治療
「バ!バカかお前は!!!」
レジオンはすぐさまバルーシに駆け寄る。右腕があった部分からどんどんと血が流れていき、土を真っ赤に染め、血の臭いを強烈に放っている。
「忠義を守れぬ腕など・・・不要・・・ぶ・・・つ・・・。」
そう呟き、バルーシは目を閉じた。
「畜生!!!」
レジオンはバルーシの腕を縛り、切り落とした右手を広い、さらにバルーシを背負って走り出した。
「くそ!一体・・・何が起こってるって言うんだ!!!」
身の回りで色々なことが起きすぎていて、レジオンは混乱していた。しかし、そんなレジオンの言葉を、森が嘲笑うかのようにかき消した。どこにも響かないレジオンの叫びは、ただむなしくレジオンの周りに響くだけだった。
・・・・・・・・・。
・・・・・・。
・・・。
「失礼します・・・。」
一つの部屋に入る。その部屋の先にいたのは、動かずに何かを呟いているだけの存在となったシロヤだった。
そんなシロヤに、クピンは持っていたトレイの上の食事を置きながら、ゆっくりと話しかけた。
「シロヤ様・・・朝食の用意ができました。」
しかし、シロヤは動かない。それを見て、クピンは寂しそうな表情を浮かべた。
「・・・お体に障りますので、せめて果物の一つは召し上がってください・・・トレイはまた後程、取りに伺います・・・。」
クピンはゆっくりと部屋から出ていき、扉を閉める前にシロヤに向かって頭を下げた。
「・・・失礼します。」
「・・・どうだ?」
シロヤの部屋の前にいたレジオンの問いに、クピンは無言で首を振った。
「・・・そうか。」
暗い表情をするレジオン。二人の間に重い空気が流れた。
「・・・シアン様も以前、部屋から出ていません・・・もちろん食事も・・・。」
あの小屋での一件から、ちょうど一日が経った。
シロヤは以前変わらずに、まるで人形のように動かない。
そんなシロヤを見たシアンも、あれから部屋に出てこない。
「シロヤをあんなにしたのが自分のせいだ・・・っていう罪の意識から塞ぎこんじまったのか・・・。」
レジオンは歩きだした。その後ろをクピンがついていく。
向かったのは医務室だった。医務室の中は、たくさんの医者や僧侶が忙しそうに走り回っていた。
そんな医務室の奥の二つのベッドに、特に人がごった返していた。
「大丈夫なんでしょうか・・・。」
クピンが心配そうに二つのベッドに横たわっている二人、リーグンとランブウを見た。
ランブウは剣での切り傷が身体中に刻まれていて、僧侶が治癒魔法で小さな傷口を治していた。
一方リーグンは、矢で貫かれた傷を医者が必死に処置していた。
「あぁ、あいつらの腕を信じようぜ。」
そう言って、レジオンは医務室のさらに奥に向かって歩きだした。
「それより心配なのは・・・。」
レジオンとクピンは、目の前の大きな扉を開けた。
「ローイエ様・・・?」
大きな扉の先の部屋はガラス張りで、さらに向こう側の部屋が見えるようになっていた。
「・・・ずっと・・・ローイエはあの状態か・・・。」
ローイエは、向こう側が見えるガラスをずっと見つめていた。
「ごめんなさい・・・お姉様・・・ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・。」
向こう側を見ながら、ローイエはずっと呟いていた。
「どうだ・・・?」
レジオンは近くにいた医者に話しかけた。
「・・・輸血は間に合いましたが・・・お二人とも、特にプルーパ様は非常に危険な状態です。」
医者は無表情のまま答えた。
この部屋は集中治療室。特に腕のある医者と僧侶のみが治療を行う場所であり、危険な状態の患者が集まる場所だ。
今集中治療を受けているのは、バルーシとプルーパだ。
バルーシは自らの右腕を自分で切り落としたことによる大量出血と、傷口からの感染症の治療。そして、切断された右腕の結合手術が行われていた。
プルーパは、ローイエとの戦いによって受けた傷の治療が行われていた。しかしその傷は想像以上に深く、箇所が多かった。「ローイエ様も・・・罪の意識でしょうか・・・?」
「・・・かもな。」
またもや二人の間に流れる重い空気。その空気を引きずったまま、二人は集中治療室を後にした。
レジオンとクピンは、長い城の廊下を歩いていた。
「今・・・シロヤ様やシアン様の看病をできるのは・・・私とレジオン様だけになりましたね・・・。」
「あぁ・・・。」
二人はまだ重い空気を背負っていた。
そして二人が着いたのは、シアンの部屋の前だった。シアンの部屋の前には、クピンが置いた朝食があった。
「やっぱり・・・目を覚まさないのか・・・。」
レジオンが呟くと、クピンは食堂に向かって走り出した。
「私、替えをお持ちしてきます!」
小さくなるクピンの背中を見ながら、レジオンは捨てる予定のシアンの朝食のサンドイッチに手を伸ばした。
「・・・固いな。」