わないわ・・・私もシロヤ君が留まってくれたら嬉しいもの・・・。」

「お姉様・・・。」

「うん・・・だからね・・・ローイエが思うように進んで・・・。」

 ローイエが何故泣き続けていたのか。

 それは、ローイエが自ら選択した道、"シロヤを城に連れ戻す"という道が正しかったのかがわからなかったからだ。この道を選んだが故に、自分はプルーパを傷つけたのだという自責の念が、ローイエを追い詰めていた。

「ローイエが選んだ道なんだから・・・自信持って・・・ね。」

「お姉様・・・お姉様・・・。」

 どんどんと溢れてくる涙を抑えきれずに、プルーパの手を濡らしていった。

 そんなプルーパの手を、ローイエはぎゅっと握った。

「お姉様・・・私やっぱり・・・お兄様と一緒にいたい!」

「私もよ・・・ローイエ・・・。」

 涙を流しながら、プルーパは精一杯の笑顔を浮かべた。それに答えるように、ローイエもぼろぼろと涙を流しながら笑った。

「お姉様・・・私・・・お兄様が大好き!」

「私も大好き・・・だから・・・今はシロヤ君を気にかけてあげて・・・ね。」

 プルーパは最後に小さくウィンクをして、再び目を瞑った。

「う・・・うぅ・・・うわぁぁぁぁぁん!!!」

 ローイエはプルーパの手を握りながら、ただひたすらに泣き続けていた。


「お姉様・・・。」

 ローイエは立ち上がって、プルーパの頬を軽く撫でた。これがローイエなりの、プルーパへの決意表明だった。

 まだ流れてこようとする涙を抑え、ローイエはゆっくりと集中治療室を後にした。

「・・・!」

 集中治療室を出て一番最初に目に映ったのは、誰かがふらふらになりながら医務室を出ていく姿だった。

「・・・クピン・・・ちゃん!?」

 医務室に運ばれて寝ていたクピンが、ベッドから降りて医務室を出ていこうとしていた。

「クピンちゃん!無理しちゃ!」

 ローイエの声を聞かず、クピンは医務室を出ていった。

「クピンちゃん!」

 慌ててローイエはクピンを追いかけた。

 ちょうど曲がり角を曲がろうとした時、クピンは急に立ち止まった。

「何で・・・寝てないんですか!クピンさん!」

 見ると、同じく曲がり角を曲がろうとしたリーグンが立っていた。

 ローイエはすぐさまクピンに駆け寄って、肩を貸してあげた。

「クピンちゃん・・・無理はしないで・・・。」

 ローイエはゆっくりと医務室へと向かった。

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