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Sand Land Story 〜砂に埋もれし戦士の記憶〜  作者: 朝海 有人
第二章 眠る女王と決意の光
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忠義

 クピンは怯えながら、小屋の外に目をやった。そこにいたのは、レジオンに向けて弓矢を構えるシアンの姿があった。

「シアン・・・様・・・。」

 シアンの凄みに怯え、腰を抜かして座り込むクピン。その前に、レジオンが立ち塞がった。

「レジオン・・・貴様・・・邪魔をする気か!」

 シアンはすぐさま矢を構えた。


「シアン様!」


 突如、シアンの横から声がした。

 見ると、シアンを固めるように兵団の兵達、そしてバルーシが現れた。

「シアン様!これ以上城の者達を傷つけてはいけません!」

 バルーシがシアンに指摘すると、シアンは構えていた弓矢をバルーシに向けた。

「貴様・・・私に指示するのか?」

 シアンは今にも矢を放たんとしている。額に汗を浮かべながらも、バルーシはその場を動かなかった。

「これ以上傷つけては、今後の国事に支障を来す可能性があります。」

 その場に緊張が走る。

「ただでさえ国士を二人も失い、暗殺事件の事後処理などもこなさなければならない今、レジオンさんやクピンさんを失っては国事が滞ってしまいます。」

 何とか説得しようとしているバルーシ。

 しかし、レジオンが反応したのは言葉の中にあったある一文だった。

「おいバルーシ、国士を二人失ったってどういうことだ!」

 レジオンが大剣を振り上げて構えるが、バルーシはレジオンを無視するかのように視線を外した。

「シロヤ様の方は我々兵団にお任せください。必ずや城にお戻しします。」

 シアンに向かって敬礼するバルーシ。

 それを見て、シアンはゆっくりと弓矢を下ろした。

「うむ・・・ならば任せよう・・・。」

 バルーシから視線を外し、レジオンの方に視線を向けた。

「あのお方はどこだ!」

 シアンはレジオンの言葉を聞く前に、割れた窓から小屋に入った。

「・・・!!!」

 シロヤを探すシアンは、ベッドに視線を向けた瞬間に固まった。

「あ・・・あぁ・・・。」

 シアンの目に映ったのは、自分を助けてくれた時の面影を一切無くしたシロヤの姿だった。

「あぁ・・・シロヤ・・・シロヤ・・・!」

 名前を呼びながらシロヤに寄る。動きが次第におぼつかなくなり、最後は倒れるようにシロヤに寄り添った。

「うぅ・・・!うぅ・・・!」

 寄り添って号泣するシアン。誰の声も届かずにただ泣き続ける。しかし、そんな泣き声もシロヤには届かなかった。


「バルーシ・・・さっきの話を聞かせてもらおうか!失った国士は誰なんだ!」

 レジオンがバルーシにつかみかかる。苦い顔をしながら、バルーシは重い口を開いた。

「ランブウさんと・・・プルーパ様です・・・。」

「何だと!?」

 今にも殴りかからんと詰め寄るレジオンに、バルーシはさらに表情を暗くした。

「ランブウさんは私達兵団との戦いで軽症で済みましたが、国事をするのには無理があります・・・。」

 そしてバルーシは、表情をまたもや暗くした。

「プルーパ様は・・・ローイエ様との戦いで・・・。」

 そこまで言って、バルーシは口を閉ざした。

「プルーパがローイエと戦ってなんだってんだ!言え!」

 バルーシを睨み付け、つかみかかっていた手の力を強めた。しかしバルーシは、口を開かずに口を閉ざし続けた。

「バルーシ・・・てめぇ・・・!」

 殴りかかろうとしたバルーシの手を、バルーシはしっかりと掴んだ。

「もう・・・いいでしよう!」

 レジオンを振り払い、兵団に向かって右手を上げた。

「この小屋にいる人間全てを城に連れていってください!」

「はっ!」

 兵達がバルーシに向かって敬礼すると、一斉に小屋へと入っていく。

「やめてください!離してください!」

 兵がクピンを抱えて城に向かっていくのに続き、リーグン、シアン、シロヤを抱えた兵も城に向かっていった。

「おいバルーシ!」

 またもや掴みかかろうとするレジオンをバルーシが制した。

「わかっていますよ・・・これが正しい道ではないことを・・・。」

 震えながらバルーシは叫んだ。目には涙をうっすらと浮かべていた。

「俺は兵団長・・・女王に忠義を誓った者なんです・・・。」

 右手を上げたまま、腰にかけてた剣を抜き、高く振り上げた。

「だから・・・!女王の意思に反する考えを持ってはいけないのです・・・!」

 カタカタと震えながら、バルーシはさらに言葉を続けた。

「だから・・・シアン様のやっていることが正しい道ではないと思った時点で・・・忠義に反しています!」

「おいバルーシ・・・。」

 レジオンがバルーシを見て固まる。今からバルーシが何をしようとしているのか、全くわからなかった。

「忠義に反するのは騎士、兵団長としての恥・・・ならば!」

 バルーシは剣を持っていた左手に力を込めた。

 そして・・・。


「!!!」


ぼとっ!


「うぅぅ!!!」

 一瞬の静寂が二人を包む。

 静寂の中で二人の間にあったのは、おびただしい量の血と、バルーシの右腕だった。

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