復帰
レジオンとクピンが看病を続けて、さらに一日が経った。
依然、シロヤもシアンも食事を口にせず、二日前に比べて痩せこけていた。
「・・・シロヤ様、今日の昼食です。」
クピンは二日間、欠かさず三食をシロヤに届けていた。毎回来ても無くなっていない食事を下げ、新しい食事を持ってくることをずっと続けていた。
「シロヤ様、お体に障ります。少しでもいいので召し上がってください。」
しかし、シロヤはその場を動かずに、ただずっと呟いていた。
「わかんねぇ・・・わかんねぇよ・・・。」
シロヤはただ、同じことをずっと呟き続けていた。
そんなシロヤを見ながら、クピンは涙をこらえて部屋を後にした。
「・・・失礼しました。」
クピンは悲しそうな顔をしながら、シロヤの部屋を離れていった。
集中治療室の前で、レジオンは手を組んで座り込んでいた。
「・・・。」
バルーシとプルーパが運ばれてきてから丸一日が経った。手術自体は終わったものの、まだ医者と僧侶が側についていなければ危険な状態だった。
「・・・。」
レジオンは、集中治療室からの報をずっと待っていた。かれこれ五時間は待ったであろうか・・・。
その時・・・。
「!」
集中治療室のドアが開き、中から数人の医者と僧侶が一斉に出てきた。
レジオンはすぐさま立ち上がった。
「バルーシとプルーパの容態は!?」 掴みかかるように前に出るレジオンに向かって、一人の医者が首を縦に振った。
「・・・そうか!」
城に来てから初めての笑顔を浮かべ、レジオンはすぐさま集中治療室の中に向かっていった。
「バルーシ!プルーパ!」
ガラス張りの向こう側から叫ぶ。
バルーシの切り落とされた腕はしっかりと結合されていた。
対してプルーパは、あらゆる箇所に包帯が巻かれていて、口には呼吸器がつけられていた。
その傍らには、プルーパのベッドの側で泣き続けているローイエがいた。
「お姉様・・・ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・!」
泣き続けながら、ローイエは昨日からずっと同じ言葉を呟き続けていた。
「・・・。」
その光景を見て、レジオンは無言のまま集中治療室を後にした。
「レジオン様・・・どうでしたか?」
集中治療室前にいたクピンが心配そうな声で話しかけた。レジオンは無言のまま、ゆっくりと首を縦に振った。
「・・・!」
クピンも同じように笑顔を浮かべたが、すぐさま表情を変えた。
「まだ・・・目覚めないんですね・・・。」
クピンは、レジオンがなぜ無言だったのかが分かり、浮かべていた笑顔をすぐさま暗くした。
「気長に見ていこうぜ・・・。」
それを聞いて、クピンは軽くうなずいて医務室を出ようと走り出した。
その瞬間・・・。
バタッ・・・。
「クピン!」
レジオンが叫ぶ。その先にいたのは、走り出した瞬間に前のめりに倒れたクピンの姿があった。
すぐさまレジオンはクピンに駆け寄った。
「おいどうした!クピン!」
激しく呼吸をするクピン。レジオンはクピンの額に手を置いた。
「熱っ!」
クピンの体は高熱を出していた。息を荒くしていて、手足を動かすのがやっとな程に弱っていた。
「ハァ、ハァ・・・シロヤ様の・・・看病を・・・ハァ、ハァ。」
レジオンから離れ、フラフラになりながら医務室を出ようとするが、足はまっすぐ前にいかず、壁に何回も激突しながら部屋を出た。
「おいクピン!無理するな!」
医務室を出ると、クピンは医務室の前で前のめりに倒れていた。
「ハァ、ハァ、シロヤ・・・様・・・!」
うわ言のように呟くクピンを抱えあげ、レジオンは医務室へと引き返した。
「・・・とりあえず落ち着いたか。」
クピンを医務室に寝かせたレジオン。レジオンらしい荒い応急処置だが、楽になったのか、クピンの荒くなっていた呼吸は収まり、静かに寝息を立てていた。
「無理しすぎだぜ・・・。」
レジオンは近くにあった椅子に腰掛けながら呟いた。
「これで・・・前線に出れるのは俺だけになっちまったな・・・。」
クピンが倒れたため、看病や事後処理をすることができるのがレジオンだけになってしまった。
「やれやれ・・・。」
ため息混じりに呟くと、誰かが医務室に入ってきた。
「レジオンさん・・・。」
「ん?お前・・・。」
レジオンはやって来た人物を見て、驚いたような表情を浮かべた。
「やはり・・・状況は芳しくないようですね・・・。」
「ていうか・・・何でお前歩いてるんだ?」
レジオンはやって来た人物を不思議なものを見る目で見つめた。
「あぁ、僕だったら大丈夫ですよ。傷はもう塞がりました。」
そう言って、やって来た人物―――リーグンは腕を巻くって見せた。まだ包帯は巻かれてはいたが、血は出ていない。
そして、リーグンは表情を引き締めて言った。
「僕はお二人の看病をしますので、レジオンさんは事後処理をお願いします。」