小屋
レジオンは、小屋の扉をゆっくりと閉じた。
小屋の中はそれほど広くはないが、必要最低限の生活をするには充分な物が一通り揃っていた。しかし、長く使ってないのだろうか、大半の物が埃を被っていた。
レジオンは、背負っていたシロヤをベッドに横たわらせた。しかし、シロヤは何かを発することもなく、何も映らない瞳のままで動きを止めていた。
シロヤを見つめる二人。
「一体・・・何があったんですか?」
シロヤを見つめながらクピンが訪ねた。
「・・・。」
少し黙ったのち、レジオンは口を開いた。
「クロトが・・・滝壺に落ちちまったんだ・・・。」
「!」
クピンは絶句した。
「そんな・・・!シロヤ様とクロト様は兄弟同然の存在なのに・・・。」
シロヤはまだ脱け殻のように横たわっている。それを見ながら、レジオンは唇を噛み締めた。
「もう少し・・・俺がもう少し早く来ていれば・・・!」
クロトも一緒に助けられたかもしれない。その言葉を発する前に、レジオンは強く握った拳を地面に叩きつけた。
「くっ・・・俺がもう少し・・・。」
自分を攻め続けるレジオン。その横では、クピンがシロヤとレジオンをずっと見つめていた。
「・・・シロヤ様・・・。」
名前を呼んでも、ベッドの上のシロヤは反応しなかった。
・・・・・・・・・。
・・・・・・。
・・・。
大分時間が経っただろうか。
レジオンは何とか立ち直ったものの、シロヤは以前目を覚まさない。
「まだ目を覚まさないか・・・。」
「はい・・・食事も口にしません・・・。」
今だ目を覚まさないシロヤの額に、そっと手を置くクピン。
「あぁ・・・どうにかしないと・・・時期に見つかっちまう・・・。」
この小屋は、滝からかなり離れた所にある。しかし、いつかは兵団がここまでやってこないとは限らない。
そっとレジオンは、壁にかけてあった大剣に手をかけた。
「いざとなれば・・・戦うしかないか・・・。」
レジオンは大剣を構えた。
「!」
突如、レジオンが動いた。体制を低くし、今にも大剣を振り下ろさんとばかりに構えた。
「クピン!隠れてろ!」
クピンはすぐさま、小屋の奥に身を隠した。
ゆっくりと扉が開いていく。レジオンは額から汗を一滴流しながら、相手が現れるのを待った。
「・・・・・・・・・・・・・・・!」
扉が開き、人が入ってきた。それを見た瞬間、レジオンは戦闘体制を解いた。
入ってきた人物は、杖を持った緑髪の男だった。
「リーグン・・・。」
リーグンはゆっくりと小屋に入り、ゆっくりと扉を閉じた。
そして・・・。
「・・・・・・・・・。」
「リーグン!」
リーグンは、レジオンの前で前のめりに倒れた。
レジオンがリーグンに駆け寄ると、小屋の床が赤く染まっていた。
「リーグン様!」
すぐさまクピンが飛び出し、リーグンをもう一つのベッドに寝かせた。
クピンはすぐさまリーグンの服を脱がして、薬を取り出した。
「・・・っ!」
リーグンの体に刻まれていた傷。数は少ないものの、その一つ一つが深く、そこからさらに血が流れている。
「リーグン・・・まさかシアンと戦ったな?」
リーグンの傷口を見たレジオンが、驚いたように言った。
リーグンの傷口が弓矢によるものだというのを、レジオンは瞬時に理解した。しかし、リーグンにここまで深い傷を与える弓矢使いは、シアンしかいない。
「シアンと戦うなんて無茶しすぎだ・・・俺でさえ勝てないかもしれないのに・・・。」
シアンの強さは、バルーシやプルーパはおろか、レジオンやランブウですらも凌駕する。それを知っていながら、リーグンはシアンと戦ったのだ。シロヤを守るために・・・。
「うぅ・・・。」
小さく声を上げるリーグン。クピンはリーグンに応急処置をしていた。
「シアン・・・本気でヤバイみたいだな・・・。」
応急処置を終え、リーグンは眠りについた。
「もうちょっと遅ければ・・・輸血が必要でした。」
「ギリギリセーフってところか。」
リーグンとシロヤを見つめる二人。
「シアン様・・・私達を殺すおつもりなのでしょうか・・・。」
心配そうに呟くクピン。
「・・・心配するな。信じるんだよ、仲間を・・・シロヤもな・・・。」
その言葉に、クピンは安心した顔を浮かべた。そして、レジオンも少し微笑んだ。
「!!!」
レジオンの表情が一変する。すぐさま大剣を手にしようとする。
「!?」
小屋の中にいた二人は、今起きた現象を理解するのに時間がかかった。
ただ単に窓ガラスが割れた、それだけの現象だが、レジオンは隙を作った。
ヒュン!
「うぁっ!」
レジオンが腕を押さえてしゃがみこんだ。見ると、レジオンの腕には矢が刺さっていた。
「ぐっ・・・速すぎだぜ・・・。」
レジオンは苦痛の表情を浮かべながら立ち上がり、大剣を手にして戦闘体制をとった。